第8章 ファーストデイト・ラストキス その5
――でも、そう思うことは危険だ。
特にアマネちゃんには、もう期限が迫っている。未練を残しちゃいけない。
「……コレ、どうしたん?」
ふと見ると、僕の腕の中でアマネちゃんの身体が弱い光を放っていた。
「ウチ、成仏するんかいな」
微かに光る自分の腕を見ながら、アマネちゃんは不思議そうにつぶやいた。
成仏がはじまったんだろうか?
でもその光り方は、亡者を追い払うときにアマネちゃんの出すオーラや、今まで見た幽霊の成仏とはまったく違っていた。明らかに光が弱い。
恐れていたことが現実になろうとしている。
背筋を冷たいものが走った。
アマネちゃんのこの世への未練が成仏を妨げているんだろう。亡者堕ちとまではいかないけれど、そのか弱い光は、彼女の行く次の世界があまり良いところではないことを予感させた。
アマネちゃんも、そのことに気がついたらしい。
「ガキさんの時とちゃうやん。ウチ、天国には行けんのかな。やっぱり未練があるからやろか。でも、しゃあないやん、生きたいんやもん」
アマネちゃんの涙は止まらなかった。光は弱いまま、球状になって彼女の全身を包みはじめる。
「ゴメンな、セージ。ウチ、地獄行きみたいや。どうしよう、セージ、怖い、なんでウチが地獄なん? ウチ、なんも悪いコトしてへんのに!」
僕は、彼女を抱く腕に力を込めた。
僕だって、これまでアマネちゃんが「一番上等な次の世界」に行くことに何の疑いも持っていなかった。
だって、天使だぞ。アマネちゃんが天国に行かなくて、誰が行くっていうんだ。
湧き上がる怒りをぐっと押さえ込んだ。ここで彼女を不安にさせちゃいけない。ムリヤリに笑顔を作った。
「大丈夫、大丈夫だよ。アマネちゃん。僕がついてるから。地獄でもどこでも僕がすぐに追いかける。二人で一緒なら、次の世界でもきっと楽しいよ」
アマネちゃんは泣きながら大きく何度もうなずいた。
「せやな、ウチ待っとる。セージが来るの待っとるよ」
「ああ、すぐ行くから、アマネちゃんがどこに行っても絶対に追いかけるから」
「……セージ、大好き」
彼女の最後の言葉だった。
その言葉とともに彼女の身体の感触は消え、僕の両腕は空を切った。彼女を包んでいた微かな光も、まるで線香花火のように消えていった。
桂木天音の四十九日は終わった。
夕暮れの砂浜で、僕はいつまでも彼女のいた空間を抱きしめていた。
四十九日まであと二十一日




