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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
35/54

第33曲:労働賛歌。

「今日も一日お疲れ様でした、と。」


 今日は女将さんの紹介のせいか、なかなかの売り上げだった。

まぁ、4割女将に還元しているんだが・・・。


「ちと、ヤバいか?」


 売り上げの事じゃない。

実は今日の売り上げで・・・・・・明日の分の宿泊料金を支払い終わってしまった。

なんというクオリティ!

俺様、カリスマ伝道師になれる?ゴットフィーンガー?

右手光るかな?

これで稼いでいけそうだぜ。


万歳マンセー!じゃねぇや。」


 部屋で一人奇声を上げるなんて、アブないヤツ以外の何者でもないな。

そう、一人なんだよ。

もう既に夜も更けてきているのに。

さっきのヤバいとは、そういう意味でだ。

未だに二人が部屋に戻ってきていない。

一度帰ってきた気配も見る限りない。


「捕まるようなヘマは・・・しねぇよなぁ。」


 アンソニーはアレだけど、アルムはそんな事にはならないだろう。

最低、どちらか片方でも逃げられる手を打つと思う・・・多分。

それか、何とかして俺に連絡・伝言をつけようとするだろう・・・これも多分。


「だとしたら、大人しく待つか否か・・・。」


 翌日、何だかよく解らない状態で俺が捕まるという展開はだけは勘弁願いたい。

かといって、このままでいいのかというのも・・・。

もう少し待って、事態が好転しなかったら、俺が動く事も考えないとな。


「て、いうか、最初の目的は治療士を連れて来るじゃねぇのかよ、ったく。」


 時間だってそうあるものじゃない。

早く戻れればそれにこした事ないんだし・・・穏便にコトが済むなら、その方がいい。

一番良いのは、穏便に治療士とやらに来てもらって、稼いだ分と手持ちの金で馬を買って、時間短縮しつつ、猛ダッシュで帰る。

うん、これだ。


「お客さん、まだ起きてるかい?」


 大まかなプランを考えてる俺の部屋の扉をノックする声。

この声は例の女将さんだ。

何の用だろう?

夕食は摂ったし、今日の上がりは納めた。

計算間違えたのかな?


「どうかしたんスか?」


 とりあえず下男風(?)のキャラで応対。

扉は開けずに杖代わりの木刀を手に取る。

こういうパターンってドラマでよくあるよな?踏み込まれる直前とかで。


「いいから、ちょっと顔を出しとくれよ、大変なんだ。」


 大変?

嫌なパターンフラグですかね?

でも、それだったらわざわざ先に大変とか言わないか。

いつでも木刀で迎撃出来る態勢を取りつつ、静かにゆっくりと扉を開ける。


「あぁ、良かった。」


「どうしたんです?」


 血相が変わってる。


「ちょ、ちょっと急なお客さんが来たんだよ!」


「急な客?」


 女将さんの上得意かなんかだろうか?

それも大口の・・・パトロンとか?


「でしたら、この部屋で・・・。」 「そうじゃないんだよ!」


 じゃあ、なんね?


「私がお話しをします。」


 女将さんの横合い、扉の影から割って入る女性。

金髪に蒼い瞳。

その蒼い瞳と同じように目の覚めるような光沢のある蒼いドレス。

襟と袖口には白のレースがあしらってある。

長い金髪を後ろで一束にまとめて留めた知的な女性。

細長い瞳は・・・知的というより無表情だな。

にしても、睫毛が長い。

って、おっとまじまじと見つめるとこだった。

俺は盲目、俺は盲目・・・よし。


「えぇと・・・この声は、どなたです?」


 声で初対面ですよねーと、おおげさにアピール。


「お話し通り、目が不自由なのですね。」


「はぁ、一応、視線は声を発する口元方向辺りに向けるようにしてるつもりなんスけど・・・。」


 更に念を押してアピール。


「初めまして、私はスフィールと申します。」


「スフィールさんですか?こんな夜中に私に何の用スかね?」


 このキャラ・・・疲れてきた。

自分で始めたんだけどね。

佇まいといい、面倒くさい程の礼儀正しさといい・・・いいトコロのお嬢さんというとこかな?

無表情なのが少し引っかかるけど。


「実は、あなたの噂を我が主が耳にしまして、是非にと。」


「私にっスか?」


 主って事は、スフィールさんとかいうこの女性は、その主って人の命令でここに来て、その人の部下みたいな地位にいるってコトか。

使用人かなんかかな?


「えぇ。何でも、あなたの腕は、疲れやコリをほぐして、身体に非常に良いと。」


 いや、別に特殊な訓練は受けていないのですが・・・どうしたもんかな。


「勿論、料金はきちんとお支払い致します。こんな夜分に訪れたのですから、通常の・・・30倍で如何ですか?」


「さっ、30倍・・・。」


 スフィールさんの言葉に俺じゃなくて、女将さんが反応する。

まぁ、安いったって、単純計算30人分マッサージした事になるしなぁ、気持ちは解らなくもない。

根っからの商売人だね、この人。


「料金はさて置いて・・・女将さん、連れに私がそういう理由で外出したって伝えてもらえるっスかね?」


 でないと、また不要なスレ違いが発生するハメになる。


「そりゃあ、構わないよ。」


「あ、ちゃんと30倍貰ったら、4割渡しますから。」


 元はと言えば、この女将さんのお陰だ。

こんなトコロでケチったってしょうがないだろ。

そうだよなぁ、ネットとか電話とかないし、紙も安くはないから、口コミは唯一にして最大の宣伝方法だもんな。


「じゃあ、用意しますんで、ちょっとお待ちを。」


 どうでもいいけど、俺、キャラ定まってなくね?

ブレまくりだよな?

一旦、扉を閉め、木刀をバットケースに仕舞う。

勿論、バットは入れたままだ。

そして、女将さんに頼んでおいたブツを身体の取り出しやすい所に身につけて・・・あ、もし街の富豪とか有力者なら、治療士とか何とかなるかもな。

淡い、本当に淡い期待を持ちながら、再び扉を開く。


「では、行くっスかね。」

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