エピローグ
祭りのあと
帝国統一歴709年1月某日(作戦終了後) マリーエンブルク領 第911研究所(皇帝府)円卓会議室にて
久しぶりの皇帝府円卓会議室に、ノエル他メンバー全員が集まっていた。因みにジョアンはこの席にはいない。
前回の会議から随分日時が経過した気がしたが、実際には5日も経ってはいない。
ノエルが、いつもの様にマテウスに今回の作戦の総括を指示する。
「はい。ロタリンギア星系政府は今回の反乱及び分離独立活動の首謀者、ロジェ大将とネウストリア伯の逮捕を発表しました。・・・ペレグリン宮中伯太子の指示を受けたモンタギュー中佐の活躍で、この国家的大危機を乗り越えたとの発表です。ロタリンギア星系を取り巻く情勢は急速に安定化へと向かっています」
その報告を受けてノエルが感想を述べる。
「ではロタリンギアでも″救国の英雄爆誕″と言う訳だ。しかし彼にとって見れば、多分訳も分からずに・・・まあ、ご愁傷様かな?・・・それで反乱首謀者二人については?」
「ロジェ大将については、近く軍法会議が招集されるとの情報が。反乱の証拠は全て揃っているので・・・後は多分・・・。ネウストリア伯については、結局そのまま星系政府の精神病院に監視付きで収監されたようです。・・・結局正気には戻らなかったとか」
ネウストリア伯捕縛作戦に参加したバルドが、伯爵の逮捕にいたるロタリンギア側の経緯を尋ねる。
「・・・ジョアン・ダーク氏が、フロランス帰還後モンタギュー中佐・・・これは本物のモンタギュー中佐のことですが・・・に引渡し、中佐はそのままペレグリン宮中伯太子に伯爵捕縛を報告したとのことです。・・・ただ、本物のモンタギュー中佐の一連の行動は、何やら強い暗示を受けてのものであったらしく、彼自身はと言うと″何一つ覚えていない″と証言している模様です。実際・・・彼がどうやってノヴァ・ブレーヌの宮殿地下にいたはずの伯爵を捕縛出来たのか、またどういった手段でフロランスに連れて来れたのかは、今もってロタリンギア側では何一つ判明していない謎であるとか・・・」
ノエルがテオに笑いながら話を振る。
「さて、偽のモンタギュー中佐殿。君はカール宮中伯に会ったそうだが、・・・偽物ってバレたかい?」
テオも苦笑しながら答える。
「バレましたね。モンタギュー中佐は、あんなに変わった行動はとれないとの事です。・・・ですが、こちらが身バレする証拠は何一つ残してはおりません」
「オーケー。あちらさんにも″立場″ってもんがあるからな。判っていても話せないことだってあるだろうさ。・・・恐らくこれから、あちら側に都合の良いストーリーを何かでっち上げるだろう」
そう評価したノエルが、今度がバルトにも話を振る。
「ところで最終局面で何やら邪魔が入ったそうだが、その詳細については判明したかい?」
これまた微苦笑しながらバルトが返答する。
「まあ、だいたいの事情については・・・。詳しい内容ならばヴァネッサ殿のほうが多分良くご存じかと・・・」
その発言に顔を顰めたヴァネッサが、額を押さえつつ話しを始める。
「・・・またもや、アレックのやらかしです。あれほど″休みが欲しい″としつこく言うので・・・取り敢えず休暇を与えたら、今度は作戦内で何やらジョアンとゲームを始めてました。一応・・・作戦には致命的な影響を与えない範囲内でのゲームのようでしたが・・・。ともかく!彼には何かお灸を据えたいと思います。・・・一任いただけますか?」
ヴァネッサが言葉の最後に浮かべた壮絶な笑みに、ノエルは巻き込まれたくないとばかりに無言で小さく頷いた。
とばっちりが来ないよう、ノエルは慌てて話題を変える。
「ギル達は今回の作戦で、何か収穫はあったかい?」
ギルが他の3人と瞬時に意思疎通を交わした後に発言する。
「今回は、ボク達4人がが表舞台に出ない代わりに、各自の″オモチャ″の効果を色々試せたことかな。・・・ただ反省点として、″回廊″を維持するためだけにボクらがそこに釘付けになるのはあまりよろしくないので、そこはまた今後改善策を考えようと思う」
その話を受けてグレーテが、遠慮がちにおずおずと発言する。
「ノエル・・殿。その″オモチャ″の類ですが、・・・実現した私が言うのもなんですが、一部・・・星系世界では一般的使用には適さないものもありまして・・・今後はもっと事前に効果の検証が必要かと・・・」
この場にいる全員が、一斉にミスティを注視する。
ミスティが作った″霧の迷宮″は確かに大作ではあったのだが、仲間内では既に″ミスティの拷問部屋″と呼ばれていた・・・。
ミスティが涙声で抗議の声を上げる。
「何でよー。あれ、わたしすっごく気に入ってたのに・・・。何でみんなは分かってくれないのよー」
ヴァネッサが優しくミスティを慰める。
「はいはい。じゃあ今度は皆が納得できるように改善策を提出する事。・・・おやつの没収はしないから」
現金なミスティは忽ち笑顔になる。
「甘―い。ヴァネッサたら・・・」ルチアだけが執拗に反対の声を上げている。
ノエルがイーリスにも声を掛ける。
「イーリス。作戦を通じての感想は?」
イーリスは幾分苦い顔をしながら、自信なさげに言葉を落とす。
「正直・・・私には荷が勝ち過ぎた・・・と感じてます。私一人では処理できない問題が多く、今回奇跡的に作戦が成功したのは、ただ幸運に恵まれたとしか・・・。本当はノエルさんに指揮を執って欲しい。・・・でも、それが難しいようなら、次はマテウスさんに・・・」
しかしマテウスは冷静にイーリスの力量を評価する。
「いや、イーリス。君は十分にやれたと私は思うよ。作戦を成功に導いたのは間違いなく君の采配だ。・・・ただその采配の質と量が、今回君に対して適正だったかと問われたら・・・そこは確かに再考すべき余地はある。・・・君は彼ら特殊運用部隊の面倒も見てるわけだからね」
そう言ってマテウスは、ギル達4人組を見やって苦笑する。
イーリスに常日頃面倒を掛けてる自覚がある4人組が、如何にもバツが悪そうな顔をしている。
その様子を見たノエルが、笑いながらマテウスに問う。
「では、マテウスもイーリスにサポートって件に賛成かい?」
「ええ。でも私は彼女から指揮権は取り上げませんよ。私が彼女のサポートにつきます。その方が私の性分に合っているので。・・・それに、そろそろ軍令本部参謀部の作戦局に彼女を引き抜こうかと考えていたので、・・・ちょうど良いタイミングかも」
想定外の話の進行に、当のイーリスはと言えば目を白黒させているのだった。
そこに突然ルチアが全く別の質問を挟んだ。
「ところで・・・ジョアンはどうなったの?」
ヴァネッサがそれに答えた。
「彼女は元々″本作戦限り″のメンバーだったから、今後はめったに皆の前に姿を現すことはないと思う。ロタリンギアの後始末を終えた彼女は、再び星系世界の闇の中に消えたそうよ。・・・ただ、そうね。彼女はアレックとのゲームに勝ち、晴れて我が家の諜報部門の副官に収まったとの話だから、結局またどこかで皆と出会う事があるかもね」
「じゃあ最後に・・・」そうノエルが切り出す。
「今回の作戦″ロタリンギアの裏口″の完了で、オレ達はひとまずロタリンギア分裂の危機を未然に防げた。作戦に参加してくれた全員に礼を言いたい。・・・だけど、オレ達のこの活動が日の目を浴びて、星系世界から喝采を浴びる機会はない。言うなれば、″誰にも知られることもない無駄働き″ってことかも知れない」
「オレは星系帝国皇帝と言う大それた地位を押し付けられた時、いずれそしていつの日にか、この星系世界に真の平和をもたらしたいと思った。それはここにいる4人のエルフ達との約束でもあるし、ヴァネッサに対するオレの誓いの言葉でもある。・・・ただその平和がどんな形をしているのかは未だに模索中なんだけどね」
「そんなオレの我儘に付き合ってくれるみんなには、何とかして褒賞をと思うんだけど、ほら皇帝なんて名ばかりで実利を伴わないし、この活動はマリーエンブルク星系軍の任務外なので星系軍からの褒賞も出ない。と言う訳で、ほんと済まない!って独り思ってたら・・・意外なところから突然スポンサーが現れてね・・・」
それまでうんうんと頷いていた全員が、今度は揃って何?って怪訝な顔をしている。
「昨夜急遽連絡があったばかりなんだけど、・・・ロタリンギアのカール宮中伯が、”遅ればせながらオレとヴァネッサの結婚と皇帝即位の祝いの品を届けたい”と、外交ルートを通じて言って来てね。なるほど趣味人で知られるカール宮中伯のことだ。目録にざっと目を通して見たけど、それはもう高価な芸術品ばかりで、金銭的にも相当の額がお祝いとして包まれたみたいだ」
「・・・そうそう、テオ。君に是非渡してほしいとの直々のご指名で、フロランスの国宝級芸術品が届くみたいだぞ。・・・どうしてバレたんだろうね?」
「まあ、今回はそれらの品々と金品を、みんなへの褒賞にしようと思う。・・・そうと決まれば、この後はもちろんビアホールに突撃だな!」
皆が笑顔で、全員がみな報われた顔をしている。ギルたちもキャアキャア大騒ぎだし、ヴァネッサも優雅に微笑んでいる。
そしてテンション爆上がりしたテオによる「では、次も頑張ろうぜ!」との掛け声と、続くみんなの歓声を残響として残し、皇帝府の円卓会議室は忽ち空となった。
ひょっとして、たまたまこのシリーズに目を止めて頂いていた方。申し訳ありませんでした。
取り敢えず、ファーストミッションの完結です。
最初の構想では、いくつものミッションを一冊の本に纏めるつもりでしたが、記述をさぼっていた間に気が変わりました。
なのでこのお話は、またシリーズものとして続くことになります。
もし、読んでくださる方がいれば・・・? 引き続きよろしくお願いします。




