第十三話(後編) 甲本エミリは、進化する
お待たせしました!
こちら、本日二話目になります。ご注意を!
その日のMEGUMIさんによるレッスンの終わり。
私は事務所に用事があったので、その足で向かいました。
「エミリさん、大丈夫でしょうか……」
エミリさんはどうやら、壁にぶつかっているようでした。MEGUMIさんからの課題をクリアしようと、何とか喰らいついている。けれど、その答えが見つからずやきもきしている。そんな風に見えました。
帰り際に挨拶をした時も、どこか落ち込んだ様子だったというか……
でも、エミリさんならきっと大丈夫でしょう。
私は誰よりも、あの人の歌の凄さを知っています。それにあの人自身の凄さを知っています。だからきっと。必ず壁を壊して、もっと凄いエミリさんになってくれるはず。そう信じているのです。
そうして事務所で仕事を済ませている時のことでした。
――ピロンッ♪
「……なんでしょうか?」
スマホから通知が鳴りました。その内容を見て、驚きました。
通知はなんとミーチューブから。内容は、私が登録しているエミリさんのチャンネルが配信を始めるというものでした。
「な、なぜでしょう!?」
例の噂もありましたから、エミリさんには動画の公開を控えるようにアドバイスしたはずでした。
にも関わらず配信なんて……
いえ。エミリさんの事ですから、ひょっとして配信と気付かず配信している可能性もあるのでは? 凄い人ではあるのですが、少し抜けているところもありますから。そこも魅力なんですけどね。
配信を付けると、案の定というべきか。独り言の呟きから察するに、やはり録画と勘違いしている様子でした。
「はぁ~。これは早くお伝えしなくてはなりませんね……で、でも。折角ですから、一曲ぐらいなら――」
誘惑に負けた私は、連絡する手を止めてエミリさんの配信を視聴することにしました。
本人は気付いていないようですが、かなりの視聴者が集まっています。今話題のエミリさんが、突然に配信をしたとなればこうなるのも必然でしょう。現時点で――一万人、ですか。さすがです。
そうして暫くは、エミリさんの歌を聞きながら仕事をしていました。
「やはりエミリさんの歌は元気が出ますねえ……」
仕事のやる気をいただきながら、一曲目が終わると……懸念していたあの爆発が起こってしまいました。
すみません、エミリさんっ。
私、貴女の歌が聞きたいがために……!
どうやってお詫びしようか考えつつ、一曲聞いたのでそろそろ連絡をしようとした――その時でした。
エミリさんの配信に突然、巨大な植物型モンスターが現れたのです。
エミリさんはすぐに逃走を選択したようですが、カメラはその場に残されたまま。どうなっているのか分かりませんでした。
もし逃げきれなかったら……?
そんな不安がどうしても拭えず。私は配信を付けたまま、急いで事務所を出てエミリさんがいるダンジョンに行こうとしました。そこでマネージャーの明智さんに遭遇しました。
「そんなに慌てて。どうしたんですか、レイカさん?」
「明智さんっ! エミリさんが大変なんです!」
事情を聞くとすぐ、明智さんは「ではギルドに連絡しましょう」と言ってくれました。私がエミリさんのいるダンジョンを教え、その最寄りのギルドに明智さんが連絡を取ります。
それから私と明智さんも、ダンジョンへ直行しました。
ギルドには既に話が通っていました。万が一のことを考えて数人の冒険者の方を待機させてくれていました。しかし救助に行こうにも、場所が分かりません。エミリさんのことですから、第一階層か第二階層だと思うのですが、そこからの絞り込みが……
そうしている間にも、配信画面に変化がありました。
逃げたはずのエミリさんが、元の場所まで戻って来たのです。
あのモンスターも引き連れて。
「――コイツはっ!! 『バールブプラント』じゃねえか!!」
待機してくれていた冒険者さんの一言で、モンスターの正体。そしてエミリさんが今いる階層が判明しました。
「コイツは第三階層で、頭一つ抜けた強さを持ってる。言わば主だ。冒険者になり立ての奴が、それも一人で挑んでいい相手じゃない……!」
まず間違いなく、エミリさんの勝てる相手ではない。そう判断したギルドと冒険者の方々は、すぐにエミリさんの救助を決行しました。そこに何とか私も同行させていただきました。
その時――エミリさんが、倒れました。
最早、猶予はありませんでした。
その間にも私は、エミリさんの配信を見続けていました。今はこれだけが、あの人の生存を確認できる手段なのです。
「立って! 立ってください、エミリさん! お願いだから、立って……!」
すると、その願いが通じたのかもしれません。
エミリさんが、ゆらりと立ち上がりました。
「エミリさん……?」
けれど、その様子はどこか変というか。さっきまでのエミリさんではないように感じました。何かが違う、何かが変わった。あの人の背中から、そのような圧にも似た何かを感じました。
そしてエミリさんは、配信していた端末を拾い上げると――
『ちゃんと見とけよっ』
「はうっっ!!」
あの可愛くも凛々しいお顔を間近に、そんなセリフを言われたら、胸が高鳴ってしまいますっ。
その顔を見ただけで、もう私の中の不安は吹き飛んでいました。
この人なら。エミリさんなら。この絶望的な状況を、覆してしまえると。
そして、その予感は見事的中しました。
先ほどまでは効いている様子が無かったエミリさんの歌が、何とあのモンスターに利いていたのです。あのとき見たゴブリンの様に、身体を揺らし、声を上げ。エミリさんの歌にノリノリの様子でした。
「な、なんだよこれ……」
「なんでこの子、モンスター相手に歌ってるんだ?」
「でも、何だろう。この歌――」
「「「凄い、刺さる……!!」」」
全くの同感です。
エミリさんの歌は、進化を遂げたのです。
これまでに聞いたどの歌よりも、今の歌の方が何倍も魅力的に聞こえました。これを生で聞けないのが、どれほど悔しかったか。それと同時にエミリさんが、少し眩しく感じました。
そして――
一発の、花火が打ち上がりました。
それは同時に、エミリさんの居場所を示す目印でもありました。モンスター花火の真下に急行しました。
近づくと、遠目にエミリさんの姿が見えました。
「あっ! エミリさ――」
そう声をかけようとした所で、エミリさんの身体がパタリッと地面に倒れました。
「――エミリさんッッ!!!」
その時、私は人生で一番速く走ったと思います。
全速力で駆け抜けて、一緒に来ていた冒険者の方々も追い抜いて。
そして誰よりも早く、エミリさんの元に駆け付けました。
「エミリさん! エミリさんっ!!」
倒れたエミリさんは……どうやら意識を失っているようでした。
けれど、その身体には酷い怪我でした。
特に右腕の怪我が酷く、出血が止まりません。
私は急いでポーションをかけて、応急処置をしました。救助の冒険者の方によれば、かなり危険な状態だとのこと。かなり血を流したこともあり、すぐに治療が必要とのことでした。
そのままダンジョンから助け出され、病院に運び込まれたエミリさんは、何とか一命をとりとめました。
良かった。本当に、良かった……
――でも。起きたらエミリさんには、お説教が必要ですね。
だから早く起きて、また歌を聞かせて下さいね。
エミリさん。
いかがでしたか?
はいっ、エミリさんのうっかり発動! 配信、しちゃってましたね~。登録者とか再生数とか、条件は満たしてたんですよ。本人はそれに全く気付かず、ボタンを押し間違えたって感じですね。ドンマイっ!
これにて一章の締めとなります。あとは掲示板回を一話入れて、第一章は完全に終わりですかね。という訳で次はそんな感じになります。次の更新はまた明日! お楽しみに~!
また読んでみて、面白い・続きが読みたいと思ってくださったら、ブックマーク・評価・リアクションなどを頂けると嬉しいです。執筆の励みになります!




