進化の光
テネブリスアニマにある進化の間。
アサンはそこでランクアップの準備をしていた。
最初は仁が部屋に居る状態で試したが、何も起こらなかった。
仁の代わりにケーレスが居ても同じだった。
これにより、進化する際は一人で無いといけない事が分かった。
進化可能な存在が二人居た場合はどうなるのかは後日試す事になった。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
アサンはランクアップ開始前に仁との会話を思い出してた。
「些細な事でも見落とすな」
それが仁の命令だった。
仁はランクアップ時に何が起こるのか分からなかった。
アサンも分からなった。
だからとにかく情報を持ち帰る事を優先した。
持ち帰れるかは不明だが、アサンは全力で取り組む積りだ。
「何、鬼ならぶん殴れば良いか」
ハッハッハッと笑いながら空中に浮かぶ操作パネルからランクアップを選択する。
そして部屋が光に包まれた。
包まれたと同時に、部屋は元に戻った。
「……何が起こった?」
アサンは呆気に取られた。
選択して光満ちたと思ったら、全て終わっていた。
「なんと報告すれば良いのだ」
アサンは落胆した。
解説に数時間割いて、壮大な冒険譚を語ろうと思っていた。
それが数秒で終わりました、意外に言う事が無い。
「許さんぞ、進化の間!」
壮大な八つ当たりだ。
許さないと言っても、何か出来るわけでも無い。
ただ、アサンの怒りのこぶしを振り下ろす先が見つからなかった。
「仕方ない、出るか」
アサンは渋々進化の間を出た。
仁達が心配そうに玉座の間で待っていた。
「アサン、ランプアップおめでとう」
仁はアサンが正気なのを見て、胸を撫で下ろした。
ランクアップ時に万が一暴走した場合の備えとして全員で待機していた。
「はっ、ありがとうございます陛下」
まずは仁が声を掛けた。
「強くなってんのか、おい?」
「当然だ」
マカンデーヤが容赦の無い言葉を浴びせる。
彼の発言は間違っていない。
本来ランクアップすれば目に見えて強くなる。
しかしアサンのステータスは雀の涙ほどアップしただけ。
アサンはランクダウンしたとはいえ、その基礎ステータスはランク9の物だ。
ランク1からランク2に上がってもそこは更新されない。
アップ分はレベル10(ランク1)からレベル1(ランク2)のレベルアップボーナスだけ。
「基礎ステータスの大幅な更新は無い様じゃのう」
「今のままでも十二分に強いと分かっただけ良かったわ」
強さにさほど興味の無いケーレスとコレンティーナが茶々を入れる。
『ランク10に上がった時、またはアイテムによる特殊進化時にどうなるか。後者はアサン達で試す勇気は無いけど』
仁はアサンのステータスを確認しながら考えた。
仁は気になった。
ランクダウンする必要はあったのか?
それがゲームの仕様と言うのなら分かる。
しかし、ここは異世界だ。
アイアン・サーガ・オンラインのルールに縛られるのは可笑しく思えた。
『ランクアップと言う行為そのものにカラクリがあるのか?』
仁はそう仮定するしか無かった。
アサンのランクアップには24時間も掛かった。
何があったのか聞けると踏んだ。
「アサン、ランクアップはどうだった?」
「はっ、光が溢れたと思ったら終わってました」
「そ、それだけか?」
仁は驚いた。
現実では一日経過しているのに、アサンに取っては数秒の出来事だった。
「おいぃ、それだけかよ!? てめえの都合で一日も待たされたんだぞ!」
「一日だと!?」
マカンデーヤの発言に今度はアサンが驚く。
「マカンデーヤの言った事は本当だ」
なんとか冷静さを取り戻した仁が言う。
「ほっほっほっ、流石は陛下ですのう」
「何かあると見通せるなんて、陛下で無いと無理ですわ」
ケーレスとコレンティーナがここぞとばかりに持ち上げる。
仁は適当に愛想笑いをして流した。
「私にとっては一瞬でしたが……」
アサンはまだ困惑している。
「ランクアップする時に冬眠に近い状態だったのかもしれない」
「今回は認識にズレがあると分かっただけ良かったですのう」
「私達も覚悟しておけばもう少し何か分かるかもしれないわ」
仁が仮説を述べ、ケーレスが更なる検証の必要性を訴える。
「なるほど。ランク3になる際には私も一層感覚を研ぎ澄ませましょう」
アサンも虚勢を張る。
アサンが次にランクアップする前に追加情報が手に入らないなら、アサンでも何か得るのは難しい。
『ランクアップに変な仕込みが無いと良いが……』
仁は静かに最悪の可能性に眉をひそめた。
仁達を転生した何者か。
転生以降はまだ何も介入して来ていない。
しかし、進化の間がその者の仕込みだとすれば……。
ケーレスが南西の集落から持ち帰って戦利品。
それと合わせれば、仁達の転生には指向性があると仁は考えた。
それをアサン達に伝えるべきかどうか、仁にはまだ踏ん切りが付かなかった。




