リコリス
13
やる気がない、とは言ったけれどやはり高校生、文化祭というイベントに前向きな人も僕らのクラスには十分にいた。文化祭二週間前、いよいよ野外劇準備を始めようという結束会のようなホームルームでは、思っていたよりもクラスは活気づいていた。
総責任者を兼任する中山明里が上手くクラスメイトとやり取りしながら連絡事項を済ませる中、僕はクラスを見渡してそう分析する。四十人の中、十人が積極的で二十人がそれに追従し、残りの十人が輪の外にいるといった風だ。一般的なグループ構成ではないだろうか。
そんな二十人の追従する彼らを積極的にさせるのが、中山明里のリーダーとしての魅力であった。しかしこの場合、僕が心配するのは輪の外の十人だ。
その話は後に語らざるを得ないとして、やがて僕らはシナリオをプレゼンする段階に入った。彼女が密かに用意した三つの『捨て案』を混ぜて投票させることで、彼女は見事に全員参加感を出して見せた。彼女自身捨て案なんて言っていたけれど、おそらく他のクラスであれば普通に通用するレベルの案だろう。ものすごく上から目線の物言いだが。
「それではさっそく、各係でミーティングを行います。明日からの仕事が見えたところから、係ごとに解散してください」
彼女がそう言うと、教室は掛け声でもかけるように立ち上がった。僕は各係のリーダーに、必要な情報が書いてある紙を配って回る。大道具、小道具、背景、衣装、音響。各係とも……背景係を除けば、リーダーはとても協力的だった。
「やっぱあんたは便利ね。あんたが相手だと誰だって味方になるから」
彼女がいい意味で言っているのか皮肉で言っているのかはわからなかったが、そんな便利なポジションを買われて遊撃隊みたいな仕事を与えられたのだ。
「裕太くん……」
質問攻めがひと段落した後、柚月が困ったように僕に話しかけてきた。
「私は……何をすればいいのかな」
僕は首を傾げる。
「柚月は小道具係だよね?」
もじもじとしている彼女を見てどうしようかと迷ったが、今回は助けてあげることにした。
僕は中山明里の方を向く。
「……っ」
僕は口が詰まった。彼女はすぐに僕の視線に気づくと、
「どうかしたの……裕太」
僕はまた助けられる。
「明里、柚月のこと頼めるか?」
彼女はチラッと柚月を見た。全て察したように柚月の手を握ると、彼女は柚月に笑いかけた。
「ちょうどよかった。会議の資料が溢れててさ、手伝ってくれる?」
甘やかし過ぎだろうか。でも彼女の今にも泣き出しそうな表情を見ると、厳しいことが言えなくなってしまったのだった。
静まったパソコン室で、僕はひたすら文字を打ち込んでいく。シナリオに肉付けしていくだけなので勢いよく、僕は集中が途切れないように画面に見入る。考えに考え、頭が痛くなってきた。
古びた蛍光灯のように画面が点滅し、やはり機種自体が古いのだろう、触れてみると液晶までかなり熱くなっていた。ひと段落して 一息つくと、周りに誰もいなくなっている。夕方六時、下校時刻だ。
「お疲れさん」
パソコンに触れた手のせいなのか、差し出されたリンゴジュースは少しぬるかった。振り返ると、明里は机に寄りかかっている。
「進度はどうなの?」
「七割かな。明日には終わる」
優秀優秀、と彼女は笑い、時計を指差した。 僕は電源を切り帰る準備をする。
「待っててくれたの?」
その声は、彼女が部屋の明かりを消す音と重なった。
「なんか言った?」
「いやなんでも」
まだ外は赤く明るく、僕は彼女の半歩後ろを歩いていた。いつも通りだった位置取り。彼女のオチのない話に耳を傾け、適当に相槌をうって二人過ごすのを、僕は思い出していた。気の利いた話題を探そうとするあたり、僕は成長したのかもしれない。
学校前の信号待ちで、彼女は柵に乗り座る。
「だらしないぞー、ってかはしたない」
「いいじゃん。誰も見てないもん」
「僕が見てる」
「見ないでヘンタイ」
ひどい扱いだ。彼女はいい笑顔をしていた。
「彼岸花が咲いてる」
用水路の近く、彼女は地面に屈み込んだ。僕は車が来ないか気にしながら、彼女の横に歩み寄る。
「覚えてる?」
「なにを」
彼女は僕を見ると、また逸らすように顔を背けた。
「中学時代。学校の近くに、この季節は彼岸花……リコリスが咲いてたの」
「……リコリス?」
ああと、彼女は笑った。
「彼岸花のラテン語だよ。裕太にはこっちの方が馴染みあるよね」
リコリス。レガシーに登場する、記憶を代償とした蘇生魔法。
「ストラップ、ローリンレガシーのやつでしょ? その花が彼岸花」
僕はカバンに付けているそれを寄せて見る。春に画材を買いに出かけた時、柚月にもらったものだ。アニメにもたまに出てきていたから見覚えはあったけれど、それが蘇生魔法の由来だとは知らなかった。
「悲しい思い出、独立、諦め……再会」
そして、そう彼女は僕を見る。
「特別な想い」
彼女は、明里は立ち上がり、前を向いて歩く。強くて、弱い。僕と似たようなコンプレックスを持っていた彼女は、彼女らしく強がっている。素になりにくい立場で、素になれる場所の少ない彼女は僕よりよっぽど大変だった。
「ありがとう」
「なにが?」
「柚月のこと」
彼女は他人事のように頷いた。
「なんで最近私が柚月に絡んでるかとか、興味ある?」
あるよ、僕らはまた信号の前で立ち止まる。
「私、柚月のこと嫌いだったんだ」
それはなんとなく、分かる気がした。
「あの子とは二年の時もクラス一緒だったんだけど、目を向けられたことはあっても、一回も私のこと見てくれなかったの。住む世界が違うっていうかさ、だから私も柚月と仲良くなりたかった。嫌いというか……苦手なのかな。一年間かけた私なりの気遣いも、何一つ伝わらなかった」
彼女は道端に転がる小さなコンクリートの塊をコツンと蹴ると、不器用に転がって用水路に落ちた。
彼女はもう一度地面を蹴る。
「これでもやっと、気持ちの整理がついたの。あんたからあの子の病気の話を聞いて、何回も考え直した。春頃、私すごい感じ悪かったでしょ? 若気の至りだよ」
僕は笑えなかった。
「簡単にあの子の心を開かせたあんたと、あんたの特別になれたあの子。やっぱり……悔しかった!」
彼女はまた地面を蹴る。
僕のそれは、偶然だった。春のあの国語の授業中、それまで僕は、そして柚月も、互いのことを見ていなかった。初めて視界に入ったのは、腹痛で苦しそうにする彼女を見たから。彼女は余裕のない状態で、僕を視認するしかなかった。深く考えないエゴが僕を動かし、勝手な興味で互いを知った。
今から考えると、大してロマンチックではない出会いだ。
「あの子は変わったよ。クラスメイトと喋れなくて泣いちゃうなんてこと、今までならなかった。柚月も、普通の女の子なんだって……だからこそ私は、あの子に勝てないんだろうなって思った」
ため息にも似た笑い。僕は彼女を見つめた。
「ここまで言ったら、分かるよね。あの子と仲良くする理由。言わせないでよ」
「……分かってるよ」
夕焼けの中、赤く赤く何も見えなかった。彼女の笑顔も、僕の笑顔も、眩い光に埋もれていった。
「優しいからな、昔から」
僕は見えない彼女に言った。
「中学の頃、僕は明里のそういうところが好きだったよ」
次の日。三年生は野外劇に向けて、本格的に準備を開始する。今日含め数日休みを挟んだ十日間、受験勉強を忘れて高校生活最後のイベントに取り組むのだ。クラスごとに作るTシャツに身を包み、なんとなく今からお祭り気分だ。
遅刻者もなく安心したところで、僕のクラスでも活気よく準備が始まった。こういう時に自発的に行動できる人材が十分揃っていて、僕や明里がいちいち指図する必要もない様子だった。僕は数言明里と交わし、音響係とともにパソコン室に行こうとする。
「ごめん、先に行っててくれるか?」
音響係リーダーの佐々木に一声かけると、僕はまた教室に戻った。柚月に歩み寄る。
「ゆづ……」
がやがやする教室の中、目立つわけでもなく離れる少女。住む世界が違うような、そんな雰囲気。
彼女は、『浅野さん』だった。
僕は彼女の目の前に立つ。
「柚月」
彼女は視線を泳がせる。僕は躊躇いなく、彼女にデコピンした。
「いでっ」
「僕を見ろ」
「えっ……えと……」
逃げ出しそうな彼女を強引に、気持ち的に捕まえた。柚月は段々と固くした身体を解いていくと、奥底の気持ちを覗かせる。眼の奥に、言葉はなくても彼女がいる。
三十秒ほどだろうか、彼女は僕の、下半分ではあるが目を見つめていた。僕は振り返り、手を引いて歩き出す。
「奈良坂さん、いいかな」
「前田くん?」
小道具係リーダーである奈良坂さんは愛想よく、僕を、そして柚月を見た。
僕は半歩下がり、柚月の背中をポンとたたき、背中を押す。柚月は小さく頷いた。
僕はそのまま振り返り、パソコン室へと向かった。
「ああ前田くん、準備できてるよ」
パソコン室の隅の方、音響係の彼らを見つけた。リーダーであるいつも笑っている佐々木、コミュニケーションが苦手そうな神田。そしてなぜか高梨がいる。
「高梨、お前は大道具のリーダーだろ。なんでここに?」
二人掛けの席で、パソコンも立ち上げずに座っている高梨の隣に座る。
「もうすぐそこの会議室に召集があるんだよ。涼しいここで待ってるんだ」
「サボってるのバレたら中山さんに怒られるよ」
佐々木はニヤッとしながら言う。
「な、何が言いたいんだよ」
「高梨くんって中山さんのこと好きなんでしょ?」
ものすごい直球だ。僕はパソコンの電源を入れ目をそらす。
「なぜバレた……」
「僕は人の心が見えるんだ」
恐らく僕と会計以外には言っていない新井先生の名迷ゼリフを引っ掛けるあたり、なにか不思議な迫力があった。ニヤリとした笑みも不気味に見えてくる。
「前田は気づいてたか?」
「全然」
全然気づいていた、の省略形だ。日本語文法としてはおかしいけれど。そもそも高梨を脚本係に誘ったのも、明里のことがあったからだ。今思えばしてはいけないことをした気がしているのだが、その場の思いつきである。僕は悪くない。
恥ずかしがるだけ恥ずかしがった後、高梨は僕らに口止めをしてから去っていった。
「面白いよね、高梨くん」
なんだかオカマっぽい語尾とイントネーションだが、佐々木に関しては違和感は少ないのだ。中性的な顔立ちで「女子力」の高い彼は、第三の性別といえば過言ではあるが、イケメンなのでなんとなく許される。中身は女好きの普通の男子高校生だ。
「前田くんは、昔から彼のことを知ってたの?」
え、と僕は目を見開いた。
「あいや、口ぶりがさ。なんとなく長い付き合いに見えて。中学は違うんだよね?」
すごいな、と僕は失笑した。
「まあね。昔ってほどじゃないよ。知り合ったのは中学二年の夏前くらい。あいつ野球部だろ? それで先輩とトラブルがあったらしくてさ……。その解決に、協力したんだ」
高梨は二年生にして、強豪校にもかかわらず唯一スタメンに入っていた。三年生の先輩云々といった、よく漫画なんかでみる理不尽な話だ。実際被害を受けたのは先輩の方で、高梨は無事怪我もなく済んだのだ。被害を与えた張本人が他人事のように言うと神様に怒られるが。
「その時に、あか……中山とも知り合ったんだよあいつは。僕と中山と同じ高校に行きたいなんて言って、したくもない勉強を頑張ってたのは光栄な話だけど」
今更付け加えることでもないが、もちろん僕のやったことは褒められるべきことでは全くない。高梨に怪我をさせようとした先輩の、犯行の証拠を抑えた上で反撃し足を骨折させる。そして後日現れたその先輩の先輩である高校生の集団は明里を拉致しようとしたが彼女に嵌められ失敗し、駆けつけた僕に顔面が青くなるまで殴られるという、今だから客観的に語れる笑い話的裏話だが、無論、冷静になったからこそ笑いにくい。
僕は佐々木と数言交わした後、残りのシナリオを埋めていった。
その時昔を思い出したからだろうか。僕は前々から思っていたことを実行に移した。
夏の終わり、夜が早まる。シナリオ完成には予想以上に時間がかかり、明里に提出する頃には校内には他に誰もいなくなっていた。僕らは業務連絡を兼ねながら、帰路に着く。
「今日、父親が帰ってくるんだ」
明里は溶けそうな棒アイスを掬うように食べながら、少し真剣そうな顔になった。
「土日しか帰ってこないんじゃないの?」
「分かんないけど、突然」
「だからスーパーに寄ったのか」
一昨日作ったカレーでも食べようと思っていたが、父親にそれを食べさせるのはなんだか悪い。スーパー袋を提げて帰る男子高校生なんて目立ってしょうがないけれど、僕には慣れたものだ。
「あんたって地味に料理上手いからね」
「珍しい、褒めるなんて」
明里はいたずらっぽく笑う。
「いいお嫁さんになるね」
「できればお婿さんになりたいかな」
「独身でもやってけるよ」
「僕にどうなって欲しいんだよ」
同じ中学校だったこともあり、僕と明里の家はそこそこ近い。貧乏だった中学時代、明里の家からお裾分けをもらっていたこともよくある。
「材料から言って、ハンバーグ?」
「うん、まあ」
明里はニヤニヤ笑った。
「なんかかわいい」
雑談もそこそこに家に到着すると、早速料理を始めた。完成が見えたところで、汗で鬱陶しい制服を着替えて戻ってくると、父親が帰ってきていた。
「あ、おかえりなさい」
ああとだけ言い残し部屋に戻っていくと、数分後にリビングに集まり、僕らは夕食についた。
「お父さん」
僕は真っ直ぐに目を見て言った。
「母さんと昔何があったのか、教えてもらえませんか」
僕は母さんと父親が一緒にいたのを一度も見たことがなかった。父さんが交通事故で亡くなってから、母さんは鬱病を患ってなかなか家に帰って来なくなった。ある日突然、僕らが元々住んでいた家からすぐ近くの新築の一軒家、つまりこの家に僕と姉を引っ越させ、そしてその時から僕らは父親と生活し、母親と二度と会うことはなかった。突然現れた、母さんよりも二十歳年下のあの人に、僕も姉も困惑せざるを得なかった。僕以上に他人に敵対的な姉は、ついに一度も父親と口を利くことなく、立派な国立大学に合格して家を出たのだ。僕を残して。
「話聞けたの?」
スマートフォンを握ると、明里のそのメッセージが目に入った。ベッドに座りながら返信を打とうとして、何の気を起こしたのだろうか、通話ボタンを押していた。
『こんばんは』
「こんばんは」
すぐに電話が取られて慌てて耳に当てた。
「今迷惑だった?」
『うんん別に、お風呂上がったとこ。あんたも梨食べる?』
シャリ、という音が聞こえてくる。
「もう梨の季節なのか」
『うん、美味しいよ』
「僕は梨よりもリンゴかな」
『分かってないなあ』
僕はベッドに腰を下ろすと、いつものように弾力十分に押し返された。父親からもらう過剰なお小遣いで買ったものだ。過剰といっても僕の感覚がおかしく、常識の範囲内なのかもしれない額だが。
こんな風に何不自由ない生活を送らせてもらえているだけに、何の文句も言えないのだ。
これは垣谷さんから聞いたんだけど、そう前置きをした。
「あの人、職場は東京なんだって」
『え』
明里は阿保みたいな声を出した。
『それで……毎週末に……』
新幹線で数時間。僕は初めて聞いた時、つまり東京で垣谷さんに会った時、こんな感じに絶句していた。
「俺とあの人が出会ったのは、東京の喫茶店だった。俺がまだ大学生で、お前の父親が亡くなってすぐの頃だ。あの人はその喫茶店で働いていて、俺はそこでよくシナリオを書いてたんだ」
当時、趣味でシナリオ作りをしていた父親は、それを母さんにたまたま見られたそうだ。母さんは息子が、つまり僕が小説を書いていることを知っていたから、それを話題にして親しくなった。父親にとっても母さんは実の母親と同じくらいの年齢だったため、第二の母親のように個人的に抱えていた悩みや相談を持ちかけていた。
「あの人が鬱病を抱えていることも、俺は知った。そのせいで、とは言ってなかったが、突発的に金を荒く使ってしまうことも知った」
若山マウトにとって、生みの親は母さんだった。父親は初めてシナリオ小説を他人に見せ、母さんは興味深そうに読んでくれた。父親は初めて報われたような気がしたのだろう、僕と同じだ。
元々才能のあった父親は、初めて他人に見せるためのシナリオを作った。それが社会現象を巻き起こすことになる、『ローリンレガシー』だ。
しかし母親が、それを読むことはなかった。
「あの人の作っていた借金は、二人の人間に解決できる額ではなかった。だからあの人は姿を消した。今のどこにいるのか、生きているのかも、わからない」
父親は平然を打ち立てて続ける。
「あの人は、俺の恩人はいつも、最後にも言っていたよ。裕太と貴音は私の命よりずっと大切だと」
やっと垣谷さんの言っていた意味がわかった。
父親は母さんと籍を入れることで、半ば強引に僕と姉を守った。守るための口実を作った。父親は自分を犠牲にして、母さんの「大切なもの」を守った。
ロガシー人気の決定打になった「バッドエンド」。それは父親と母さんとの最後を写していた。
「どう思う?」
全てを語り終え、僕は月を見上げながら訊いた。
『何を?』
「何でも」
『どうだろう』
彼女が慎重に言葉を選んでいるのが聞こえてきた。彼女らしくないなと、僕は少しの間スマートフォンを耳から離す。
『……とは、思うよ』
「ん?」
『あんたは』
彼女は唾を飲み込んだ。
『裕太は、どう思うの』
「……僕は」
複雑な、気持ちだった。
母さんについては、もう何も思わない。あの人は僕らを見捨てたのだ。生活費もないのに借金取りだけ残されて、僕と姉は二人で生活していた。大切だと言う真意がどちらにせよ、僕には関わりない。事実は嘘をつかない。
だから僕は、父親を考えた。僕はこの頃、この人について様々なことを知らされてきた。
家族でないこの人。恩人ではないこの人。父親でないこの人。
僕は間違っていた。不器用で口数の少ないこの人は誤解されやすいのだろうけれど、だからこそ僕の思っていたような人間ではなかった。
だから僕は何をしたいのか。そんなことは考えるだけ野暮だ。僕は昔とともにあの人を思い出した。
冷徹そうな男が家族になり、家が気まずくなった。父親を敵視するうちにどこか不仲になり、出て行ってしまったあの人。唯一の家族だったあの人。
聞いてほしい話がたくさんある。会わないうちにいろんなことがあった。僕らが知らないことがあった。勘違いしていたこともあった。
「僕は、姉さんに会いたい」
もう強がることなんて忘れたかった。今はとにかく姉と、貴音と話がしたかった。




