南西の集落
近くにあるゴブリンの集落は全部で4つ。
南東の集落は昨晩壊滅した。
残りは北東、東、南西の集落。
その中で南西の集落だけ孤立していた。
仁は南西の集落を指定した。
東方面の集落だと、マカンデーヤが勝手に両方とも滅ぼす。
それは仁の戦略に合致しなかった。
「畜生、なんで俺様がお守りなんだよ!」
マカンデーヤの怒声が響く。
「貴様のお守り等不要だ」
アサンが冷たい目で睨む。
二人は南西のゴブリンの集落近くで火花を散らす。
事の発端は仁の命令。
仁はアサンがレベル10になる事を優先した。
そうなると襲撃の主攻はアサンになる。
マカンデーヤは戦いたい。
助攻では満足に戦えない。
東方面なら2つ目の集落でマカンデーヤが主攻になれた。
仁はアサンがレベル10になったら一度帰還せよと厳命していた。
マカンデーヤが自由に暴れられる余地は無い。
「ちっ、貴様だけレベル10に成れそうだからって、いい気になるなよ!」
「陛下にもっとも信頼されているから、この成り行きは当然だ」
「それならてめえを潰せば、俺が一番か?」
「やめておけ、我が魔道の真髄を味わう事になるぞ」
「玉座の間を出て補正も無い癖に大口を叩くか!?」
「ハンデがあった方がどちらか上か分かりやすかろう?」
二人の性格は水と油。
仁と言うストッパーがいないとすぐに喧嘩になる。
仁がいても喧嘩になる。
アイアン・サーガ・オンラインでは二人がお互いのフレンドリーファイアで食らったダメージの方が敵から受けたダメージよりも多い。
仁が戦闘をオート処理した際、何故か無傷で勝てる相手にテネブリスアニマ軍が半壊する事が日常茶飯事だった。
仁も詳しいログを見る前はサーバー側の露骨な難易度調整と思っていたほどだ。
実際はアサンとマカンデーヤがペアを組んだ時のみに起こる現象だった。
「ほっほっほっ、お二人とも落ち着いた方が良いのう」
ケーレスが二人の間に割り込む。
骸骨に胃があれば、今頃は耐え難き胃痛に苛まれていただろう。
胃が無いはずなのに、ケーレスは胃がある場所を腕で抑えていた。
幻痛だ。
「陛下を命を優先すべきだな」
アサンが最初に矛を収める。
アサンは自分の地位が盤石だと信じている。
喚くだけの狂犬を無視する事にした。
「ちっ、レベル10になったら後のゴブリンは寄こしやがれ!」
マカンデーヤも渋々落ち着いた。
流石に2対1で戦うほど馬鹿では無い。
1対1なら、アサンの連れていたゴブリンスケルトンは全滅していた。
「良かろう」
ゴブリンと言う資源は有限だ。
なら無駄な殺戮は経験値泥棒と同義。
流石のアサンもそんな無駄な事をする気は無かった。
密かにケーレス方面にゴブリンを流す程度の嫌がらせを企んだ程度だ。
「では20体のゴブリンスケルトンで集落を囲みますかのう」
ケーレスは自分のとアサンから一時借りたゴブリンスケルトンを使役した。
そしてゴブリンが逃げられない様に集落を囲んだ。
魔石一つ笑う者は魔石一つに泣くのだ。
一体たりとも逃がす気は無かった。
「アサン、参る!」
アサンは宣言と同時に駆けだした。
ゴブリンの集落の前に屯していたゴブリンが反応出来る前に彼を肉塊に変えた。
そこからは昨晩と同じ一方的殺戮が続いた。
集落の入り口近くでマカンデーヤが腕を組んで不機嫌そうな顔をしている。
「まだレベルが上がらねえのかよ?」
「敵はランク1だけですしのう」
「遅い!」
マカンデーヤが吐き捨てる。
仁ならマカンデーヤに同意しただろう。
アイアン・サーガ・オンラインの時に比べて取得経験値が低い。
これではレベル20とレベル30など夢のまた夢。
しばらく、アサンの無双を見守る二人。
そして、気付けば、あらかた片付いていた。
「レベル10になった」
アサンが言うか早いか、マカンデーヤが集落の中に飛び込んでいった。
とはいえ、ゴブリン110体の内、80体は既にこと切れていた。
「大人しく俺様の糧になりやがれ!」
叫びながらゴブリンを千切り殺すマカンデーヤ。
しかし、残ったゴブリンは雑魚ばかりで逃げることに全力だ。
ゴブリンスケルトンで逃亡の足止めをしているが、それでも逃げるゴブリンの方が数が多い。
結果、ケーレスが魔法攻撃で仕留める数が増えた。
「ちっ、レベルが2しか上がらなかったぜ!」
マカンデーヤが不満そうだ。
ケーレスは黙っていたが既にレベル6だ。
「集落の中を漁って帰ろう」
アサンが色々な物を集め、乱暴にゴブリンスケルトンに手渡す。
アサンは顔に出さない様に必死だったが、ランクアップ出来る事が嬉しかった。
この世界に来て初のランクアップ。
その栄誉は誰にも渡す気は無かった。




