第9曲:自由への招待(アルム視点)
ひとしきり鬱になったら、スッキリした。
壁を壊すなり、潜るなり、脱出の方法の手段としてはいくらでもある。
でも、今オレを案内している彼女がどうするかを聞かなければ。
あぁ、自前の剣があれば・・・。
きっとあんな壁、イクミの身体に負担をかけずに斬り裂いてやれるのに。
少々、オレは現在足手まといだ。
もし、戦闘にでもなったら、多少なりとも挽回出来るといいのだけれど。
「エルザ!彼が話しがあるそうだ!」
決意も新たにしていると、どうやらエルザさんの所へ着いたらしい。
なんだおる、やっぱりエルフやエルザみたいな人を見ていると、思い出して癒される。
国に置いて来た人達を。
「あら、なにかしら?先程は助けて頂いて・・・。」
「あれはイクミの判断です。それに当然の事だと思っています。」
怪我をしたエルフの少女も、オレが置いてきた人を思い出させる。
この思い出させるというのが問題だ。
自分で回想するのとは違って、半ば強制的に連想させるのだから。
「そうですか・・・。」
「さて、オレはイクミがああいう性格だから、慎重に行動しなければならないと思っているのですが。」
関わってしまったからには、ね。
「今回は簡潔に。オレ達はイクミの体調が完全に回復次第、ここを出ます。」
出ようと思っているではなく、出ます、だ。
「ここを・・・出る?」
エルザさんは、イリアさんと同じような反応を返す。
それだけ、大変な事というか、彼女達にとっては考えもつかない事なのだろう。
「ついては、幾つかの選択肢を提示させていただきたいと思います。」
何か偉そうだな。
滅多にこんな口はきかないけれど、どうしても交渉ごととかは口調が変わる。
「オレ達と逃げる気はありませんか?」
この集落に何人のエルフがいるかは知らないが、大人数で逃亡劇というのはかなりの危険を負う事になる。
「オマエ、まだ!」
「イリア、落ち着いて。どういった方法であの壁を越えるのかは知りませんが、もし断ると言ったら?」
・・・冷静に考えてそうだよな、そっちの方が安全だ。
「オレ達の逃亡の痕跡が残っては、後々問題になりますからね。それならば仕方ないです。ドルラス伯爵でしたっけ?そちらの方へ特攻、という流れにしますかね。」
これは賭けだ。
結局、生命の尊厳もなく、支配される側の彼女達が変えようとする意志がなければ、事態は根本的なところで変わらない。
オレには経験上、それが解る。
だから、第三の選択肢、オレ達がこのまま次元を渡って、"無かった事にする"という事は、敢えて言わない。
それに、オレの・・・オレ達の怒りがそれでは治まらない。
「・・・あなた方が私達と一緒に逃げたとして、一体何の利益が?」
利益?
利益ねぇ・・・。
本当はそういうのを考えるべきなんだろうね。
「イクミがイリアさんを気に入っているみたいだから、恋人か嫁になってもらうとか?」
「なっ?!」
おぉ、今までに無い反応だ。
いや、すまん、イクミ。
「利益はオレ達が満足できる、かな。こんなの所詮、自己満足でしょう?ついでにイリアさんや他のエルフの方々の笑顔が見られれば、尚良し。何より・・・。」
「なにより?」
「腹が立って仕方がナイ。」
イクミの世界で視たアレだ。
昔の王・・・えぇと、"ショーグン"というヤツが、城下に出て『成敗!』とかいう、あの気分。
いやはや、アレは王の鏡だね。
あと、"なんとかエチゼン"とかいう輩も、中々のキレ者だ。
ここは"元皇子"のオレもやってやらないとね。
「それに、オレ自身が納得いかない。」
「・・・少し・・・考えさせてもらってもいかしら?」
「勿論。どの道、イクミが復活しないとどうにもならないし、何より先程怪我した子の具合いが良くならないと。」
オレはとりあえず、交渉のようなモノはここで打ち切る事にした。
アルムさんや、なんとかエチゼンのエチゼンは名前じゃねぇよ・・・