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秘密浸透作戦

帝国統一歴709年1月某日(2日目) マリーエンブルク領 第911研究所(皇帝府)円卓会議室にて


「みんな揃ったな。・・・ではこれより、ロタリンギア領介入ミッションについての作戦会議を行う・・・」

ノエルは円卓の一つの席より、他の席に着いた幹部全員を見渡しおもむろに会議の開始を告げた。

因みに、円卓にはどこが上席で、どこかが誰かの席とか言う決まり事は全くもってない。

だから、ノエルはその日の気分で適当に自分の席を選び、それを見たヴァネッサが彼の隣の席を占めるのみだ。

そうして全員が次々と適当に、思い思いに席を選ぶ。

それがここ″シン皇帝府″の円卓ルールである。

しかし、今日は円卓から少し外れた場所に一つの席が用意され、一人の見知らぬ女性がそこに座っていた。

皇帝府幹部の全員が、″一体誰だろう″との疑問の眼差しを向ける中、ノエルはその女性の紹介を簡潔に行う。

「今日は皇帝府幹部以外で、このミッションに於いて重要な役割を担う人物を招いている。彼女の名は・・・ジョアン・ダーク氏だ」

紹介されたジョアンは、本音を悟らせない完ぺきな営業的笑みで、円卓メンバー達に挨拶する。

「皆さま・・・初めまして。どうかわたくしのことは、今後ジョアンとお呼びください・・・。わたくしが今日ここにいる理由については、後程ご説明します」

彼女の挨拶を受けて、ノエルが他のみんなを安心させるよう補足説明を行う。

「彼女は・・・情報局に所属する特別エージェントだ。このミッションに限り、彼女はこの場で話される″全ての情報を共有できる″との許可を得ている」

その説明に他メンバーが頷いた後、ノエルは会議の進行役をマテウスに委ねた。


早速、マテウスが状況説明ブリーフィングを開始する。

「それでは・・・。今回のミッションについての問題点をいくつか提示します。先ずは・・・ロタリンギア領への侵入方法です。境界領域はロタリンギア防御衛星群と、少なくない星系軍艦船により完全封鎖されてますので、通常方法では・・・例え"時空転移"であろうと、艦船によるロタリンギア領侵入は不可能と考えます」

ホーク・アイ大隊を率いるテオが、追加情報をマテウスに要求する。

「境界領域へ配備されているロタリンギア星系軍の規模と、それ以外に配備された星系軍の動向は?」

「少なくとも、各境界領域に3個軍団規模はいます。全ロタリンギア星系軍の凡そ3分の1程度がそれら境界領域に配備され、ほぼ両勢力に分かれつつある残り3分の1ずつが今後の戦闘勃発に備え、首都星系付近にてお互いを監視しているとの構図です」

風雲急を告げる物騒な情報に、バルドがついつい零す。

「皮肉なもんだな・・・。如何に他領に対しては防御衛星群で完璧に守られてる各星系であっても、一旦領内星系域で争いが起きれば、そこはもう大規模艦隊戦が息を吹き返す太古の世界か・・・」

マテウスがその言を肯定する。

「はい。領内星系中に配備されている防御衛星群は、量子乱数で暗号化された自領の識別紋章を付けた艦船は無視します。今回はどちらもロタリンギア領の識別紋章″獅子とアイリス″を付けた艦同士の争いです」

皇帝府の兵站部門責任者となるグレーテがマテウスに尋ねる。

「・・・それで、星系内各都市で反政府民衆運動を裏で扇動しているという、旧ファルツ領分離独立派の首謀者とは誰?」

マテウスがその質問に答える。

「旧ファルツ領の名門貴族で、旧ファルツ公爵家の遠縁に当たるネウストリア伯爵です。彼の先祖は旧ファルツ公爵領の継承を巡り、ロタリンギア宮中伯家と最後まで争っていた大貴族家になります」

ノエルがそこに自身の・・・まあどうでも良い感想を挟む。

「・・・因果は巡る・・・恨みは深し″カサネガフチ″ってやつか。しかしまあ・・・千年近くも昔の事を今更持ち出されても、多分みんな迷惑だろうに・・・。そう確か・・・ロタリンギア宮中伯がファルツ公爵位を継げなかったのも、当時のネウストリア伯とマリーエンブルク辺境伯の反対にあったはずだけどな」

ヴァネッサが不真面目なノエルにひと睨みくれつつ、いきなり脱線しかかった話を元に戻す。

「・・・それで、ロタリンギア宮中伯家と旧ファルツ領分離独立派の間で、すぐにでも戦闘が始まる気配はあるの?」

その可能性はまだ少ないと、マテウスは否定的に意見を表明する。

「ネウストリア伯はかなり慎重です。自らが決して前面に出ることはなく、周りのシンパを使って巧妙に貴族間での多数派工作行い、併せて反政府民衆運動への援助と扇動を行っている様子です。我々参謀部の分析では、恐らく分離独立に賛同する貴族達で領内多数派を形成した後、政府系治安部隊が強権的な反政府運動弾圧を行ったタイミングで、一気に宮中伯家への糾弾と同時に蜂起し、星系内で沸騰する民意を背景に、クーデターもしくは旧ファルツ領の分離独立を成し遂げる目論見と思われます」

ヴァネッサが重ねて問う。

「・・・その時間的な猶予は?」

マテウスが慎重に・・・自身の見解を述べる。

「それは・・・長くとも精々2ヶ月程度であろうかと・・・。民衆は戒厳令にそう長くは我慢できません。一旦・・・仮にですが・・・民衆が暴発すれば、それは必然的に治安部隊による強権弾圧へと至り、そして遂には両派星系軍が正面からぶつかり合う破局カタストロフィーへと向かうのではと・・・」

ノエルも今度は真面目にその議論へと復帰する。

「時が至るまでは・・・彼らとしても、お互い成算の無い戦闘はそう簡単には始められないと言う訳なのさ。そしてその″猶予時間″にこそ、唯一我々が付け込む隙があるんだ。もし・・・オレ達の介入が間に合わずに一旦両派の間で戦闘が始まってしまえば、後はもう・・・ロタリンギアのみならず、星系世界中が次々と″パンドラの箱″を開けたような大騒ぎになるだろうな。つまりは・・・このミッションとは、如何に破局を迎える前にこれらの事態を沈静化させ、ついでに言えば・・・ネウストリア伯には、クーデターも分離独立のどちらも諦めて頂くと言うものになるはずだ。」

皇帝府の幹部メンバーは、全員厳粛な顔をしてノエルの言に頷き、オブザーバーのジョアンはただ嫋やかに微笑んでいた。


「そうとなれば・・・次の課題はマテウスの指摘するロタリンギアへの侵入方法なんだが。・・・それについてはミスティから一つ提案があるそうだ」

そんな風に、ノエルが続く話をミスティに振る。

ノエルの指名を受けたミスティが、俄然張り切って話し出す。

「はい!わたしの提案とは、あの・・・ミスランディアの"風の回廊"の応用になるの。"アレ"の効能とは、互いに離れたそれぞれの場所を一瞬にして"回廊"で繋ぐ、まるで魔法みたいな秘術なんだけど・・・あの原理について後からギル達と色々と調べた結果、あれって元々ヴィルヤが持ってた"量子トンネル効果"を利用してるみたいなの。それで・・・ あの・・・ 何と言うか・・・その説明は・・・だめ・・・ギル、お願い!」

いきなり説明役を振られたギルが、些か戸惑いながらも已む無くミスティの説明を引き継いだ。

「ええと・・・そのベリルたちが言うには・・・ボクらがいるこの星系世界とは、どうやら4次元の世界ではなく・・・実のところ6次元以上の世界なんだそうで、この星系世界でもよく理屈も判らないまま普通に使っているあの"時空転移"だって、実は"量子トンネル効果"で一旦上位の"時間と言う現象のない第5次元"を経由することで、結果的に"光速を超える移動"を実現させているとの事なんだって」

「それで・・・ミスティの言うこのミッションに於ける"量子トンネル効果"の応用とは、"時空転移"の最中に更なる"風の回廊"を作り出して、そこに"量子トンネル効果"をムリヤリ出現させたらどうなるかと言う、それはそれでかなり面白い実験なんだけど・・・」

「結論から先に言えば、ベリルたちが説明するところの"シン量子物理学"の理論的には、トンネルの中にさらにトンネルを作ると言うか・・・より具体的にはその更に上位にある第6次元を経由することで、"時空転移"の最中にそこから一旦別次元に仮脱出したあと、一定の制限はあるものの・・・再びこの星系世界の"任意の場所"に改めて出現することを可能にすると言う、まあ・・・何とも魔訶不思議な現象をこの星系世界に起こせるんだってさ」

「もちろん・・・その実現には、当然ながらボク等4人が一緒に宝玉たちの全能力を発現する必要がある訳でね・・・。まあ結局実際のところ・・・エルフ達を除けば、ボク等以外の誰にもそれは実現出来ないみたいなんだけどね(笑)!」

それは・・・またまた星系世界では反則級の、スーパー・ウルトラ・コペルニクス的転回レベルの、"シン量子物理学"理論の初披露であったのだった・・・。

ノエルを始め皇帝府の幹部メンバーは、・・・アブナイエルフ4人組を除けば・・・もちろん驚愕で既に顎が外れんばかりの表情だったのだが・・・。

・・・いつもは感情を顔に出さないはずのジョアンでさえ、流石に目を大きく見開き口元をハンカチで抑えていた・・・ぐらいだったのだ。

・・・暫くして、ようやくノエルが気を取り直して、恐る恐る・・・ギル達に再確認を行う。

「・・・それって、・・・本当に・・・この世界で実用可能な技術なのか?」

エルフ4人組が揃って大きく頷き、そしてギルが自信たっぷりと請け負う。

「全員で何回もシュミレーションを繰り返し検証したけど、十分実用可能レベルにあるって・・・ベリル他全宝玉も確認済みだよ!」

ルチアがついでにと・・・やっぱりだが余計な口を挟む。

「これってさ・・・実はガラドリエルさまや、″ヴァリノール″のエルフ達が、こちらに転移して来たり・・・こっそり覗き込んだりする技術とまったく同じものなんだって!

多分・・・これを使えばあたしたちだって、"別の宇宙"にある″ヴァリノール″に・・・どうやら行けそうなんだよ!・・・それってホントすごくない?」

それは間違いなく"すごいすごい!"のレベルの話を・・・さらっと、ここでルチアが"新たな爆弾発言"をした訳なのであるが・・・。

・・・それに伴い引き起こされた追加の騒動については、ここでは″一旦保留″と言う事で割愛させて頂くことにする。(話が進まないので)


それこそ何回目かの・・・気の取り直しをしたらしいノエルが・・・次の課題の検討に移るよう促す。

「・・・取り敢えずオレ達は、ロタリンギア領に侵入出来る手段があると仮定して・・・。次なる課題は、いったいオレ達はどこに侵入すべきか?と、その後にいったい何をするか?と言う事なんだけど・・・。そこについてはジョアンが提案をしたいらしい。・・・ではジョアン、お願いする」

「はい、ノエルさま。それについてはわたくし共で、既に準備を整えております。」

そう、ジョアンが説明を始めた。

「先ず最初に・・・皆様にお出で頂く場所は、ロタリンギア星系領首都フロランスにある・・・シャトー・ベルサイユ星系軍軍令本部に併設の、とある兵舎になります」

その常識ではあり得ない設定に、流石に皇帝府の幹部メンバー達が騒ぎ出す・・・。

「いや・・・それはないだろ?ロタリンギアの中枢地区に侵入して無事に済むはずがない!」

それは皆が当然に、その場にいる全員が思い浮かべるだろう疑問と意見を、最年長となるバルドが代弁する。

しかしジョアンは嫋やかに微笑み、ついでバルドの疑問に対しては明確に根拠を答える。

「実は・・・そうでもないのですよ。・・・昨日、ロタリンギア星系軍軍令本部は首都治安維持第22大隊に対して、5日後に戒厳令に基づく首都暴動鎮圧行動を命令しました。・・・しかし、それは最早実行に移されることはありません。なぜなら・・・その第22大隊の指揮官他全ての士官は、既に我が方のエージェント達と全て入れ替わっているからです」

「皆様にはその第22大隊の兵舎にて、彼らとそっくり入れ替わっていただきます。そしてそれからの行動とは・・・ ・・・ ・・・ ・・・と言うことになります。これにてロタリンギア首都での行動は終了ですね。・・・そしてその後の皆様の活動ですが・・・ ・・・ ・・・ と言う作戦を計画しています。ただ、これはまだ・・・不確要素もあるために、実施に移すかどうかの判断は、その後の推移とその時点での皆様の判断に委ねたいと思います」

これまた、皇帝府の幹部メンバー全員が驚愕するところの情報と内容ではあったのだが、続く協議の結果その計画とその後予測される推移の妥当性を全員が認めて、本計画案の具体的肉付けを始めたのだった。


・・・本作戦ミッションに参加する最終メンバーの構成であるが、先ずは当然ながらロタリンギアの第22大隊と入れ替わるべく、″ホーク・アイ″からテオが6個中隊を直卒することになった。

残りの2個中隊はバルドに預けられ、彼が直卒する保安局3個小隊と共に、別の・・・作戦活動に従事することになる。

そして・・・本作戦の肝となる"量子トンネル"作成班となるエルフ4人組が、今回もイーリスの監視下でこれ以上"余計なやらかし"をしないようにと、厳重に釘を刺されていた。

あと残るグレーテの役割とは、エルフ4人組が作った"トンネル"を通じて、その後の行動で必要となる物資等の補給を維持する担当である。

マテウス・ノエル・ヴァネッサの3名は、当然とも言えるが・・・マリーエンブルク星系軍の軍令本部に待機し、必要に応じて星系軍本体での陽動作戦を実施しつつ、ロタリンギアからの作戦推移の連絡を受けつつ、臨機応変な対応も可能な全般的な統合指揮を行うことになっている。

最後に・・・ジョアン・ダークであるが、彼女も彼らと共にロタリンギアに戻り、既に準備されたエージェント網に"ある指示"をすることで、本作戦実施において最大効果を与えるべく暗躍することであろう。


・・・そうして実施が決定された、このロタリンギア領への"秘密浸透作戦"であるが、その作戦名はノエルによって・・・作戦オペレーション"ロタリンギアの裏口バックドア"と名付けられたのであった。

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