第11話 AIとともに作ってきた制作工程
AI時代の創作論。これは後書きであり、次の企画書でもある。
『描線眼鏡』は、想像力で眼鏡を通して見えないものを見つめ、創造力でペンによって世界に線を刻む物語です。
この編集後記では、完結した物語の裏側で、どのように設定が生まれ、キャラクターが動き、現実の災害や科学史、漫画史、そしてAI時代の創作論と結びついていったのかを振り返っていきます。
第10話では、先行作との距離感について書きました。
似ている作品があることに落ち込みもしましたが、それは終わりではなく、自分の作品がどこで似ていて、どこから違うのかを考える入口になりました。
今回は、その線をAIとの対話の中でどう言葉にしてきたのか、実際の制作工程を振り返ってみたいと思います。
第2話「開けなくなった最初のchat」でも書いたように、最初のチャットは今では長くなりすぎて開けなくなっています。けれど、そこで最初にしたことは、かなりはっきり覚えています。
最初にしたことは、すでに書いていた初版の序盤を読ませることでした。
男女二人の主人公がいて、漫画の新人賞の副賞として特殊な眼鏡が渡され、漫画家とアシスタントとして魔と戦うという構図がありました。
既に物語の入り口の設定はハッキリしていました。私がAIに頼んだのは、構想半ばで手に負えず放置していた、その本文を読んで、何が伝わり、何が分かりにくいのかを確認することでした。
視点移動や設定説明、主人公二人の印象は伝わりやすいか。眼鏡や魔や協会は、初見の読者にどう見えるのか。
そうしたことを、一つずつ確認していきました。
つまり、初見の読者に近い視点で、自分の書いたものを照らし返してもらう作業でした。
その後、眼鏡、ペン、魔といった作品の根本にある用語を掘り下げていきました。
眼鏡は、視力を補う道具であると同時に、知性や観察や思索の記号であり、漫画家や創作者の顔でもある。
ペンは、描いた武器を実体化する道具であるだけでなく、創造力の象徴であり、想像したものに形を与える道具である。
魔は、単なる怪物ではなく、人間の過誤や過失、悪意などの負の感情が、ダークマターやダークエネルギーの揺らぎと結びつき、観測されるものでもある。
断片としては最初からありました。AIとの対話は、それらを何度も言葉にし直し、並べ替え、矛盾を見つけ、作品の中心に置ける形へ整えていく作業でした。
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それ以降の作業の形は少し変わりました。
初版の序盤第3話までは、すでに小説本文として存在していましたが、第4話以降は設定のみの状態でした。
二人が面接で出会い、スタジオで仲間たちと会って、不穏な雲行きから初戦闘へ。こうしたエピソードの骨格はありました。
このプロットをAIへ渡し、場面の流れを整理し、セリフやシーンを固めていく形になりました。
漫画制作で言えば、プロットからネームを切る感覚に近かったと思います。
話の大きな流れを決め、誰がどの場面で何を言うのかを整理し、会話やアクションを整え、それを小説本文へ戻す。
さらに自分で読み直し、修正し、削り、足していく。この工程を何度も往復していきました。
さらに進むと、作業は一話ずつ続きを書くだけではなくなっていきました。
第1部の中盤以降については、当時まだ大まかな構想しかありませんでした。
設定説明、主人公の成長、漫画制作と戦闘の重ね方、物語の歴史や記憶、社会とのつながりを、後に第1部のエンディングとなるファーストエンドへどう結びつけるのか。章ごと、話ごとの役割を考える必要が出てきました。
この頃には、AIとの作業は一話ごとの相談ではなく、到達点を決め、そこに向けた中期プロットを設計し、各話の役割を割り振る作業に発展していました。
そのすべてをAIが自動で把握してくれたわけではありません。当時のAIはその面は弱点で、中長期的な設定の整合性は、今でもAI共創で作者側が意識し続けなければならない部分です。
この過程はAIとの対話の中で試行錯誤を経て行ってきた制作工程の一部でした。
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印象に残っている例があります。
第一部第16話にあたる「観測」です。
そこで私は一度、かなり重いSF設定を前面に出しかけました。
夜の地球画像になぞらえて、憎悪そのものを可視化する。
物語での魔=ダークマターの揺らぎを観測し、人間の憎悪や社会の歪みを画像として示す。
そしてそれを、現実の世界が抱える憎悪や分断と重ね合わせる。
アイデアとしては、自分でも強いものだと思いました。
けれど同時に、そのまま書けば、ライトノベルとして積み上げてきた明るさを沈めてしまうのではないかとも感じました。
私の体感では、AIとの対話には、良くも悪くも尖った設定を丸める効果があります。
そこで設定の強度をある程度残したまま、キャラクターの疑問や感情へ回収する形へ組み替えていきました。
一方的な強い設定を、徐々にキャラクター達が受け止めていく形にする。
科学と社会の解説ではなく、登場人物たちが何を感じ、次にどう進むのかを見せる場面へ変える。
これは、作品の重心をAIと一緒に測り直す作業でした。作者としての強い主張をどこまで出し、多くの人が受け止めやすい形までどこまで丸めるか。その線引きを考える作業だったのだと考えています。
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AIとの対話は、本文の外側にも広がっていきました。
設定資料集、過去ログのインデックス化、制作日報、章ごとの役割や伏線の整理。長く書けば書くほど、物語を見失わないための作業が増えていき、AIは執筆補助であると同時に、記録係や整理係にもなっていきました。
投稿や告知についても相談するようになりました。カクヨムや小説家になろうでどう見せるか。タイトル、紹介文、タグ、投稿時間、Xでの告知や世界観紹介をどうするか。
作品を書くことと、作品を届けることは、地続きなものになっていきました。
やがて、ロゴ、集合絵、魔分類図、描線武器、中心思想を説明する一枚絵といったビジュアルの相談にも広がっていきます。
ただし、新編制作、漫画原作コンテスト、共創企画書、ビジュアルIPとしての展開。それらはまた次話でお伝えしたいと思います。
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使うモデルが変わるにつれて、AIとの関係も少しずつ変わっていったように思います。
初期は、熱量を受け止め、本文を前へ進める伴走者のようでした。
当時のログを読み返すと、かなり感情的なやり取りも多く、もう少し冷静に見るべきだったと思う部分もあります。一方で、その熱に支えられて進めた部分もありました。
その後は、長い物語を整理し、資料をまとめ、どこを削り、どこを残すかを考える編集者や整理係に近づいていったように思います。
もちろん、それはモデルだけの変化ではなく、私自身の制作が、作品全体を構築し、さらに大きな展開も考える段階へ移っていったことも大きいのだと思います。
振り返ると、現実のAIは、私にとっての描線眼鏡のようなものだったのかもしれません。
見えない魔が見えたわけではありません。
けれど、それはAIが『描線眼鏡』という物語を作ったということではありません。
AIは、私の代わりにこの作品を書いたわけではなく、私が見ていたもの、考えていたもの、まだ言葉になっていなかったものを、鏡のように照らし返してくれたのだと思います。
その中から何を採用し、何を捨て、どの言葉を作品の中心に置くのか。
それを選び取ってきたのは私です。
AIが作ったのではなく、AIを物語での描線眼鏡や描線ペンのように利用しながら、人間が紡いでいく。これが、『描線眼鏡』の制作工程だったのだと思います。
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AIとの対話によって、物語は一応の完結をみました。
しかし、この物語には作品としてより多くの人に届ける力と価値があると信じています。
ただし、より多くの人に届けるためには、もう一度、読者が読む一話目から線を引き直す必要があると考えています。
次は、旧版から新編へ、線を引き直すことについて書いてみたいと思います。
今回は、第2話「開けなくなった最初のchat」で触れたAIとの制作を、実務面から振り返る回です。
最初にAIへ頼んだのは、白紙から物語を作ってもらうことではありませんでした。すでに書いていた初版の序盤を読ませ、何が伝わり、何が分かりにくいのかを確認すること。
初見の読者に近い視点で、自分の書いたものを照らし返してもらうことでした。
そこから、眼鏡・ペン・魔といった作品の根本にある用語を整理し、中盤以降はプロットを渡し、シーンやセリフを固め、漫画制作で言えばネームに近い段階を経て、小説本文へ戻していく作業へ進んでいきました。
また、制作が長くなるにつれて、AIとの対話は本文の外側にも広がりました。
気づけば、AIは本文を書くためだけでなく、作品を見失わないための整理役にもなっていました。
今回の中心にあるのは、「AIが作ったのではなく、AIを物語での描線眼鏡や描線ペンのように利用しながら、人間が紡いでいく」
という感覚です。
現実のAIは、私にとっての描線眼鏡のようなものだったのかもしれません。
自分では見えていなかった構造や矛盾、作品の可能性を見える形にしてくれました。




