彼女は一世紀近く生きる
14
『こんな時間にすまないね』
昨日はなんだか寝付けなくて、朝というのも相まり頭がくらくらしていた。校門近くを電話しながら歩いているが、他の生徒の話し声が鬱陶しく聞こえてしまう。僕は無理に笑顔を作った。
「いえいえ、こちらこそ」
垣谷さんは穏やかに続ける。
『劇の準備はどうだい? 君のことだから上手くやってるのかな』
「順調です。僕の手柄ではないですけどね」
『プロジェクト進行中は何がキッカケでトラブルに陥るか分からないからね、慎重にやることだ』
「肝に銘じておきます」
僕は道路の反対側にある佐々木を見つけ会釈する。僕は信号の前で立ち止まった。
『例の件だが、今アメリカにいるんだ。あくまで他の仕事だけどね、一応経過報告をと思って』
僕は唾を飲んだ。
『直接連絡は取れていないが、ブラウン氏の勤務先の病院と自室の位置が分かった。家族はなし、恋人もなしだ。それともう一つ。八月十二日あたりから三日間ほど、休みを取っている。半月くらい前かな。しかも毎年。ブラウン氏は日本を訪れたそうだ』
「八月十二日……何かあるんですかね」
『日本ではちょうど、お盆休みだ。しかしブラウン氏に日本の友人がいるという情報はないし、今のところは謎だね』
まるで探偵だ。少し申し訳なくなって、
「あの、余計なお世話かもしれませんが、垣谷さんの仕事に支障が出ない範囲でお願いしますね」
垣谷さんは意外そうな声を出した。
『これは仕事だよ。聞いていないのかい? きちんと君の父親から報酬はもらってる』
「そうなんですか……」
『それじゃそろそろ』
「あの!」
僕は強引に呼び止めると、
「僕にできることはないでしょうか。僕も何か……なんでもいいので手伝いたいんです」
何もしないでいるのが怖かった。じっと待っているのに耐えられなかった。信用とかそういう問題じゃない。関わって努力して苦しんだ方が、よっぽど楽だった。
『君は自分と向き合った方がいい』
垣谷さんは妙な間を作って続ける。
『目の前のことに全力で取り組めって意味だよ』
数言交わした後、僕は電話を切った。ちょうどその頃、信号を渡ってきた佐々木と合流する。
「おはよう。真剣そうな顔だね」
「洗濯物、干し忘れてさ」
僕らは校内へ歩き出す。さすがにまだ学校の外面は普通そのものだが、内面は少しずつ文化祭に向けて化粧し始める。楽しそうな声がここそこから届いてきた。
と、廊下で思いもしない人物と遭遇した。
「新井さん?」
「おお、前田くん」
二、三週間ぶりだ。柚月の先生であり、そういえば新井先生の姉だったか。背景画のアドバイザーにでもさせられたのだろうか。
「どうしてここに?」
「君が推理した通りさ。生意気なあの野郎に貸しを作るにはいい機会だ」
新井さんは手をあげる。
「感動の再会のところすまん! 私今、職員室に呼ばれててさ、また後で話聞くよ」
「ええ、楽しみにしてます」
新井さんが角を折れたところで、ぽかんとしていた佐々木が、
「誰? あの美人」
「新井先生のお姉さんだよ。美術の専門家だから、お手伝いでしょ」
少し気になっていたことではあった。柚月と新井さんはどんな話をするんだろう。柚月は僕とや明里と、南との態度で三者三様、全くとは言わないまでも違う振る舞いをする。これは深い意味のない興味だった。
教室に一度顔を出すということで、直接パソコン室に向かう佐々木と別れた。僕は軽くクラスメイトと会話した後、すぐに元来た道を戻る。
「あ、裕太くん」
身長くらいの畳んだダンボールを数個抱えた柚月は前が見えていないのだろう、通りすがりながら立ち止まった。僕は可笑しくて笑う。
「気がつかないかと思った」
「気づいてたなら声かけてよー」
昨日のことがあったからか、柚月は伏し目がちだった。
「それは?」
柚月は首を傾げてから、
「奈良坂さんに頼まれたんだ。スーパーのダンボールは取り合いになるから、朝早く取りに行ってって」
「なるほど、家近いからな」
ダンボールを一旦降ろし、身体を伸ばした。柚月は照れ笑いする。
「手伝おうか?」
「うんん、平気」
「無理するなよ」
「させてるのは裕太くんだよ」
「してるのは柚月だろ」
新井さんのことをすっかり忘れて、それじゃ後でなんて歩き出すと、すぐにシャツを掴まれた。
「どうかした?」
ここ最近、昨日の件を抜きにしても柚月が僕にあまり目を合わせてくれない。僕の方も思わず躱してしまうことがあるが。
「最近、明里ちゃんと帰ってるの?」
「……うん、遅くなることが多かったし、家も近いから。それがどうかした?」
コミュニケーションが苦手な初対面同士の人間が必死に友達になろうとする時のような、もどかしい空気がなぜか流れた。
「今日、予定ある?」
「放課後のこと?」
柚月はコクリと頷いた。
「ないけど、ちょっと遅くなるかも」
「待ってる」
大分気恥ずかしそうに、彼女は言った。
「今日ね、お父さんもお母さんもいなくて、だから夜ご飯、どこか食べに行かない?」
僕は承諾し、そこで別れた。確かに踏み出した彼女の休息になればいいと、僕はどこか安心していた。
指示の仕事がひと段落した後、僕はきまぐれで生徒会室に向かった。というのも、先ほど生徒会室書記の二年生と副会長が不穏な空気を垂れ流して立ち話をしていたのを目撃したからだ。正直どうでもいいけれど、だから、きまぐれだ。
生徒会室の前には、数人の女子がドアを囲んでいた。興味本位といった感じで、僕が近づくと驚いて道を開けた。
中から聞こえてくるヒステリックな声。副会長、中川の声だった。僕は勢いよくドアを開ける。
「あー前田さんナイスタイミング。このブサイクなチワワをどうにかしてくださいよ」
声と態度と表情からして、会計はブチ切れていた。この世の全てを見下しそうな、そしてある意味人間的な目。僕としてはこのことが一番驚きだ。
「えーと、何の争い? とりあえず落ち着きなよ」
中川は僕を見ると言葉をど忘れしたかのように口に詰まり、そのうちに上げていた肩を段々と落とした。
僕は部屋には入らず、入り口の前に手を組んで立っていた。まるで入り口を塞ぐように。
「この人が突然三年九組の予算を増やすって言い出したんですよね。会計担当は俺なんで、丁重にお断りしたんですがこの有様です。副会長権限だっつう痛いこと言って」
「は? 当然でしょ。あんた予算余らせたんだから別に使ってもいいじゃない」
「そもそも生徒会にそこまでの権限はないんですけど。この予算は俺と前田さんが上手くやりくりして残した予備の分だって言ってますよね。てか普段働けよ。ニートがなに威張ってるんですか」
「私はあんたと違って忙しいって言ってるでしょ! 文化祭も背景リーダーだし。暇な二年と一緒にしないで」
会計は本当に誰に対しても物怖じしない。僕はこいつと喧嘩するのが一番嫌だった。
「なるほどね、確かに予算余ってたし、うちのクラスは大道具でお金たくさん使わなきゃいけないから足りないかもしれない。お前、報告書持ってる? ちょっと確認したいんだけど」
会計は目を見開いた。僕は中川に背を向け、目配せしながら会計に頷く。
「ごめん中川さん、五分ほど待っててくれる?」
中川は少し迷ったようだけど、息を吐いてどかっと椅子に腰掛けた。逃げないようで、よかった。
僕は中川に声が聞こえないように、部屋の奥に移動する。
「どうするつもりです? あの人は前田さんが説得すれば従うと思うんですけど」
会計は僕にしか聞こえないくらいの声で言う。
「お前な、これは滅多にないチャンスだぞ。相手が交渉のテーブルについたんだ。提案を断るだけじゃもったいない。お前はとりあえず頭冷やせ」
この状況は僕らにとても有利だ。僕はスマートフォンを取り出し、操作するふりをした。
「お前に重要なことを教えてやる。討論には大きく二つあるんだ。言い負かせと言いくるめ。別の言葉で言うと、喧嘩と交渉。それぞれは似てるようだけど、やり方が決定的に違う」
「どういうことです?」
「喧嘩は、相手を怒らせれば勝ちだ。言い負かしたい時は相手の判断力を奪って、それっぽいことをそれっぽい風に、つまり『自分が勝ってる風に』場を作ればいい。相手を馬鹿にしたりお前みたいに後輩が先輩に命令形使ったりして余裕をひけらかして、自分以外の人間に相手の敗北を思わせればいい。でも完全勝利は結構難しい。肝心の相手がなかなか負けを認めないから」
一方で、僕は続ける。
「交渉は、相手を怒らせれたら負けだ。怒ると反発心を持って負けを認めたくなくなり、意見を曲げなくなる。でもそれじゃダメなんだ。こっちの意見を飲ませる時は、『相手に勝つ』んじゃなくて『相手と勝つ』。お前含め多くの人はこっちができてない。苛立ちに任せて相手を煽るな。苛立ちを飲み込め。交渉においては、相手を怒らせるのは相手にとっても自分にとっても利益にならない。相手に勝つのが、自分に利益を出すための唯一の手段じゃない。喧嘩の勝利は一回きりだけど、交渉の勝利は半永久的だ。相手を利用するには、交渉が有利な場面が多い」
「俺はあの人に要求することなんてありません。今更働いてほしいとも思わない。どうせならせめてものストレス発散に利用して何が悪いんですか」
ここだろう、会計の人間らしさは。良くない人間らしさのために、だけれど、会計は決定的に欠点を持っている。そしてそれに気づいていない。
「僕は別に交渉をしろとは言ってない。交渉という選択肢がお前の頭に浮かばないことを言ってるんだ。これは今回のことだけではなく。お前にとって中川はどうでもいいんだろう。僕もどうでもいい。でもお前はいつまでもそうやって敵を作り続けるつもりか? 敵を作り続けた結果の今だろう。お前に僕以外の味方がいるのか?」
言い過ぎかもしれない。しかしいつか言わないといけないと思っていた。
会計は特に同級生に対して、変な方向にプライドが高すぎる。何もかも見透かしたようでいて、自分のことが見えていない。
確かにこいつは優秀で頭がいい。フィクション的な『最強キャラ』。登場人物を高みから見下ろすような、欠点がなく無敗のキャラクター。物語の中で唯一『特に口実のない予告ホームランを打てる人物』。
会計はそんな『作り物』の失敗作だった。この場合の失敗作はマイナスの意味ではない。
こいつ自身がそうなることを望んでいるわけではないと思う。その辺りが僕と似ていなくて、そして会話が妙にかみ合う理由なのではないか。
一種の感情移入をしているから、僕はこいつにうるさいことを言いたくなった。
「とりあえず現状をなんとかするか。お前のさっきの言葉を条件にして、こっちが言いくるめる」
「……さっきの言葉?」
「僕の数少ない得意分野だ。僕に合わせて合いの手入れろ」
振り返ると、多少の笑顔を作り中川に向かった。
「今中山に確認取ったんだけど、予算はなんとか間に合うってさ。小道具が持参できるから、そこから予算を回せる。気遣わせてごめん」
僕は会計に目を向けた。
「お前もさあ、言い方に気をつけろよ。だから友達できないんだ」
ムッとするフリをする会計を見て、中川は一瞬口角を上げた。
「悪いけど中川さん含め三年は今本当に忙しいんだよ。実際僕もあんまり来れてないし」
「かといって一人で終わる量ではないんですが」
「人手が足りないなら二年のメンバーに頼めばいいんじゃないか? 一時的にならさすがに手伝ってくれると思うけど」
会計はため息をつき、少し気まずそうに腕を組んだ。
「……まあ、そうですね。そこまで毛嫌いされてはないでしょうし」
僕は第三者であり関係者。中川に今まで友好的な態度を見せているから、敵視されてはいない。
中川の心にあるのは、会計への敵意だ。春から二人は対立し、そのせいで中川は他の生徒会の女子の後輩三人に、生徒会に来ないように命令した。つまりこの一見無茶苦茶な言い争いは、簡単に言えば中川が会計に喧嘩をふっかけたというだけの話だ。予算なんかどうでもいい。中川はクラスのために動くような人間ではないし、問題になったらかなりの痛手を負うような危険な金にわざわざ手を出すほどの馬鹿ではない。
僕が会計の未熟さを指摘するような演出をして、その欲求を満たす。それから中川自身には損にならない要求を持ちかける。あくまでお願いとして、ただし断る口実がない状況で。
視線を泳がせた中川に、僕は向き直った。
「中川さん、話つけてきてくれないかな」
「なんで私が?」
「たまに廊下で話してるの見るし、仲良いのかなって。中川さんの言うことなら従うんじゃないかな」
僕は一度だけ、目を見て笑う。
中川はあっさり承諾し、足早に去っていった。
「ぼっち発見」
「なんですかその雑な出会いは」
あの後会計と別れて佐々木と神田とコンビニに昼食を買いに行った昼頃、僕は玄関近くの生徒ホールでぼっち飯をしていた会計の隣に座る。佐々木と神田も近くに座っていた。
普段のような昼休みという決まった時間があるわけではないので、だらだらと話している人やスマートフォンを触っている人、置いてあるピアノに集まっている人など様々だ。がやがやという音がとても似合う。
「うわあ健康に悪い……」
「世界一贅沢な昼食だ」
カップ麺にドーナツ、アイスコーヒー。こういう贅沢は若いうちにしておかなければならない。食べても太らないのは特権である。
もうとっくに三分経っただろう、少し柔らかい麺を割り箸でかき混ぜると、独特のクセになる香りが漂ってきた。
「うわ、テロリストだテロリスト。公共の場でこれみよがしにカップ麺食べるのは犯罪です」
「ツイッターに上げたりしてな」
「それはそれで悲しい図ですけど」
「『ぼっちでカップ麺、なう』とか」
「なにそれ泣ける」
流石の会計もしないらしい。
「そういや、お前のクラスは何するの?」
「唐揚げの出店ですよ」
「お前にしては普通だな」
「ボケを期待されても。俺が決めたわけじゃないですし」
「お前からボケを抜いたら何が残るんだよ」
「タンパク質、ですかね」
「分かりやすいやつだな」
「淡白な性格でして」
「上手くないぞ」
ラーメンとアイスコーヒーのコントラストを味わいながら、ドーナツの封を切る。僕はそれを半分にすると、会計に差し出した。会計は目を丸くする。
「どんな毒が入ってるんですか?」
「遅効性だから安心しろ」
正直に言って、雑務を押し付けていることへのお礼だ。生徒会の仕事に振り回されている暇はない。いくら暇な会計だとはいえ、僕のパシリだとはいえ、多少感謝してもいいだろう。
「さっきの。ありがとうございました」
今日はたくさん面白いものが見れる。笑うのもどうかと思うので、目を逸らした。
「そういえばこの前のオセロの頼みごと聞いてなかったなーと思ってさ。これで相殺な。これは僕が放置してた問題でもあるし……」
「あの人、注意した方がいいと思いますよ」
僕は首を傾げる。注意はしてるつもりだった。
「まあ仲良くしろよ、同級生と」
会計は困ったように肩をすくめた。
しばらくダラダラと話し続け、食べ終わって僕は席を立った。
「そろそろ行くよ。あんまりサボってても総責任者さんに怒られる」
「中山さんでしたっけ? 前田さんの元カノの」
「失礼って言葉知ってるか? 調べとけ」
「すんません」
それにしても、そう会計は言う。
「中山さんみたいな気の強い女性に罵られたいという欲求が、人類永遠の夢だというのは否定できません」
「お前を僕と同じ人類にするな。豚野郎」
「別に前田さんに罵られたくはないんですけど」
「僕はお前の欲求のために罵ったんじゃない。お前はもっと人間になれ」
「無意味な説教ですね。豚の耳に念仏ってやつです」
「馬だろう馬鹿が」
「上手いこと返されたぁ!」
どうせ冗談だろうが。それだけ無遠慮だから友達ができないのだ。
佐々木と神田は先に戻ったようで、僕は教室に足を向ける。会計は半歩後ろについてきた。
「そういや、垣谷氏からの定期連絡は来たんですか?」
僕は会計を見る。知らぬ顔をして、僕は返した。
「ああ、今日の朝来たよ。僕の方でもいろいろ調べてるけど、やっぱりあの人が頼みの綱だな」
「まあ仕方ないっちゃ仕方ないんですけど。俺の方でも動きましょうか?」
僕はこいつを知らない。後ろを歩いているから表情は見えず、足音も聞こえなかった。
「いいよ、別に」
「気をつけてくださいね。もうそろそろ」
彼は僕を見ずに続けた。
「茶番が終わる時分です」
「ああ、無能の到着ね」
いきなりの罵倒に驚きつつ、教室の真ん中には人だかりができていた。人だかりというか、背景画を描いているのを囲んで見ているようだ。
「なにやってるんだ?」
僕は明里の横に立ち、しかし背伸びしても見えない。
「背景画が進んでないことは話したでしょ? 上手い人がいなくて。ピンチヒッターの柚月がすごい絵上手いんだよ。なんで教えてくれなかったの?」
僕は窓際に回り込むと、大きな紙に靴下で座り込み、調子よく鉛筆を走らせる柚月を見つけた。絵を描く時に見せる真剣な表情だ。
なんでか、と言われると当惑してしまう。それはもちろん柚月の色彩感覚のことがあるからだが、なにより本人がそれをあえて望まなかったからだ。
「色彩感覚がなくとも、鉛筆画の下書きならできるよ。絵の具で色付けするなんて誰でもできる。あの子は天才だからね、このくらいはイージー過ぎる」
隣に新井さんが立っていた。僕は柚月を眺めたまま、
「新井さんは、柚月は絵を描き続けるべきだと思いますか?」
『単二色の異世界』、そして『死神のワルツ』。僕がそこに見たのは、彼女の絶望感だった。今の彼女が、僕と漫画を作る時の彼女が苦しんでいるとは思わない。しかしあの二枚の絵を思い出すたびに思い直すのだ。あの二枚は、圧倒的に完結している。
彼女の世界は、閉じている。
「描き続けるべきだよ。絵の世界は、あの子の世界だ。辛くても苦しくても、楽しくても幸せでも、あの子の絵は生きて、見た人に忘れさせない。自分を見てくれる人がいる限り、誰かと生きている限り、人は呼吸するのを止めてはいけない」
弱々しいあの姿を、近づいても気づかないくらいに集中しているので、僕が意地悪く少し押しただけでバランスを崩してしまいそうな彼女を、僕はかつて悪い意味で意地良く、特別視していたのだろう。
苦しんでほしくない。彼女には、幸せでいてほしい。
そんな願いはやはりおせっかいで、しかし僕はやっと彼女の前進が見たくなった。だから僕はおせっかいにも、彼女の背中を押したのだ。
彼女は人間で、僕と同じだ。一世紀近くを生きて、九十九パーセントの凡人と一パーセントの変人と出会う、同じ人間だ。人間は苦しんで、外の世界を知る。だからこそ僕らは、人間は変わる。
彼女は一世紀近く生きる。僕が彼女を助けるからだ。




