黄金と夜明けの蒼。不器用な旦那様の美しい瞳
ある休日の午後。
セレスティアは執務室のソファで、レオンハルトの大きな膝を枕にして、うとうとと微睡んでいた。
窓の外では粉雪が舞っているが、暖炉の火が燃える室内はぽかぽかと暖かく、何より夫の体温が心地よい。
ふと目を覚ますと、彼女の頭を優しく撫でていたレオンハルトと、至近距離で視線が絡み合った。
前髪の隙間から覗く、彼の双眸。
それは、左右で異なる色を宿す神秘的なヘテロクロミアだった。
左目は、猛禽類や狼を思わせる、力強くも温かい黄金色。
右目は、静寂の中で微かな光を待つ、夜明け直前の蒼色。
「……っ」
セレスティアが見つめ返していることに気づくと、レオンハルトはビクッと肩を揺らし、慌てて大きな手で自身の右目を隠すように顔を背けてしまった。
「す、すまない、セレスティア。気味が悪かっただろう……」
彼の声は、ひどく自信なさげに沈んでいた。
「王都では、この不吉な色の違う目は『呪われ子の証』だの『悪魔の目』だのと陰口を叩かれていた。俺の『鮮血』という二つ名も、この異形の目が拍車をかけているらしくてな。……君のような美しい人に、こんな醜いものを見せてしまって申し訳ない」
レオンハルトの言葉に、セレスティアは小さく首を振った。
そしてゆっくりと身を起こすと、彼が顔を隠している大きな手を、両手で優しく包み込んでそっと退けさせた。
「レオンハルト様。私を真っ直ぐ見てください」
「しかし……」
「お願いですわ」
ためらいながらも視線を戻した夫の顔を、セレスティアは両手でふわりと包み込んだ。
そして、その黄金と蒼の瞳を、うっとりとするような熱を帯びた眼差しで見つめ返す。
「気味が悪いだなんて、誰が言ったのですか。……私は今、息を呑むほど美しい宝石を見つけて、見惚れていたところですのに」
「宝石……?」
「ええ」
セレスティアは微笑み、まず彼の左目の目尻に、そっと指先を這わせた。
「こちらの黄金の瞳は、まるで私たちを暖かく照らしてくれる太陽のよう。あなたの領民を想う、温かくて力強い心そのものですわ」
次に、右目の目尻を優しく撫でる。
「そしてこちらの蒼い瞳は、長く過酷な夜の終わりを告げる、夜明け直前の蒼……静寂の中で確かな希望の光を孕んだ、とても深く、優しい色ですわ」
セレスティアはそのまま顔を近づけ、彼の額にこつんと自分の額を合わせた。
アメジストのように艶やかな彼女の瞳と、レオンハルトの黄金と蒼の瞳が、至近距離で交わる。
「太陽と、夜明けの空。あなたが愛し、守り抜いているこの領地の希望が、そのままあなたの瞳に宿っているみたい。……私、あなたのこの目が、たまらなく好きですわ」
心からの賛辞と、嘘偽りのない愛情。
王都で忌み嫌われていた自身のコンプレックスを、こんなにも美しく肯定され、レオンハルトの胸の奥で何かが熱く弾けた。
「……セレスティア……っ」
顔を真っ赤にしたレオンハルトは、たまらずセレスティアをきつく抱きしめた。
壊れ物を扱うような慎重さは残しつつも、決して離さないとばかりに強く、熱く。
「っ……君という人は、本当に……。俺にはもったいないくらい、優しくて……愛おしい……」
肩口に顔を埋め、絞り出すように愛を囁く無骨な夫の頭を、セレスティアは母親のように優しく撫でた。
「私もですわ、レオンハルト様。あなたのすべてが愛おしいです」
呪われた目だと蔑まれてきたヘテロクロミアは、今や完璧な美貌を持つ公爵令嬢にとって、この世で最も愛おしく、美しい宝物になっていた。
外の厳しい寒さを忘れるほど、二人の甘い時間は静かに、深く流れていくのだった。
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