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第8章 ファーストデイト・ラストキス その4

「えっ?」


 驚いて、身体の下にいる彼女の顔を見つめた。アマネちゃんの頬は夕陽のように真っ赤に染まっている。


「前に一回言うたやんか、一日デートしてその終わりに夕暮れの砂浜でファーストキス。ウチの最後の未練や」


「デート?」


「今日一日デートしてたやろ。自分、なんやと思うとったん?」


「だって、カミカゼ・ナインの公開録画だって……、そ、それにファーストキスは、ホントに好きな人とするんだろ」


「そうやで」


「えっと、なに? じゃあ僕はどうすればいいの? あっ、わかった。もしかして変身? そっか、変身すればいいのか? ええと、コーキでいいんだよね。大丈夫、さっき見たばっかりだからかなり正確に再現できると思うよ」


 目を閉じてさっき見たカミカゼ・ナインのコーキの姿を思い出そうとした。すると、下から思いっきり顔をはたかれた。


「このドアホ!」


「へっ?」


「好っきゃねん」


「うん、だから、今からコーキに」


「人の話はちゃんと聞き。ウチは、自分のことが好きや言うてんの」


「自分って、……ええっ? 僕?」



「そうや」

「僕って、……僕だよ。クラスのいじめられっ子で、スク水着て校内マラソンして全裸でラジオ体操した挙句に自殺した、最低ランクの下条聖二だよ」


「そうや。巨乳好きで、そのくせ貧乳のウチにも隙を突いてキスしようとするヘンタイや。でも、誰よりも優しいし、人の気持ちを思いやれるし、やるときはやる男や。なにより、ウチのことメチャメチャ助けてくれたし」


「……アマネちゃん」


「ウチな、最後にセージとキスして一生を終わらせたいねん。セージはどないなん? ウチのことキライなん? もし、セージがウチとなんかキスしとうない言うんやったら、しゃあない、ウチはもう亡者にでも何にでもなったるで」


 そう言って、アマネちゃんは僕の胸にしがみついてきた。


 もうドキドキして何がなんだかわからない。


 とにかく僕は、この四週間、胸の内に秘めていた大切な想いを口にした。


「幽霊になってはじめて屋上で会ったときから、僕はアマネちゃんのことを僕の天使だと思ってるよ」


「さ、サブイボでるわー」


 僕の大切な想いも、死後七週経った幽霊少女には通じない……わけじゃなかった。


「でも、そんなサブいトコも大好っきゃで」


 アマネちゃんは僕の胸元に顔を寄せると、アゴを上げて目を閉じた。


 ぷっくりしたクチビルが小さく震えている。


 キスしたら、彼女はいなくなってしまうかもしれない。ふとよぎるそんな想いももう僕を止めることはできなかった。


 アマネちゃんの肩を抱きしめると、彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。


 その瞬間、全ての光や音が消えて、柔らかい感触だけが伝わってくる。


(これが、天使のクチビル。大好きなアマネちゃんとのキスなんだ)



 どのくらい過ぎただろうか? 唇を離すと、彼女は言った。


「ダメやん」


「ご、ごめん。僕も初めてだったから上手くなくて」


「そうやない。キスしたら、未練がなくなってスウっと成仏できる思うたのに、全然ダメやん。未練なんかなくならへん」


 アマネちゃんの瞳からみるみる涙があふれてきた。


「なあ、なんでウチ死んだんやろ。こんな風に思うたんはじめてや。ウチ、死にとうない。だってまだ十五歳やで。セージと一緒に、もっといろんなトコ行ったり、もっといろんな話したり、もっとキスしたかった」


「アマネちゃん」


 今まで現世に心残りはないと言い続けてきたアマネちゃん。その彼女が初めて見せた弱気な姿だった。かける言葉が見当たらず、僕はただ彼女を抱きしめた。


 僕たちの思いは同じだった。


 もっと生きたかった。


 せっかく二人出会えたのに、もうおしまいなんて。


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