表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

8

 群れの長を失った狼男たちは、戦意喪失して退散。街には平穏が戻る。それが理想的なシナリオだったのだが、現実はうまくいかないものだ。首を切り落とされた亡骸の前に集まった狼男たちは、毛むくじゃらの体を震わせて慟哭した。人間の部分を捨てて、獰猛な野獣の本能がむき出しになる。




 「殺せ!」


 「あの女を食い殺せ!」


 「八つ裂きにしろ!」


 


 ざっと見ただけで、群れの数はおよそ20匹ほど。この数を相手にするのは、少々骨が折れる。


 


 ステラは群れ全体を見渡し、脳内で戦闘のシミュレーションを行った。まずは端っこにいるノロマそうなやつから倒す。その隣の個体は、比較的臆病そうだ。口々に狼男たちが殺意にまみれた叫びを上げているが、あいつだけは口パク。嫌々戦いに連れてこられたのだろう。よし、あいつは最後でいい。


 


 「ミア、下がっていろ。ここは私が…」


 


 「もう戦う必要はないようですよ。ステラ様、あれをご覧ください」


 


 ミアがステラの背後を指さした。その方向を振り向き、ステラは絶句した。


 


 「なっ…」


 


 昨日見た、夕日に照らされた赤い部屋とは違う。視界に飛び込んできた光景は、今度こそ血で真っ赤に染まっていた。地面に落ちた狼男の生首はちょうど20個。胴体から吹き出した血にまみれた石畳の地面は、まるでレッドカーペットが敷かれたようになっていた。血のカーペットの上に立っているのは、あの女戦士。凛々しく眉毛を吊り上げ、足元に転がる生首と首無し死体を見下ろすその目は、歴戦の戦士のそれだった。


 


 何の役にも立たず、傍観するしかなかったステラのもとへ、女戦士は歩み寄って来た。なにか文句を言われるのだろうか。勇者になってから人に怒られてばかりだ。そのほとんどは酒が原因だったのでアルコールのせいにできたが、今回ばかりは自分の不甲斐なさが招いた結果だ。女戦士がいなければ、ミアは今頃死んでいた。地面に広がるのは、狼男ではなくミアの血になりかねなかったのだ。


 


 こういう時は先手必勝。怒られる前に謝っておけば、相手はそれ以上責めづらくなる。数多くの叱責を受けてきたステラが身に着けた処世術だ。


 


 「すまなかった!私が不甲斐ないばかりに、仲間を危険な目にあわせてしまった。どこの誰か知らないが、ミアを守ってくれてありがとう。さあ、責めるならいくらでも、気が済むまでやるといい。気高き戦士様」


 


 ちょっと媚びを入れるくらいでちょうどいい。とにかくその場しのぎが出来ればいいのだ。勇者として、公衆の面前で一方的に怒られる事ほどの屈辱はない。こうして先手を打って誠実さを見せたことで、周りで見ている人も理解を示してくれるだろう。


 


 頭を下げて数秒。相手からの反応がない。まさかこいつ、頭を上げてとか言わないタイプか。相手から顔が見えないのをいいことに、ステラは小さく舌打ちした。こういうのが一番困る。どのタイミングで頭を上げればいいか分からないじゃないか。


 


 がしゃん、と鎧の部位がぶつかる音がした。




 女戦士が跪いている。頭を下げているステラよりも、さらに低い位置に女戦士の顔がくる形になった。上目遣いでステラを見上げる女戦士。待て、なんだその顔は。あまりに端正で、整いすぎている。中世的な顔つきの女性のみが発することのできるオーラに、ステラの胸は高鳴った。えっ、かっこいいしかわいい。カッコ可愛い。


 


 「とんでもありません。私は地主様に使える戦士として、この土地を脅かす魔物から皆様をお守りしただけです。勇者様こそ、とても勇敢でございました。真っ先に魔物へ立ち向かわれたそのお姿、しかとこの目に焼き付けております」


 


 確かに先陣を切ったのはステラだが、結果的に何もしていない。でも褒められるのは悪い気はしない。もうそろそろ顔を上げていい頃だと判断し、ステラは背筋を伸ばして、鷹揚に手を差し出した。 


 


 「私はステラ。旅の勇者だ。君の名前を聞いてもいいかい?」


 


 「リュカと申します。ここ一帯を治める地主様、アルマ伯爵直属の騎士団にて、副団長を務めております」


 


 「リュカか、よろしくな。女性で副団長とは、見上げたものだ。先ほどの戦闘も素晴らしかった。まさかあの一瞬で狼男の群れを殲滅してしまうとはな」


  


 戦っている瞬間は見逃したのだが、まるで一部始終を見ていたような口ぶりで言う。


 


 「お褒めに預かり光栄です」


 


 「そしてこちらが私の連れ、僧侶のミアだ」


 


 ステラがミアの肩を抱き、リュカに紹介した。


 


 「リュ、リュカ様、先ほどはありがとうございました。なんとお礼をしたらいいのか…」 


 


 しどろもどろになっているミアに、リュカは優しく微笑みかけた。


 


 「お礼なんてとんでもない。ミア様がご無事で何よりです」


 


 ミアは顔を伏せ、耳まで赤くしている。


 


 なんだ、そういう感じか。私、いないほうがいいやつか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ