第12章 最後の一日 その7
バカジャネエノ、アイツ
チョーキモインデスケド シンジャエバイイノニ
アノコマジムカツク マジウザイ
亡者たちの声に混じって、人間の声が聞こえてきた。
違う、これは生きている人間の声じゃない。
ダリィ モウヤッテランネエ
ダイッキライ シンデホシイ ッテイウカ、シネ
ザケンナヨ テメエ
その声は、学校自体に染み付いた残留思念のようなものだった。
きっとこの学校に通う何百人と言う人間全員の恨みや妬みが溜まりに溜まって、亡者たちを呼んでいるんだろう。つまり、亡者たちを引き寄せているのは山田たちじゃない。学校に染み付いた生徒たちみんなの負の感情が残留思念となって、この大量の亡者たちにエネルギーを与えているんだ。
亡者たちが逃げ出さないのは、ここがまさに奴らにとってのホームグラウンドだからか。
すると教室を囲んでいた亡者たちが、僕に気がついてワラワラと近づいてきた。
対決は、こっちも望む所だ。やつらがこっちに向かってくれば携帯の電波が届くようになるだろうし、アマネちゃんにとって有利な状況になるだろう。
「よぉし! かかってきやがれ!」
僕は、光る腕を振り回しながら亡者の群れの中に飛び込んだ。
教室の中では、アマネちゃんがヤンキーたちに捕まりそうになっていた。
「痛ぇ!」
アマネちゃんの腕を取ろうとした浜本が、思わずその手を押えてうずくまる。
彼女の手には、金属の棒のようなものが握られていた。その形には見覚えがある。以前、心霊現象研究会で小山内翔子が持っていた警棒型のスタンガンだ。
「勝手に借りてきたよって、電圧の加減がわからへんねん。怪我じゃすまんかもしれんで」
スタンガンを振りかざすアマネちゃんを見て、三人の手下たちは及び腰になる。山田から罵声が飛んだ。
「お前ら、ビビってんじゃねえぞ。三人で同時に掛かりゃそんなモンどうってことねえだろ」
「でもよお、これ結構痛ぇぞ」
スタンガンの攻撃を受けた浜本がしかめっ面で答える。山田はさらに怒りの声をあげた。
「ビビってっと、てめえから先にしめんぞ!」
巨漢のリーダーに怒鳴られて、浜本と鈴木、そして名前のわからない後輩のヤンキーは、アマネちゃんとの距離をジリジリと詰め始めた。
「アマネちゃん、気をつけろ!」
僕の叫びは、彼女には届かない。
「しまった!」
それどころか、教室の中の様子に気を取られているうちに、亡者に右足を絡め取られてしまった。僕はオーラを両腕からしか出すことができない。だから、どうしても下半身が弱点になってしまうんだ。
亡者に掴まれた右足からみるみる霊力が抜けていく。両腕のオーラが弱くなった。
恨みや妬みの塊である亡者たちは、そんな一瞬の隙を見逃してはくれなかった。何体もの黒い人影が塊になって覆いかぶさってくる。
「くっそう!」
やつらの得意な人海戦術だ。
全身をふさがれて、身動きが取れなくなる。おまけにドンドン霊力が吸収されはじめた。このまま霊力を吸収され尽くせば僕まで亡者になってしまう。
でも、そんなことよりも、心配なのはアマネちゃんだ。
「やめぃ、放せ、放せこのアホンダラ!」
教室の中で、彼女はヤンキーたちに飛び掛られて床に押し倒されていた。スタンガンがはじき飛ばされて転がっていく。
それを見て、山田が教壇からゆっくり彼女に近づいた。
「おまえら、手足押えろ。顔は殴るなよ。ビデオの価値が下がるからな」
手下にアマネちゃんの身体を羽交い絞めにさせると、山田はとても中学生とは思えない下品な笑みを浮かべた。ごつい指が容赦なく彼女のシャツを引きちぎる。
アマネちゃんの白い肌が露になった。
「ダッセーブラジャーだな。しかもひでえ貧乳だし、萎えるわ」
後輩が、へへへと鼻を擦る。
「先輩、じゃあ俺、いいっすか。俺はどっちかっつうとこのくらいの方が」
しかし、山田は譲らなかった。
「バーカ、どんなエサでも最初に食うのはボスって決まってんだよ」




