53_失踪
結局、マッツ支部長は取り逃がしてしまった。
まだ聞きたい事があったのだけど……。
それはエマオさん達も同じだろう。
しかし、逃してしまったものは仕方ない。
エマオさんとザーレンさんは教会に残り、ベルモンド支部を徹底調査するそうだ。
マッツ元支部長の手の者が知らずに帰って来たり、本人が舞い戻る可能性もある、十二分に気を付けてもらいたい。
と思っていたら、レインさんが上町の警備兵に話を通して兵士を配置してくれる事になった。
そしてレインさんは経緯を報告するために下町に戻るらしい。
ちなみにアリアさんは既に帰ってもらっている。
これ以上ここに居られて、変な事に巻き込んでしまったらそれこそ問題なので。
これで数日はこちらには来ないと思う。
……もの凄く名残り惜しそうにされたけど。
なんであんなにボクらを気に入ってくれたのだろう?
アリアさんに友達が居ないとは思ってない。
前に港町で会った時も、浜辺のお姉さん方と楽しそうに話していたし、各地に友達も居るのだろう。
……素で話せるから、かな?
流石に浜辺のお姉さん方に「翼の魔王」であると明かす事は出来ないだろうしね。
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さて、下町まで戻って来たボクらは、まずは軍施設へと向かった。
そこでこれまでの経緯と、マッツ元支部長が帝国を欺く背任行為をしていたこと、また、配下の者も怪しい動きをする可能性があることを伝えた。
その後、レインさんと別れて仲間と合流すべく宿へ向かったのだけど、途中で皆と会ってしまった。
「買い物かな?」と一瞬思ったものの、セレナさんから告げられたのは全く違う事であった。
「すみません。
ナルちゃんが居なくなっちゃいました。」
「えっ?!」
「トイレと言って部屋を出て、それっきりだ。
宿内だからと油断した。
おかしな気配は無かったと思うから、誘拐とかではない筈なんだが……。」
驚くボクにヴェロニカさんが説明してくれる。
……でも、それじゃあナルちゃんが自分の意思で出て行った事になるけど?
「ナルちゃんは元々ベルモンドに居たんすよね?
じゃあ、孤児仲間に会いに行ったって可能性もあるかもっすけど……。」
「そういうことも話していたニャ。
でも、一緒に引き取ってもらいたい仲間が居るとは言ってなかったニャ。
仮に、本当はそんな仲間が居たとして、ウチらに言わない理由は無い筈ニャ。」
リックの仮説をスノウノさんが否定する。
確かにスノウノさんの意見ももっともだ。
「……分かりました。
レインさんにも伝えて、ボクらでも探してみましょう。
ただ、散り散りにならないように。
こちらはマッツ支部長を取り逃がしてしまいました。
本人やその仲間が何か仕掛けて来る可能性もあります。」
「逃したって……、そう言えば、そっちはどうだったんだ?」
「歩きながら話しましょう。
周囲警戒をお忘れなく。」
ヴェロニカさんに簡単に答えて、ボクらは動き始めた。
結局、夕方まで小一時間程探したけれど、ナルちゃんは見つからなかった。
レインさん経由で警備兵さん達にもお願いしたので、そちらに希望を持とう。
余談だが、上町で魔王教支部を探していた時も思ったけれど、このベルモンドの町はドワーフ族のヒトが多い。
理由はやはり、この町が鉱山町だからだろう。
鉱山では力仕事が得意なドワーフ族が活躍するだろうし、職人気質の高い彼らは加工の過程でもその腕を如何なく発揮するだろう。
そんな事を考えていたら、皆はマッツ元支部長の話題を話し始めた。
「それにしても、まさか本部ではなく、支部から魔王教を私物化していたとは思いもよりませんでした。」
「本当ですわね。
コラペやカダーでの活動も、エマオさんの指示でなく、マッツ支部長の一存で行っていたのでしょうか?」
昼間あった事を聞いたフラウノさんの感想を聞き、ティアナさんが疑問を口にする。
「いや、マッツ元支部長一人の意思とするには理由が分かりませんね。
どちらかと言うと、マッツ元支部長がハイ・エルフの里の意向に沿って行動していた、様に見えます。
ほら、カダー王国のニグラウス領に派遣されたカエデさんは、ハイ・エルフの里の意向で来ていたらしいですし。」
「……だとしたら、そもそものハイ・エルフの里の目的は何なのでしょうね?」
「う〜ん……、そこは何とも、ですね。」
ティアナさんの疑問には答えたものの、続くフラウノさんの疑問にはボクも答えが思い付かなかった。
「……それはそうと、見付からないな、ナルは。」
「もう日が暮れます。
このまま探し続けるのは難しいですね。」
ヴェロニカさん、セレナさんの言う通り、ナルちゃんは見付からない。
かと言って治安の悪くなる夜に皆を出歩かせる事もしたくない。
「今日の捜索はこれまでとしましょう。
自分で出て行って、しかもこの町の土地勘があるなら、寝床くらいは確保してるでしょうし。
季節的に夜に凍える事もないでしょう。」
「そっすね。
生活面はそんな心配する事はないと思うっす。」
ボクの言葉をリックが肯定してくれる。
「皆は宿で待っていて下さい。
ボクとリックは、一旦、上町まで行ってエマオさん達にも話をして来ます。」
「えっ?!もう夕方ですよ?」
「大丈夫か?帰りは暗くなるだろ。」
セレナさんとヴェロニカさんが心配してくれる。
けど、ボク自身は故郷に居た頃に夜の森は歩き慣れているんだよね。
リック一人増えるくらいなら負担にもならないし。
「大丈夫ですよ。
あ、皆の方こそ、ハイ・エルフの里の関係者が狙って来るかも知れません。
用心はして下さいね。」
「「はーい。」」
そのまま宿に皆を送った後、ボクとリックは夕暮れの中、上町の魔王教支部へと向かった。
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魔術を使って移動したものの、上町に着く頃にはすっかり日が落ちてしまった。
とは言え、昼間来た魔王教の建物へは迷わず来ることが出来た。
「あっ?!ナルちゃん?!」
へっ?!
リックが急に声をむ上げたものだから驚いてしまった。
ボクは別の方を見ていたためか、リックの視線を追っても何も見付けられない。
それより……、なんか──
「中に入ってったっす!
追わないと!」
「えっ、ちょっと待って、リック!」
リックは同じ孤児経験があるだけに、ナルちゃんの事は気に掛けていた。
そのせいか、ナルちゃんを見付けた事で、待ちきれず駆けて行ってしまう。
「居たっす!あっ?!」
リックを追って建物の中に入った所で、ボクにも人影は見えた。
でも、すぐに小部屋に入って行ってしまった。
……それよりも、やっぱり妙だ、建物内にも人気が無い。
いくら夜だからといっても、敷地内で誰とも会っていないのはおかしいと思う。
「クロー、早く!」
リックは完全にナルちゃんに意識が行っている。
「リック、待ってってば。
妙だよ、ここ。」
「へっ?!何が──」
リックは言い掛けて止まってしまった。
丁度、小部屋の入口から中を見た所っぽい。
「──クロー……。」
硬直したリックが何かを訴える視線を向けてきた。
けれど、その意図を汲む前に、中から声が掛けられた。
「ん?そこにクロ少年も居るのか?
丁度良い、入って来たまえ。」
この声は……。
ボクはリックに遅れて小部屋を覗く。
そこで目にしたのは、口の端を釣り上げたマッツ元支部長と、彼の手にしたナイフを首に当てられているナルちゃんであった。




