第一話 『世界最強』
新作!!
「ラルクゥゥゥッ!!!!」
「【魔王】メラルド……お前が生み出したクソみたいな世界は今日で終わりだ!!」
赤い髪に倣う瞳を持つ男は、両手で握った美しい白銀の大剣を目の前の敵────【魔王】へと振りかぶる。
それはまるで神龍の如く凄まじい稲妻を宿しているかのようだった。
対する豪奢な衣装を着て、暗いマントをなびかせる【魔王】は無詠唱で百を軽く超える漆黒の魔法陣を展開し、男を喰らうように囲う。
「『天龍閃』!!」
「『極魔核激砲大震覇・黒連』!!」
激しい獄炎が一瞬、辺り一帯を埋め─────爆ぜた。
宇宙から見ても大きく星が歪み、まるで巨大な隕石が落ちたかのような激震。
周囲の岩や大木は一瞬で消し飛び、【魔王城】などもう見る影もなくなっていた。
そんな中、巨大なクレーターに立っている者が二人。
恐ろしい程の圧。一般人なら────いや、猛者でも為す術なく即死するだろう。
そのせいか、彼等の足元にはヒビが出来ていた。逆によくヒビだけで済んだなと褒めてもいいだろう。
「ぐっ……右腕を持っていかれたかッ……!」
「……」
男の右腕はそこには無く、右腕があったとされる場所の根元からドクドクと血がとめどなく流れるが左手はしっかりと大剣を握っているため、抑えられない。
その劇痛に耐えながら、男は目の前の敵に視線を向けた。
「ッ……?! 【魔王】メラルド……?」
「ガッハッハ! 見事だ! 剣士『ラルク・アルカナム』! このオレを討つとは!!」
嬉しそうに叫ぶ魔王の腹には、そのでかい胴体をほぼ埋め尽くすような大きさの穴ができ、そこから青い血がドシャドシャと流れ落ちていく。
確実に致命傷。それを悟ったのか、魔王は豪奢な杖を投げ捨て、その場に座り込んだ。
その大怪我で座れるだけの体力があることに驚きだが。
「オレの全力をもってしても貴様の片腕しか奪えなかったか! オレが、貴様を【世界最強】と認めよう!!」
「……いや、お前だけだ。ここまでの重症を負ったのは」
そう言いながら男も大剣をその場に突き刺して魔王の前に座り込み、自らの服を破いて血が流れる部分にあてて多少の止血を行った。
彼の髪と瞳はいつの間にか黒へと変色しており、肩で息をしていた。
彼は、もう魔王は動く力など無いと分かっていた。
「なぁ、ラルクゥ……」
「なんだ?」
「……オレは、お前みたいな奴と最期に殺り合えて本望だ……」
「……俺も人生最後の全力をお前に使えて良かったよ」
二人の間柄は敵と言うよりかは宿敵のようだった。
段々、段々と魔王の瞼がゆっくりと沈んでいく。
「……お前は……これから先も色んな敵と……出会うだろうな」
「……あぁ」
「そいつらと……殺り合って……それでも……」
「……」
「オレが……一番と言……える敵で……いてぇ……なぁ……」
「ッ……、生涯お前の事は忘れない! 俺の心にお前が一番のライバルだと刻み込む!!!」
「……、────────────」
少し嬉しそうに笑った後、魔王は絶命した。
その場で生き残ったのは人間。
これにて、長きに渡る『人魔大戦』は終結したのであった。
⊂⊃<>⊂⊃<>⊂⊃<>
「ク……ラル……。ルク……。ラルク」
「んぁ?」
目を覚ますとそこは白亜の世界だった。
先はどこまでも果てしなく、終わりなどないようにも思えた。
声がした方を振り返ると、そこには俺が一番大切にしている相手がいた。
腰にまで伸びる艷めく青い長髪と同じ色の瞳。華奢な身体はどこまでも美しく、静謐を纏っている。
その人は俺の顔のすぐ横に座っていた。
「……、リメルア……?」
「ふふっ! やっと起きた!」
「リメルア……? リメルア?! 生きてたのか?!?! 俺はてっきり君が……」
歓喜なんて言葉で言い表せないほどの喜び。自分の最愛の人と再び出会えたのだ。嬉しくないわけがない。だが、そんな喜びは直ぐに儚く消えることとなった。
「……ううん。これは貴方の夢の世界。現実に私はもういない」
「っ……」
「分かってるでしょ? 私はあの時に────」
その瞬間、俺の脳裏にこの世で最も思い出したくない光景が露わとなった。あの日、あの瞬間。絶望、憤怒、悲しみ……俺はありとあらゆる負の感情を覚えた。
「……あぁ、そうだな。あれは俺の原罪だから……待っていてくれ」
「……うん、いつまでも待ってる」
俺は立ち上がり、白亜の世界を向き直す。
もう、彼女の姿は見ない。
「リメルア」
「なぁに?」
「■■■■■■■■■■」
「……! うん、待ってる!」
彼女の言葉を最後に俺の視界はホワイトアウトし、意識は濁流に流されるように消えていった。
「うっ、うぅ……」
目を覚ますと、そこはふかふかのベッドだった。
それもとても高そうな。
まさに王族や、貴族しか使わないような代物。
俺のような冒険者なんかが到底使うことなんてないような物だ。
「なんで俺はこんな所にッ……」
俺は無意識に右手で痛む所を抑えようとしたが、ソレは無かった。そうだ、あの時右腕を失ったのだと思い出す。
だが、右腕の切断面には沢山の包帯が巻かれており、そこまでの出血はしていなかった。もちろん、痛みはあるが。
ていうか辺りを見渡すと、とても豪華な部屋だった。
アダマント・タートルの鱗で作られた椅子と机。
その上に居座るのは【ニューランド】の木に実る色とりどりの果物が入ったバスケット。
更に人一人分の大きさの鏡まであった。至れり尽くせりである。
「確か魔王を倒して……その後どうなったっけ……?」
魔王と会話を為した後俺はその場に倒れて────そこから記憶が無い。何かに揺られていたような気もする。
思考の海に沈んでいる中、扉を軽くノックする音が聞こえた。
「? どうぞ?」
「!!! ら、ラルク様!? お目覚めに……?!」
俺が声をかけると、とんでもない勢いで扉を女声の主が開いた。
姿からして従者だろうが……ここはやはりどこかの城とかなのだろうか?
「は、はい。てか、ここはどこなん─────」
「しょ、少々お待ちください!!!」
その言葉と同時に彼女は猛スピードで俺の部屋を後にし、部屋の外からは足音が凄かった。うん、凄かった。かなり。
とりあえずベッドから起き上がり、近くにあった窓を覗いてみる。
そうすると、とても良く見慣れた景色がそこにはあった。
「【ユラスト城下町】……? てことは、ここは【ユラスト城】……?」
外はたくさんの住民がはしゃいでおり、街には何やら装飾がたくさん着いていた。
彼等はとても楽しそうに食事をし、酒を飲み、笑い合っていた。
……ここは昔もっと暗いイメージがあったが……魔王の脅威が去って活気が増えたのか。
ここ、【ユラスト城】────いや、この国【アルメズカ王国】は【魔王城】があった国【魔帝国メラルド】に一番近い最前線だった為、魔王の手下────『魔人』達によって日常が脅かされていた。
人々は外になんか出ず、家にずっと引きこもる。
子供の泣き声など聞こえもしない、そんな国だった。
それが今やあんなに楽しそうに過ごしている。
この光景を創れて良かった。
「なぁ、リメルア。君と一緒にこれを見たかったよ……」
⊂⊃<>⊂⊃<>⊂⊃<>
しばらくすると、再度ノックをする音が扉から聞こえてくる。
「? どうぞ?」
先程と全く同じ言い方でドアの向こう側の人物に呼びかける。
ギィ……と音を立ててドアが開き、出てきたのはこの城の王───クラリア・ユラストその人だった。
「ゆ、ユラスト陛下?! 何故ここに?!」
「ハッハッハ、そりゃあこの城の主は儂じゃからな!!」
ユラスト陛下は昔も今も『慈愛の王』と呼ばれるほど優しく、『人魔大戦』が始まる前は、魔人達とも友好を築き上げようとしていた方だ。
「いや、その……、俺──私は一介の冒険者です。なぜこのような部屋を貸していただけたのでしょうか?」
「? 決まっておるじゃろう?」
何を言っているんだと言わんばかりの顔で、陛下はとんでもないことを告げた。
「ラルク。お主が人類の悲願───【魔王】を倒し世界を平和へと導いた【英雄】だからじゃ」
「……? はぇ?」
「約二ヶ月前────世界に激震が走った。たった一人の冒険者が【魔帝国】へと踏み入り、【魔王城】は疎か、周囲一帯を、消し飛ばし─────」
「……」
そういえば、俺と魔王の最初の攻撃で【魔王城】が吹き飛んで、その後も戦闘を繰り広げてたらいつの間にかクレーターだらけになってたなと思い出して、冷や汗をかく。
てか、二ヶ月前ってことは俺は二ヶ月も眠ってたのか……?
「……そして、かの【魔王】を打ち倒した、と」
「……おっしゃる通りです。俺が【魔王】を倒しました。ですが、その後私もその場に倒れてしまった。いつ魔人に殺されるか分からない状況でした。そこを救っていただき、更にこんな部屋まで……感謝してもしきれ─────」
「何を言っておる?! お主は世界を救ったのじゃぞ?! そもそも一番近いからここに滞在させただけで、本来ならもっと高貴な場所にいるべきなのじゃ!」
「……そう、なんですか?」
ぶっちゃけ【魔王】を倒した後なんて考えてもいなかった。……いや、考えてはいたな。もう叶うことはないが。
「外を見たか? 今の世界は祭りで大騒ぎじゃ。世界は平和になったからのう。お主のおかげで」
「……でも、失ったものも多いです」
「そうじゃな。今までの幾千の勇敢なる者達は敗れていった。じゃからな、この祭りは祝いでもあり、弔いでもあるんじゃよ」
「……」
俺だってたくさん失ってきた。
知人、家族、友人……最愛。
他の人達だって失った。
その犠牲の上に成り立つ平和だ。俺────いや、俺達はそれをしかと噛み締めなければならない。
目に涙を貯めながら、俺は心に彼等が灯火を失う瞬間を刻み込む。この世界に居なくたって、いつでもここにいてくれると、そう信じて。
「【英雄】ラルク・アルカナムよ……」
「……だから、私は───」
雰囲気を変えた陛下が俺の目の前に立ち、王としての言葉を俺に放った。
「貴殿に【英雄】の勲章を授ける式───叙勲式を明後日執り行う! 場所は【メルテスラ魔導大国】の首都【クリステル】。我々が馬車で貴殿を送り届けよう。これは『世界の命』である!!」
「っ─────」
その瞬間、俺は本当にこの世界を救ったのだという自覚をしたのであった。
⊂⊃<>⊂⊃<>⊂⊃<>
「行くよ。リメルア」
そう言って背中に大剣を背負う俺は、左手に彼女の物だった杖を優しく握る。
目の前には豪奢な馬車とこの城の兵達が大勢おり、後方にはユラスト陛下の馬車も見えた。
俺はゆっくりと馬車に乗り込み、数日の旅を過ごすのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これは数話だけ投稿する予定です。
好評だったら続けようと思います!




