卒業前夜(2)
あの頃の私は馬鹿だった。どうしてだろう、なんでいつまでも続くなんて思ってたんだろう。
先輩は、卒業してしまう。
中高一貫校だからか、入学した頃はいつか自分が卒業するなんて考えられなかったし、だから身近な先輩が自分より一年早く卒業してしまうなんて思ってもいなかった。
5年間と言うタイムリミットは、諦めてしまうには長すぎたし、夕立のあとみたいなちょっとした時間を大切にするには短すぎた。
私の心の中の水溜りはまだほとんど消えていない。
時計の針が日付を越えてから2時間が経った。今日が来てしまった。卒業式が、あと7時間で始まる。
夏は今年も来る。それでも、一度卒業証書を受け取ってしまったら、制服を着た先輩が、つまらない街の駅前で、制服を着た私に手を振る夏はもう来ない。
淡い夕立の残滓が消えてしまう前に。私はイヤホンを耳にさした。かなりひび割れた液晶をタップして、先輩に恋をしていた5年間で一番聞いていた曲に耳を傾けた。
“臆病だけど冷めない心
乗り過ごして気付くんだ
今日もまた
レールは君を運んで行くから
いつも同じ見飽きた帰り道
まとめた言葉 単純なのにな
いつも上手く言えないのはなんでだろう”
(ブルー/フジファブリック)
お読みくださりありがとうございました。