第一話 冒険者に憧れて
新作作りました。
短編にしようかと思いましたがいくつかに分けました。短い話ですがお付き合い頂ければと思います。
ぼくが冒険者というものを知ったのは、まだ十歳にもなっていない頃だった。
あの日、村の近くにある森で、ぼくは道に迷っていた。
村の子供たちと一緒に木の実を探しに来たのだが、珍しい色の鳥を見つけて追いかけているうちに、いつの間にか一人になってしまったのだ。
最初は、すぐにみんなと合流できると思っていた。
けれど、歩いても歩いても見覚えのある場所には出ない。
空が赤く染まり始めた頃には、ぼくは泣きそうになっていた。
そんなときだった。
「おやおや、こんなところに子供が一人か。どうした?」
突然、背後から声がした。
振り返ると、そこには見たこともない格好をした男の人が立っていた。
背中には大きな剣。身体には使い込まれた革鎧。腰にはいくつもの袋がぶら下がっている。
その姿は、村の大人たちとはまるで違っていた。
「迷子になったのか?」
「……うん」
「そうか。なら、まずはここから離れよう。暗くなると魔物が出てくるからな」
男の人はぼくの頭を軽く撫でると、手を差し出した。
ぼくは、その手を握った。
帰り道、男の人は森の歩き方や、足跡の見分け方、魔物が近くにいるときの注意点を教えてくれた。
そして、村の入口まで送ってくれた。
「おじさんは、どこから来たの?」
「俺か? あちこちだな」
「何をしている人なの?」
男の人は少し考え、それから笑った。
「冒険者だよ」
その言葉が、ぼくの心に焼きついた。
村の外には、知らない世界がある。
森の向こうには、見たことのない街があり、遠くの山には伝説の魔物がいるかもしれない。
そんな世界を旅し、人々を助け、ときには恐ろしい魔物と戦う。
それが冒険者なのだと、ぼくは思った。
「ぼくも冒険者になる!」
その日から、ぼくの夢は決まった。
それから何年も経った。
ぼくは十八歳になり、村で暮らす同年代の子たちが畑仕事や家業を継ぐ準備をしているなか、一人だけ違うことを考えていた。
冒険者になる。
その夢を叶えるために、ぼくは両親を説得しなければならなかった。
「駄目だ」
父さんの返事は、予想どおりだった。
「冒険者なんて危険な仕事だ。魔物に襲われて帰ってこなかった人間を、お前だって知っているだろう」
「でも、冒険者がいなかったら村だって困るじゃない!」
「だからといって、お前が行く必要はない」
「ぼくは回復魔法が使えるよ! 怪我をした人を助けられる!」
ぼくは両手を握りしめた。
回復魔法を覚えたのも、冒険者になるためだった。
攻撃魔法は得意ではない。でも、傷を癒やす魔法なら使える。小さな切り傷程度なら、今ではすぐに治せるようになっていた。
母さんは、ぼくと父さんの顔を交互に見ていた。
「あなた、この子は昔からずっと冒険者になりたいと言っていたでしょう?」
「だから心配なんだ」
父さんは、静かに答えた。
「夢を持つのはいい。だが、夢だけでは生きていけない」
その言葉に、ぼくは何も言い返せなかった。
それでも、諦めるつもりはなかった。
何日も話し合った。
家の仕事を手伝い、村の人たちの怪我を回復魔法で治し、魔法の練習を続けた。
そして出発の前日。
父さんが、ぼくに小さな袋を差し出した。
中には、いくらかのお金と、使い込まれた短いナイフが入っていた。
「……持っていけ」
「父さん!」
「勘違いするな。賛成したわけじゃない」
父さんは、いつもより少しだけ厳しい顔をしていた。
「自分の身は自分で守れ。知らないことを知ったふりをするな。危険だと思ったら逃げろ。恥をかいてもいい。生きて帰ってこい」
母さんは、ぼくを抱きしめてくれた。
「ちゃんと食べること。眠ること。そして、辛いときは誰かに頼るのよ」
「うん!」
ぼくは笑って答えた。
「大丈夫! ぼく、絶対に立派な冒険者になって帰ってくるから!」
あのときのぼくは、冒険者になれば毎日が楽しくて、たくさんの人を助けられると信じていた。
世界には危険がある。
そんなことは知っていた。
けれど、その危険がどれほど身近なものなのか、ぼくはまだ知らなかった。




