黄金色に染まる毒
そんな私の前に現れたのが、栗色の髪の少女、クリスティだった。
陽だまりのような笑顔で、無邪気に私の名を呼ぶ。
「レイシア様、お庭にミモザが咲いたらしいです!」
「今日は天気がいいですし、一緒にお庭でご飯を食べましょう!」
あの子と過ごす時間は、柔らかくて、温かくて、
触れれば壊れてしまいそうなほど繊細だった。
けれど、あの子もまた裏切り者だった。
「お姉様……私を信じてくれますよね?」
膝をつき、私のドレスの裾に縋り付くクリスティ。その瞳には、こぼれ落ちそうなほどの涙がたまっていた。
かつて私が「あの人」にハニートラップを仕掛けたとき、鏡の前で練習した通りの、完璧な悲劇のヒロインの顔。
(ああ、反吐が出る)
彼女が男爵令嬢などではないことは、とうに調べていた。
私と同じ、人の指先一つで動く「駒」。
私を監視し、私を追い詰めるために送り込まれた、もう一人のスパイ。
「信じているわ、クリスティ。……あなたの『演技』だけはね」
私の言葉に、彼女の肩がびくりと跳ねた。
涙に濡れた長い睫毛が震え、その奥に潜んでいた「冷徹な工作員」の光がわずかに漏れ出す。
「お庭にミモザが咲いたって、喜んでいたわね。あれも嘘? 陽だまりのような笑顔で私を呼んだのも、全部、あの方への報告書を書くための伏線だったの?」
「……それは……」
「ごめんなさい、クリスティ。助けられないわ。あなたが私を売ろうとしたこと、すべて知っているもの」
私は冷ややかに微笑み、彼女の指を一本ずつ、無慈悲に振り払った。
縋るものがなくなった彼女の手が、力なく地面に落ちる。
その瞬間、彼女の顔から「無垢な少女」の仮面が剥がれ落ち、ひどく虚無的な、大人びた表情が浮かんだ。
「……お姉様も、私と同じなのに」
去り際、背中に突き刺さったその声は、呪いのように低かった。
真珠のような涙を流しながら、彼女は笑っていたのかもしれない。
同じ泥沼で足掻く、同類への蔑みを込めて。
私は一度も振り返らず、黄金色のミモザが咲き乱れる庭を後にした。
その花言葉が友情だと知ったのは、すべてを壊した後のことだった。
視界の端で揺れるミモザは、あの子の笑顔と同じ色をしていた。
かつては美しく見えたその黄金色は、今や私をじわじわと蝕む猛毒のように、世界を塗りつぶしていく。
信じることを捨て、守るべきものを自らの手で切り捨てて、私はまた独りになった。
黄金色に染まる庭。その眩しさだけが、今の私には耐え難いほどに疎ましかった。




