第5章 霊感少女と非霊感少女 その1
その5 霊感少女と非霊感少女
目が覚めると、やっぱりまた駐車場だった。
珍しく、すっきりとした朝だ。
寝覚めのいい幽霊っていうのも奇妙なカンジだけど、現実そうなんだから文句を言っても始まらない。
そうだ。起こった事は、受け入れなきゃならない。その上で、どうすればいいのか。何ができるのかを考えるんだ。
なんだか、すがすがしい気分だった。
こんな気持ちになったのは、天音ちゃんの金色の光を浴びたせいだろうか?
やっぱり、彼女は僕にとって天使のような存在だった。
地縛霊の少女は、今日も僕の頭の上にいるんだろうか?
僕たちの距離は、幅にして約一メートルしか離れていない。でも、高さでは十五メートルくらい差があった。
僕は、その差をイッキに飛び越えた。
早くアマネちゃんに会いたかった。会って、昨日のお礼が言いたい。それだけじゃない。これからのこと、いろんなことを話したい。ていうか、とにかく彼女の顔が見たい。
幽霊少女は、いつものように屋上の柵の辺りを漂っていた。
「アマネちゃん!」
僕の顔を見て、彼女はニッコリ微笑む。
「セージ、おはよう」
彼女の笑顔を見ると、頭で考えていた話したいことがパッと吹っ飛んで空っぽになって、ようやく一言言うのがやっとだった。
「あ、ありがとう」
「へっ? ああ、昨日のことかいな。そないなこと気にせんでええて。セージらしゅうないなー」
そう言うとアマネちゃんはまた微笑んでくれた。
だけど僕としては、それじゃあ納得できない。僕は、僕の天使である桂木天音の横にいるのにふさわしい男になりたい。
根に持つようだけど、ガッカリ君とは呼ばれるのはゴメンだ。できれば彼女に、「セージと一緒で良かった」って思って欲しい。
「あの、僕、昨日一晩考えたんだけどさ。聞いてくれるかな」
「うん、ええよ」
「僕がしなきゃいけないのは、やっぱり僕が自殺したって事実をみんなに認めさせることだと思うんだ。そりゃあ、吉沢たちを恨む気持ちはある。復讐したい気持ちだってある。それは全部認めるけど、それよりも真実がうやむやになっていることのほうが放ってはおけない」
そして、僕が本当に自殺したんだってことを知っているのは僕だけ、みんなに知らせることができるのも僕だけなんだ。
「僕の自殺を知ってもらった上で、裁かれる人は裁かれ、改心する人は改心すればいい。何も変わらないやつは変わらないかもしれない。それは生きている人間に任せるしかないしね」
「へぇー、なんや、もう大丈夫みたいやな。頼もしいカンジになっとるやん。でも、自殺を認めさせるってどないすんねん」
「うん、ちょっと考えがあるんだ」
「考えいうても……うちらの声は生きとるやつらには聞こえへんし、遺書代わりの日記だって触れへんわけやろ」
「そうだね、ゴースト・ルールってのがあるんだもんね」
「そうや」
「でもさ、そのゴースト・ルールって、どのくらい正しいのかな?」
「えっ?」
「ゴースト・ルールは幽霊同士の間で語り継がれているだけで、天使に告げられたわけでも死神に教えられたわけでもないんだろ。いろいろと穴があるんじゃないのかな。現に例外事項その一もあるわけだし」
「穴?」
「まずゴースト・ルールNo1、『生きている人間は幽霊の姿を見ることができないし、声を聞くこともできない』ってやつだけど。たしかに僕の家族やクラスの連中は僕らのことがわからなかったよね。でも、この世の人全てがわからないとは限らないだろ。これにも例外があるかもしれない。たとえば、霊能力者や霊媒師は別、とか。昔の映画で『ゴースト』ってあるんだけど、あれも死んじゃった主人公が霊媒師の力を借りて残した奥さんの危機を救うんだ」
僕の話を聞いて、アマネちゃんは目から鱗が落ちたような顔になった。
そうだ。僕は、もっと彼女のそんな顔が見たい。
僕のことを頼れるやつだって思って欲しいんだ。
「なーるほど、セージにしては考えたやんか。で、誰か心当たりはあるん?」
「うん、アマネちゃんも知ってるだろ。ウチのクラスの小山内翔子」
「あーあ、あの有名な」
僕は、新生・下条聖二の未練清算プロジェクトの標的に、同級生の霊感少女を選んだ。
小山内翔子。心霊現象研究会所属。
オカルトおたくとして学校ではかなり名の知れた人物だ。
彼女なら、幽霊の姿の一つや二つ見えても全然不思議じゃない。
二年生のときの宿泊研修でも、僕らのグループの部屋に霊がいるとかって大騒ぎしてたっけ。それ以外にも、毎日毎日校内のどこかしらで除霊と称した怪しげな活動にいそしんでいる。
僕も、いつだったか「あなたがイジメられるのは悪霊のせいです」とか何とかいわれて三十分ぐらい清めの舞いを踊らされたことがあった。
もちろん、そんなもんでイジメがなくなったりはしなかったけど、そのとき彼女が着ていた巫女さんのコスプレみたいな衣装が薄手で妙に色っぽく、すこーし乳首が透けて見えていた。ぶっちゃけ、その日はオカズにさせてもらった。
生前の数少ないスウィート・メモリーだ。
「セージ、自分なんかイヤらしいこと考えてるやろ」
気が付くと、僕の顔にアマネちゃんのジトっとした視線が突き刺さっていた。
「ア、アマネちゃん、それも霊能力か何か?」
「そんな都合のいい力あるかい。女のカンや。しっかし、ビンゴかいな。せっかく見直しモードに入ってたのに、もうガッカリやわ」




