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洞窟の壁には、全身がぬらぬらと光る蛇や、数えきれないほどの足が生えた虫など、視界に入るだけで寒気がする生き物がうじゃうじゃ這っていた。
「あの、ステラちゃん。歩きにくいからもう少し離れてくれると嬉しいんだけど」
ファリナの光があるとはいえ、照らされているのは自分たちの周りだけ。十数歩歩けばその先は闇。そんな状況で気持ちの悪い生物まで蠢いているのだから、ステラの動機は激しさを増す一方だった。はじめは控えめにファリナの裾を掴んでいたが、それが腕となり、今では腰にがっしりと抱き着いていた。
「もうやだ。帰る」
「帰らないの。この奥に目的のものがあるんだから」
「なんなんだよそれ。どうしても私に見せなくちゃいけないものなのか?」
「そうね。ステラちゃんにだけ特別に見せてあげる」
「頼んでないんだよ。見せてくれなんて一言も言ってないし興味もない」
「あのね、ステラちゃん」
腰に捕まっていたステラの手を、ファリナがそっと解いた。
「これには世界の命運がかかってるのよ」
おおよそ冗談を言っているような口調ではない。魔法の光に照らされたファリナの表情は、至って真剣だった。
「あなたたちが魔王討伐の旅をしてることは知ってる。でも正直、無理だと思うわ。私たちが戦った十年前と今じゃ、あっちの勢力もだいぶ増強されてる。人間が束になっても勝てる相手じゃない。だから私たちには、魔王軍に匹敵しうる力が必要なのよ」
「待て、お前はあっち側の人間じゃないのか」
「もしかして駆け落ちのこと?嫌ね、そんなの昔の話、若気の至りよ。今はすっかり足を洗ったわ。どうかしてたわよね。ちょっと顔がいいからって、仮にも魔物相手に恋に落ちるなんて」
魔王城での決戦の最中に駆け落ちするという、おおよそまともとは思えない恋をしたらしいファリナ。若気の至りで済まされないと思うが、本人はちょっとした失敗程度にしか思っていなさそうだ。
「そもそも私が惚れこんだのは魔王じゃないからね。あくまでその側近。別に魔王の過激な思想に共感したとか全然ないし。相手と別れたらすぐ人間側に寝返ったわよ」
「ろくでもねえな、ほんと」
「今の私はステラちゃんと同じ、魔王討伐を目的にしてる。でもさっき言ったように、人間側の勢力だけじゃ勝ち目がないわ」
「ロメオみたいな強い魔法使いがいてもか?」
「うーん、ロメオさんを金銀財宝で釣って本気を出させればあるいは…。でもそっちのほうが被害大きそう。あの人、加減知らないから」
味方としては心強いが、あまり前線には出さないほうがよさそうだ。下手すればこちらまで、魔法によって塵にされてしまいかねない。
「だから私たちに必要なのは、魔王軍と対抗しうる勢力。それが封印されてるのよ。この洞窟の奥にね」
「なんて言った?」
ステラは足を止めた。
「そんな危険なのがいる場所に、丸腰の私と駆け落ち僧侶の二人だけで向かえってのか?」
「そんな警戒しなくても平気。封印されてるって言ったでしょ。向こうから襲ってくることは絶対にないから安心して」
「せめて装備を整えてからにしないか?」
「今から戻ってたら朝になるでしょ。みんな起きてきちゃう。ロメオさんにはこのこと知られたくないから、こうして深夜にコソコソしてるのよ」
「なんでロメオにばれるとまずいんだよ」
「いいから行きましょ。ほら、最奥部までもうすぐよ」
ファリナの灯す灯りだけを頼りに、闇に包まれた洞窟の奥へ、奥へと進んでいく。一歩踏み出すごとに冷汗が止まらなくなった。




