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私の中の知らなかった世界

  先日、春奈の通う学校で事故があったそうだ。女子高生が飛び降り自殺をしたらしい。命には問題なく、今もなお昏睡状態で眠り続けていると春奈から聞いた。

  学校にはカウンセラーが常駐するようになり、私は春奈と一緒に寝るようになった。春奈は何も言わなかったけれどおねぇちゃんとして役得です。すぐに元気で可愛い春奈に戻り、春奈に部屋を追い出されたけどね。



  今日は喫茶店と居酒屋の仕事が休みで春奈と待ち合わせのデート。なんで待ち合わせ?と思わなくもなかったけれど、可愛い春奈のお願いだものすぐに頷きました。


  待ち合わせ場所は駅前近くの噴水の前。待ち合わせ時間はお昼前の11時、ご飯食べた後は街を散策する予定って言っていたのに春奈はまだ来ていなかった。

  周りを見回しても、そこに春奈らいし人物は見つけられなかったけど、何故か女性の集団がいる。キャーキャーと黄色の声が段々耳障りになってきた時、時計を確認すれば11時を過ぎていた。


  待ち合わせ場所が違う、なんてことはないとは思うけどな。駅前のロータリー横、噴水の前ってこの場所よね。

  あの女性の集団の中には春菜はいないと思うし、誰が芸能人でもいるのかな?でも、私には関係ないか。

  春奈が遅刻なんて珍しい、何かあったのかも。メールもlineも着信はないし。電話、してみようかな。

  ここだと周囲が騒がしすぎて、あまり人の迷惑にならない場所に移動してから電話しようと決める。

  「秋奈、まって」

  ぐいっと、腕を捕まれる。

  「きゃっ」

  引かれた腕の力が強すぎて、後ろにバランス崩してしまうけれどそのままぎゅっと腕のなかに閉じ込められた。

  見なくても分かる、この声やこの香りは悠斗くんだって、なんで悠斗くんがこんなところに。

  「ごめん、秋奈。大丈夫?」

  顔を見上げれば、夏の光りをあびてこんがりと日焼けした悠斗くんがいた。

  そこらのモデルやアイドルにも負けない顔立ちは、そこにいるだけで自然と人の目を集める。あの、黄色い悲鳴の集団は悠斗くんが原因だったのかと気が付いた。

  「うん、離して。悠斗くん、春奈知らないかな?待ち合わせ時間過ぎてて」

  なんで腕の力が強くなるかな。これじゃ、動けない。

  「ごめん、俺が呼び出した。春奈は来ない」

  見上げていると、首が痛くなってくる。

  「悠斗くん、痛いから。離して」

  閉じ込められていた腕の中からは解放されたけれど、私の手は捕まれたまま。

  「秋奈に話したいことがあって、春奈に協力してもらったんだ。これ、春奈から秋奈への手紙。先に読む?」

  「悠斗くん、手を離してくれないと読めないよ」

  右手が悠斗くんの左手に捕まったまま。これで読むって無理だよ。

  「ほら、こうしたら読めるだろう」

  器用に手紙を読みやすいように差し出してくる。私以外に読まれないようにという配慮付きだ。

  えっと、なになに『あき姉へ 今日はちゃんと18時までに帰ってくること。ケーキを用意しておくのでお祝いしようね 愛しの妹、春奈より』

  どういうこと?お祝い事って何かあったかな。それに、18時なんてそんなに遅くならないと思うし。

  「悠斗くんのはこの手紙を知ってるの」

  春奈のメッセージの意味が分からなくて聞いてみた。

  「いや、読んでない。いいのか?」

  頷くと、ざっと目を通したようだ。その後くしゃっと手紙を握り潰した。

  「あいつ……さすがに外泊は無理か。しかも18時って早すぎる、あいつら、なに考えてる。俺の協力したいのか、したくないのかワケわからん」

  なに外泊って、18時なんて早くないよ。それに協力ってなんのこと?ますます分からない。

  「悠斗くん?」

  「わりぃ、春奈が言わんとしていることはわかった。秋奈を18時までには送り届けるから」

  「えっ、いいよ。そんなことしなくても、せっかくの休みだから映画でもみて帰るから。そんなに遅くならないと思うし。それに話だけならすぐ終るでしょ」

  せっかく街に出てきたのなら、買い物もしたいな。せっかく春奈を着飾って遊ぼうと思ったのにな。

  「ごめん、すぐ終わらないと思う。先にお昼食べよう、秋奈は何が食べたい?ピザとかパスタでいいかな」

  すぐ終わらない話って、一体なんだろう。でも、お腹は空いているのでご飯は食べたい。


  行ったのはピザ食べ放題のお店でした。パスタかサラダを1品頼んで、焼きたてのピザがテーブルを回ってくれて色々なピザが食べられて大満足。シナモンシュガーとかキャラメルチョコとか甘いデザートピザもありお腹がはちきれそうなくらい。

  私がパクパク食べるている様子を、悠斗くんが微笑みながら見てくる。気まずくて、ますます食が進んじゃうのは仕方ないよね。でも、2人でご飯食べるの今日が初めてだ、もっとゆっくり食べれば良かったかな?いやいや、無理だよ。あんな優しい目で見られたら恥ずかしすぎて顔を見れないもの。

  「秋奈もっと食べる?」

  「もう、入りません」

  体重計乗るのが恐ろしいくらいに食べたのに、まだ食べろと言うの。

  「残念。秋奈が食べてる様子見るの好きなのに」

  んーっ。何だか悠斗くんが甘い。何も食べてなくて良かった。もしも食べていたら、きっと詰まらせていたかも。

  「ほんとだよ、秋奈が好き」

  何かさらっと言われたような気がする。なんだか喉か乾いてきたかも。テーブルの上にあるアイスティを少し飲む。なんだか暑くなってきたかも。

  「秋奈が好き、秋奈こっちみて」

  空いていた片手をそっと触れられた。そして悠斗くんと目が合う。というより無理矢理目線を合わせられた。

  「秋奈だけが好き」

  触らなくてもわかる、顔があつい。絶対に熱もってるよ。

  「秋奈?」

  「なんで、私?だって、年上だし……それに」

  「秋奈。まだ正式な指環が用意出来てないんだ、そのかわりこの指環で我慢してほしい」

  渡されたのはシンプルなシルバーの指環。私の手に指環を乗せると手のひらごと悠斗くんの手に包まれた。

  「そして、これからの未来を俺と一緒に歩んで欲しい。まだ、俺は高校生で秋奈を不安にさせるかも知れないけれど。幼い頃に秋奈が好きという気持ちは、大きさや重さ、形が変わったけれど今もちゃんと俺の中にあるから」

  「う、うん。私も悠斗くんが好き」

  頬を流れる滴も、私の手を包む温もりもウソじゃない。

  「よかった」

  そう言って悠斗くんが笑ったようだけど、目がぼやけてその綺麗な顔が今は見れなかったけれど、悠斗くんが優しく手で滴をぬぐってくれました。



  2人で時間を過ごし、悠斗くんは私の家まで送ってくれた。いわゆる恋人繋ぎで、繋いだ手から指環の存在を感じられるのが幸せです。そう、幸せなんです。

  「あき姉お帰りー」

  リビングで出迎えてくれた春奈が可愛すぎて、悠斗くんと繋いだ手を振りほどき抱き締めようとしちゃうのは姉として当然。でも、手は振りほどけなかった。しかも握っていた手の力が痛くない程度弱冠強くなる。

  「た、ただいま春奈といらっしゃい大和くん」

  春奈の後ろにいた大和くんがペコリと会釈する。その顔はニヤニヤとしていて、大和くんも知っていたんだなと思った。

  「悠斗えらい。ちゃんとあき姉を門限よりも早く帰してくれて」

  「当たり前だろ」

  「当たり前って顔をしてないけどな、悠斗は。ね、春奈」

  「そーだよね、やっと実ったんだよね。あ~ぁ、あき姉がとうとう悠斗にとられちゃう。えーん、大和ぉ」

  えーんと春奈が大和くんに抱きつく。えっそこはおねぇちゃんじゃないの?

  「そんなことないよ、お姉ちゃんはずっと春奈のだよ」

  「違う、秋奈は俺の」

  「だよねあき姉は私の。さてとみんな、ご飯たべよー」

  復活したらしい春奈が、私と悠斗くんを引き剥がす。ビリッと音が聞こえそうなほど強引に。

  「そういえば、春奈お祝いってなんのこと?」

  「あき姉と、悠斗のお付き合いおめでとー記念のお祝い」

  えっへんと春奈は言う。どうやら朝から大和くんと準備をしていたらしいけど、私と悠斗くんがお付き合いしなかったらどうするつもりだったんだろう。

  「だったら、せめて夜まで俺が秋奈を独占したかった。せっかく今日から秋奈が俺の恋人になったのに」

  「まあまあ大和、せっかく春奈が作ってくれたのに無駄にする気かな。早く座って座って」

  私の隣には悠斗くんが座り、私の真向かいには春奈がいる。うん、この時がこの瞬間がとても私が恋い焦がれていたのかもしれない。

 

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