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酒樽と花の都始末

承前


ロタリンギア首都惑星フロランス第13区画 第22大隊宿舎食堂


ジョアン・ダークは第22大隊宿舎食堂を臨時指揮所として指揮を執るイーリスの前に忽然と現れた。

「こちらに来るとの連絡を突然受けましたが、いったい何事でしょう?」

当初の作戦計画には無かったジョアンの出現に、些か驚いているイーリスとエルフ達一同。

本作戦「ロタリンギアの裏口」完了時間まで、あと3時間をわずかに切った時間帯であった。

そのジョアン自身はいつも通りの余裕ある笑みで、派遣部隊の指揮官であるイーリスに確認する。

「先ずは作戦進捗状況の共有を。ベルサイユは予定通り進行中。荒鷲イーグリでハプニング発生。これで間違いないでしょうか?」

イーリスがその確認を肯定する。

「そうです。バルドさん達捕縛チームから″目標″をロストしたとの連絡があり、これから彼ら4人の内の誰かに対処させる所でした」

ジョアンは頷きそして自身の意見を述べる。

「本作戦計画にはありませんでしたが、少しばかり・・・邪魔が入ったため、わたくしにも対処をさせてください。残り3時間弱で作戦を終了させるためには、わたくしがその場にいることが必要です」

「新たな敵・・・ですか?」警戒心を込めたイーリスの問い。

「敵・・・ではありません。作戦時間のロスを狙った・・・ちょっとした邪魔です。わたくしが行くことで作戦時間内に進行を戻します。・・・それで、よろしかったら、ベレン氏をお借りしたいのですが・・・」

イーリスがその狙いを尋ねる。

「どうしてベレンなのですか?」

理由を説明するジョアン。いつも通りの嫋やかな笑みで。

「他の方では作戦時間内にミッションを完了出来ません。彼のみが″目標″を直ちに再捕捉可能なのです」

イーリスはギル達4人と相談する。

「ギル。どう?ベレンを出せる?」

「それが最適解かも・・・。回廊は残り3人で維持できるけど、秘密通路の探索はベレン向きの仕事だね」

「・・・了解。僕が行って、このミッションを終わらせるのがよさそうだ」

最後にそう請け合うベレンであった。

そして、ジョアンとベレンは二人して、他のエルフ達3人が維持する″回廊″へと消えた。


ロタリンギア首都惑星フロランス シャトー・ベルサイユ軍令本部 ほぼ同時刻


そこには軍令本部を守備する保安局要員をこれも何故か無力化し、軍令本部中枢エリアを急襲する偽装第22大隊を率いるテオの姿があった。

軍令本部を守備する保安局要員は何故か全員が虚ろな目をし、そばを駆け抜ける第22大隊に反応せず無抵抗にやり過ごしている。そして本局員の足元にはトリコロールの光の残滓が漂っていた。

軍令本部警備システムも稼働しているのだが、何故か侵攻する偽装第22大隊の姿を警備用モニターに映し出すことはない。

なので、テオを始めとした偽装第2大隊のメンバーが、軍令本部の作戦指令室に雪崩れ込んだ時、それはまさしくロジェ大将らクーデター派に対しての完全な不意打ちとなった。

軍令本部作戦室に忽然と姿を現した、モンタギュー中佐に扮したテオが軍令長官ロジェの面前に、カール宮中伯の勅令である″ジャンダルム令″とロジェ大将の逮捕状を読み上げ、他の大隊要員達は作戦室内のクーデター派の参謀たちを片っ端から拘束していく。

そして・・・。モンタギュー中佐の影から姿を現した″ある人物″がロジェ大将に引導を渡す。

ロレーヌ宮殿を襲撃した暴徒に偽装した第51大隊の制圧後、テオと行動を共にしていたロタリンギア宮中伯太子ペレグリン(ピピン)その人であった。

「ペレアス!そなたの悪行はロタリンギア領民の衆目の下に全て晒された!これを見よ!」

ピピン伯太子が指し示す軍令本部の作戦室モニターには、ロタリンギア首都惑星フロランスを取り巻くように、次々と出現するロタリンギア星系軍艦船が映し出されている。

ピピンは更に言葉を連ねる。

「ロタリンギア全星系に″ジャンダルム令″が発令された。反乱派艦長は既に全員が拘束済みだ。この宙域に存在するのは、全員我が宮中伯家に忠誠を誓う者たちだけである。・・・そして、ノヴァ・ブレーヌでも我が方の艦隊による攻囲も完了し、あとはもう一人の首謀者である・・・ネウストリア伯の捕縛を待つばかりだ!ペレアス・ドゥ・ロジェ大将!そなたの野望は潰えた。かくなる上は、潔く観念せよ!」

もとより、軍令本部建物内で武装が許されているのは保安局要員のみである。ジャンダルム令により憲兵としての権限を行使する第22大隊要員に、非武装の参謀たちにはもとより抵抗のすべもない。

敗北を悟ったペレアス・ドゥ・ロジェは・・・やがて力なく俯き、程なく反乱派の全員が宮中伯親衛隊少佐の率いる2個小隊に引き渡されたのであった。


このようにして、シャトー・ベルサイユにおけるクーデターの試みは、意外なほどの静寂の中で・・・あっけなくも終息したのである。


そして、他方旧ファルツ家の主星ノヴァ・ブレーヌ 荒鷲イーグリの宮殿では


ベレンと共に荒鷲イーグリの宮殿に出現したジョアンは、捕縛隊を指揮するバルドを見つけ早速質問する。

「・・・それで、ネウストリア伯の行方は?」

バルドはここでは宮中伯親衛隊少佐に扮しており、その他のネウストリア伯の陪臣たちの捕縛を完了していた。

「済まない。俺たちがここに踏み込んだ時には、伯爵は既に宮殿内の秘密通路に消え、俺達は部隊を分けて通路内の捜索に隈なく当たってはいるが、・・・未だ発見できていない」

「今まで捜索完了したエリアは?」ジョアンの追加質問。

「この範囲だ・・・」

バルドが示す捜索済みエリアは、宮殿中枢部から宮殿外部に通ずる脱出路近辺に集中していた。

ジョアンはそれを見て直ちに断言する。

「違います。伯爵は外部に向かってはいません。・・・何者かに宮殿の奥深くに隠されたのです」

今度はバルドが驚き問い返す。

「外へではない?何者かとは誰だ?」

「・・・時間がありません。その点については″また後で″と言う事で」

ジョアンはバルドとの話を打ち切り、ベレンに向き直る。

「さて、ベレンさん。あなたの力で探索をお願いします。探す場所は、宮殿の地下深く・・・。温度変化がほとんどない・・・。ワインセラー保管庫の様な小部屋をイメージ頂ければ・・・」

ベレンがジョアンの要請を受けて、その意識を宮殿の奥深くに・・・あたかも岩に水が浸みこむように・・・這わせる。そして暫く後・・・。

「・・・地下の最果てにそれっぽい小部屋がいくつか・・・。恐らく・・・地下牢?」

ジョアンがニッコリと破顔する。

「そこです。″酒樽バックス″を隠すには最適な場所だと思いませんか?・・・そう"アモンティリアドの酒樽″」


ベレンはバルドやジョアンと共に、知覚した宮殿地下最奥の地下牢へと向かう。

そして施錠された地下牢の一室に、扉をジャラン・・・ジャランと鳴らしながら、明らかに正気を失った目をしてブツブツと小声で呟くネウストリア伯の姿があった。

「ヒヒヒ・・・アモンティリアドは何処だ・・・?ヘヘヘ・・・アモンティリアド・・・」

彼が地下牢の孤独の内に、何を独り想像し、何を恐れてこうなったかは・・・結局誰にも分らなかった。

さて置き、ジョアン・バルド・ベレンの3人は、彼をこのままイーリス達が待つ主星フロランスに連れ帰ることを決定する。

何と言ってもここはまだ敵勢力の本拠地であり、まだ隠れている敵勢力に再び奪還される恐れがある。

それに作戦時間上の制約からしても、結局それ以外の方策の取りようがなかった。

最初にベレンがナルヤの力で以って、ネウストリア伯の脳を人工冬眠状態にしてから、ジョアンと共に″回廊″経由で帰還する。

バルド他保安局部隊と護衛の2個中隊は、惑星軌道上の艦隊から転移してきた増援の宮中伯側保安局大隊指揮官に捕虜と押収した証拠資料一式を引き継ぎをした後、これまた″回廊″から全員で戻って行った。


そして今現在、イーリスとグレーテ達兵站要員の元には、双方向に出撃したテオ達のホーク・アイ大隊とバルド達保安局部隊の全員が戻って来ていた。

エルフ達4人組もそこに揃って居るが、今はとても遊ぶどころの余裕ではなく、4人共宝玉の能力を限界まで動員し6次元間を繋ぐ新たな回廊接続計算の真っ最中にあり、皆オーバーヒート寸前で大汗をかいている。

ようやくギルが叫ぶ。

「・・・計算完了!これから3分後に接続する。″回廊″の維持は30分が限界だよ!」

イーリスもここにいる全員に指示する。

「総員!順次退避を開始!一発勝負になります。心してください!」


・・・こうして、ロタリンギア浸透作戦に従事した全員が、ロタリンギア・マリーエンブルク接続領域を偶然かすめて航行した無人の貨客船内にピンポイントで無事帰還したのは、作戦終了期限の僅か10分前であった。

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