第34曲:足跡
「あの?」
「なんでしょう?」
スフィールさんと一緒に宿を出て、徒歩で移動し始めるも、話題が無い。
「恥かしくないっスか?」
「いいえ。」
会話がこう、終始単調なうえに、スフィールさんの無表情っぷりがなんとも。
しかも、俺、今スフィールさんと手を繋いで歩いてます・・・はい。
「あなたは目が悪いのだから、この方が安全です。」
「確かにその通りです。」
つまり、手を引かれる形で誘導。
お陰で、前を歩く彼女の後ろ姿をじっくり観察できるワケだ。
ちなみに彼女は、後ろ髪が非常に長く腰近くまである。
それを一つに束ねているのが、服のレースと同じ素材、模様の髪留め。
彼女の歩みに合わせて左右に揺れている。
「私から一つ宜しいですか?」
「なんでしょう?」
余りに無表情過ぎて、尋問されている気分です。
「あなたは、金銭に執着はないのですか?」
「は?」
そんなに俺、がめつく見える?守銭奴?
でも、貧乏は誰でもイヤじゃん?
「宿の女将の取り分の話と、私の主を聞かない事と。」
「あぁ、元々、宿に来る客の取り分の内訳けはそう決めてあったっスからね。それに正直言って、スフィールさんの仕えてる人の名前とか身分に興味はないっス。」
「どうしてですか?」
を?
会話が珍しく続いてるぞ。
彼女主導だからか?
「お客さんには変わりないっスから。それに、もし断ったら"スフィールさんが叱られる"ってのも困るっス。」
夜中に人を呼びつけるっていう時点で、タカが知れている。
「・・・優しい・・・ですね。」
「どうっスかね。」
今、少しだけスフォールさんの背に感情・表情があったような。
「人と会う、関わるのは嫌いじゃないっスから。ほら、例えばスフィールさんの声とか。」
「私の声?」
「透明感があって、とても綺麗っス。きっととても美人さんなんだろうなぁとか、旦那さんの愚痴を言う奥さんの声で、こんな表情してるのかぁとか、兵士さんはこんなかなとか、考えながらの仕事は楽しいっスよ?」
ぶっちゃけ、スフィールさんは、とても肌が白くて綺麗な人だ。
エルフの肌の白さと遜色ないくらい。
・・・あぁ、無表情さを除けばね。
「・・・そうですか。ありがとうございます。でも・・・。」
「?」
「私は、決して綺麗なんかではないです。」
いえいえ、見えてますから、充分美人さんです。
あなたが美人さんじゃなければ、俺のクラスメイトの女子の7割以上はブス認定されてしまいます、アーメン。
しかし、なんだろうな、元々無表情ってワケじゃないんだな。
それに言い方がなんか引っかかる。
・・・その辺、これから探れるかな?
「こちらです。少し道が細いので、左右の壁にぶつからないよう。」
「あ、はいはい。」
そう言うと、スフィールさんと俺は、さっきまで歩いていた大通りから外れ、狭い路地に入る・・・んだが・・・。
「随分と歩くっスね。これだと街外れまで行けるくらいの距離は歩くような・・・。」
外れは外れでも、大通りから見て斜め前方にね、その、デッカイ城があるんだが・・・どうしよう・・・。
ちょっとヤバめの汗が出てきそう。
「そうですね、見えないのですから、ここが何処かくらいは言わないといけないですね。我が主は、この街で領主をしていますデトビア様です。」
どう考えてもヤバい展開ですね。
どうしたものかと考えても、どんどん城に近づいている。
今更断るのも失礼だしな。
権力者に目を付けられると、ロクな事がない。
流石に会って、治療士の事を直談判するなんて危ない橋を渡るつもりはない。
アルムとアンソニーがいないという戦闘力は皆無な状況だけれど、情報収集のチャンスとしては最高だ。
ハイリスク・ハイリターンの言葉の通り、ここは腹を括っていくしかないな。
「どうしました?」
おっと。
「いえいえ、なにやら路面もデコボコして歩きづらくて・・・。」
目が見えなくても、この暗闇の細道は歩きづらい。
普段は、人が通らないのだろうか?
「デトビア様の遣いです。ご苦労様。」
城の横合い辺りに裏口(?)と兵士姿の二人。
スフィールさんの言葉に敬礼で応えている。
見張りは・・・二人か。
中はどうなんだろうな。
「どうぞ、お入り下さい。」
大きな裏口の門の横に備え付けられた小さい木戸。
兵士の一人がその扉を開いて、俺達を促す。
扉は建物に直通しているらしく、中に入るとぼんやりと照らされた石畳。
中にも兵士が一人。
「ここも歩きにくそうっスね?先程と大分違う気が・・・もうお屋敷の中っスか?」
・・・いつかボロが出るな、コレ。
「えぇ。」
「その割りには、人の気配がないっスね。」
「こちらは使用人や商人等の通用門から入ったところです。正門はもう閉まっている時間なので。」
「なるほど。」
歩いてすぐさまT字路。
そこを左へ曲がる・・・。
「ん?」
「まだ何か?」
「いえ。」
なんだろう、この匂い・・・。
果物のような匂いと、カビ臭さ?
あと、何か鉄のような・・・。
石造りの城の普段使わない通路だからだろうか、なんとなく湿気まみれの陰気くさいカンジ。
あれ?
でも、使用人も商人もここを使うって言ってたよな?
きっと上階とか正門側と全然違うんだろうなぁ。
ほら、権力者って見栄っ張り多いじゃん?
て、偏見か。
同じレベルの権力者や、それ以上の権力者を招く事もあるだおるし、こんな匂いを城全体で許容できるとは思わないんだけど・・・。
スフィールさんは何の疑問も違和感も感じないみたいに、前へと進んで行く。
というコトは、この場所のあの匂いは、普段からあんなもんで、普通ってコトか・・・。
人間、自分の匂いと普段から感じている匂いには、ある程度鈍感になるもんだ。
ペット臭とかがいい例。
「ここでお待ち下さい。」
T字路を左に曲がってすぐの階段を上がると、その匂いはしなくなった。
寧ろ、フローラルな匂い。
そのまま、階段を上がってすぐ近くの部屋に通される。
どうやら、ここに領主・・・デトビアさんだっけか、その人を連れて来るらしい。
呼びつけといて待てというのも、アレだよな、典型的な権力者?(偏見)
ま、ここは、だ。
「了解っス。」




