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2枚目…松田となった時

「雫、とうとう明後日から高校生だな。準備はできたのか?」


「…当然だ、父上に心配されることなんてない」


「冷たいな、我が娘を心配をしておるのだぞ?」


-娘じゃなく、自分の名を心配しているのではないか。よくもまぁそんな綺麗事を…-




明後日に高校への入学を控えていた十和田雫。彼女はその日が近づく度に苛立ちを募らせていた。…自分が入る高校の学校長は自身の父で、父はどうやら娘に衆目の前で働かせ、自分の血は有能だと知らしめたいのだろう。全く馬鹿げている。ならばもっと多方面から生徒を呼ぶなどすれば良いだろう


「雫、お前にはたくさん学んでほしいことがある、将来立派な大人になるためにな。その為にワシの高校に入れたのだからな」


「…高校は自身で決めたこと、それに父上が言うほど自分はダメ人間ではない」


「だがそれでもワシの高校を選んだのだ。…期待しているぞ、我が娘よ」


「…ふん」


私は苛立ちを隠せず、食事をやめて外出をすることにした。…父上はいつでも父上自身が一番大事なんだ。自分を見てなんかいない、ただの偽善を並べるだけ…。嫌気がさす


「…む」


気づけば十和田高校の前まで歩いてきてしまっていた。…そんなにここが素晴らしいか?


「…君、君?」


そんなとき、校舎から男子生徒が出てきて自分に声をかけてきた。…不審者に見えてしまったのだろうか


「…はい?」


「そ、君。うちの学校に新しく入る子かな?」


相手の態度を見る限り、そうではないことがわかる。自分に対して明朗な笑みを浮かべているのがその理由だ。…かえって不審者はそちらなのかと思えてくる


「…4月から入学することになっている」


「そうかそうか、だったらどうだい?入学前に見学でも?」


…この男子は自分を知らないのだろうか。学校長の娘が入学するという話はもう学校の噂になってると聞いていたが…とりあえず自分は首を縦に振る


「…とりあえずは」


「そうかそうか、じゃあついてきて」




「…どうだった?入学が待ちきれなくなったかな?」


「いえ、別に…」


「あれ、俺は入学前はワクワクして夜も眠れなかったぞ?」


「小学生か」


大体の見学が終わり、今はこうして生徒会室で男子生徒と向かい合うように座りながらお茶をいただいている。…その間、彼は楽しそうに高校生活の話をしてくれた。失恋の話やテストの話、学食のメニューの良し悪し…だがそのなかでも自分を学校長の娘と気づくようなそぶりは見せなかった。…それどころか、まるで自己紹介もしていない。名乗るほどの者じゃないと言いたいのか、もしくはもう卒業なのか…さすがに気になった


「…あの、先程から気になったのだが、貴方は?」


「あぁ、そういえば自己紹介をしていなかったな?十常寺(じゅうじょうじ) 貴史(たかふみ)。君が入る頃には3年の生徒会長ということになるのかな?」


「…十常寺先輩か」


彼はせいとかいちょうだったらしい。そう言われれば今までの行動にも合点がいく。そうでもなきゃこんなむすっとした女に学校案内したりしまい


「…先輩は、自分が誰だか知らないのか?」


次は自分の事を聞くことにした。生徒会長なら自分の事を知っていて、父上に取りなしたいがためにやった行為だと思った。だが先輩は少し違った


「知っているけど、だからなに?」


「…父上に気に入られたくてそういうことをしたのか」


「父上ね…別にそんな気はないよ。だって俺は生徒会長なんだから、生徒のためならなんでもするし」


「それが売名行為だとは思わないのか?」


「俺の名を売ったってどうしようもないさ、俺は家業を継ぐからな」


「…じゃあなんのために、私が学校長の娘と知っていて近づいたんですか」


自分は核心を聞いてみた。…同時に、このころから彼…十常寺貴史を意識していたんだと思う。その自分の期待を、彼はやはり裏切ってきた、良い意味で


「さっきも言ったけど、君はどんな身分であれ俺の後輩だから。その後輩に先輩風吹かせて親切をする…これは不思議なことかな?君だって俺のような身分になればわかるよ」


「…ふっ」


流石に、可笑しくなった。彼は本当に、目先しか見ていない、だけど、清々しかった。馬鹿なんだろうけど、それが潔かった。…本当、自分は何を疑っていたんだろう。…彼といれば、学校が楽しくなるかもしれない、自分はそんな予感がしていた。そして入学式当日…自分は彼の傍に居たいために父上に頼み、学校での姓を松田と名乗ることにした。…母上の旧姓で、これなら父上も許してくれたからだ。…そして…


「…失礼する」


「お、来たか、十和田雫…いや、今は松田だったか?」


「…これから、よろしく頼む、会長」

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