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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
37/54

第35曲:MASK

 上層階の一室。

部屋の中は、何やら高級そうなレース随所にあるゲストルームかなにか。

天蓋付きのベッドと、デカいクローゼット以外は、特に目につくものは何も無い。

荷物をベッドと一体化したサイドテーブルに置いて、一息。

脳内で、建物と部屋の位置を思い浮かべる。


「階段の長さからして、そんな高い位置じゃねぇよなぁ。」


 この城、外見とは違って、天井を低くしてフロアを多めにしてるっぽい。

今いる部屋の位置だって、中二階ってヤツ。


「初めまして、私がこの領を任されているデトビアよ。」


「え?」


 突然、開け放たれた扉から現れた女性。


「そのお声は、領主様は女性でいらっしゃるんスか?」


 声を聞いて、ワンテンポ遅れてから顔を向ける。

くぅ~、この設定、もーヤだ。


「あら、知らなかったのかしら?」


 スフィールさんと同じような金髪と蒼い瞳に白い肌。

ただスフィールさんと違うのは、彼女よりスタイルが良くて背が高い。

恐らく、年齢も高い。

熟女までとはいかないが、多分30代後半はいってる。

まぁ、権力者ってのは政治もするんだから、完全な世襲でない限りは、そこそこの経験とか知識とかが必要になるもんな。

必然的に平均年齢は上がるってなもんだ。


「はい。」


「そうあなたには外見は関係ないものね。早速だけれど、私にもあなたの治療をしてもらおうかしら?」


「私なんかがっスか?!」


 俺の横を通り過ぎ、強い香水の匂いを振り撒きながらベッドの横まで来ると、背を向けて徐に服を脱ぎ始める。


「なんでも女性の美容にいいのでしょう?」


「え、あ、はぁ、まぁ。」


 今日の女性客にしたスペシャルマッサージのコトだ。

それがもう広まってる?

彼女の情報収集能力なのか、実はすこぶる評判がいいのか・・・。

あ、お客の誰かが彼女の部下というのもあるなぁ。


「それをお願いできるかしら?」


 完全にマッパになると薄いシルクの掛け布団を身に巻き、大きく背中だけを出してベッドに横たわる。

拒否権は・・・ないよなぁ。


「かしこまりましたっス。」


 持って来た荷物から、小瓶を幾つか取り出す。


「あの、お湯と身体を拭く布をお願いできるっスか?」


「それは?」


 俺の取り出した小瓶の中身が気になるようで、デトビアさんが凝視してくる。


「肌に良い香油っス。」


 女将さんに頼んで集めてもらったヤツを混ぜ合わせたモノだ。


「中身を聞いても?」


「あ~、植物性の油と蜂蜜。そして、とある果物の果汁です。」


 果汁は柚子とオレンジのあいの子みたいなヤツだ。


「そう、そんなものが・・・。」


「肌を温めながら揉むと、肌がスベスベになって、引き締まったカンジがするっス。」


「それは楽しみ。スフィール、私は飲み物を。」


「はい。」


 一々言動がエロス。

溢れるくらいのエロスが誘っている。

俺には年上過ぎて、アレだが。


「それでは。」


「あんっ。」


 香油をうつ伏せになっている彼女の背につけると、これまたエロい吐息が漏れる。

この人、本当に領主なのか?


「それにしても綺麗な肌っスねぇ。」


「あら、解るのかしら?」


 目が見えなくても。

そういうコトだ。


「そりゃあ、仕事っスから。肌を触っただけで年齢が当てられるくらいっス。」


 なワケねぇけど。

ここは、な?


「あら、じゃあ当ててみる?」


「私の姉ちゃんと同じくらいっスかねぇ。」


 いねぇけど。

いるのは弟だけど。


「お姉さん?お姉さんは幾つなの?」


「8つ上っスから、24才っスかね。」


 言ってて頭痛くなってきたわ。


「うふふ、またそんなお世辞。」


 明らかに機嫌が良くなってんな。

自分でも露骨かなぁ~と、思ってたんだが。

ま、こういう時は擂れるだけ、ゴマを擂っておこう。


「違いましたか?いやぁ、あまりにも素敵な肌触りだったもんっスから。てっきりそれくらいかと。」


「あなたの黒髪も綺麗よ?」


 妖艶なフェロモン出まくりで応える。

見えない俺にそんなのを出す必要性あんだろか。


「またまたご冗談を。この黒髪はただの田舎もんの証拠っスよ。」


 この地の人間で、黒髪は見かけないらしいからな。


「うふっ、私は好きよ?」


 微笑むデトビアさん。

俺、ナニ?喰われる?喰われちゃったりする?

精神力を削られ(?)蝕まれながら、首から始まって下へと向かってマッサージ。


「デトビア様?」


「なにかしら?」


「最近、何処かお怪我なさったっスか?」


 微かに、ほんの微かに、俺の指に小さなシコリのようなものが点線状に続いてるのを感じる。

表面的には目立った外傷のような異常があるようには見えない。

あくまで感触だ。


「あ、すみません。目が見えないもので、気になるとつい聞いてしまうのがクセなんっス。お気になさらないでくださいっス。」


 今、一瞬、一瞬だけ彼女の瞳に光が宿った。

良く解らんけど、多分、あれは殺意っつーヤツなんだろうなと・・・。

う~ん、アレを感じ取れないと、この先死ぬワケか・・・。

逆に言えば、アルム達はアレを敏感に感じ取って、瞬間的に反応できるってコトなんだよな。


「大丈夫よ、多少の怪我なんて、ウチの治療士は優秀だもの。」


 あぁ、やっぱりここにいるのか。


「それはそれは。じゃあ、私の技術なんて足元にも及ばないっスね。」


「そんなコトないわ。美は女性の永遠の課題にして命題だもの。」


 なるほど・・・ね。

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