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第7話 コミックスの三話目は大抵ライバルの登場回①

「侵略者への対策会議を始めます」



 王城の三階の広間にて。

 ホワイトボードの前で、伊達(だて)眼鏡をかけたリシェルがサインペンを回した。

 リシェルは黒いビジネススーツを着ている。異世界における成人女性の正装らしいが、おそろしく似合わない。見た目年齢が十五そこらの彼女では、どうも着せられて見える。

 ご丁寧にキャスター付きの椅子や机も用意している。会議の雰囲気を出すのに本気らしい。



「リシェルお前、家具とか服とか、どんだけたくさんストックしてんの?」


「ふふふ」



 リシェルは意味ありげに笑う。



 俺にもようやく彼女の能力が分かってきた。

 彼女は異空間にモノを収納し、好きな時に取り出す能力があるらしい。便利な力だ。ゾンビ世界で彼女が拾った文明の利器の性能を考えると、そのポテンシャルは計り知れない。



「さてさて、()王国の現状を整理しましょうか」



 リシェルはキュッキュと音を立てながらホワイトボードに文字を書き連ねていく。





アストリア王国

侵略者:ゾンビ

備考:ゾンビ化の原因は生物兵器パラサイト・コア。侵略者は全員、王国騎士カイルの支配下にある。


ヴァルグレイブ王国

侵略者:エイリアン

備考:第二皇子アゼルが交戦中。レーザービームを放てる艦隊がいる。


リュミエール王国

侵略者:ギャング

備考:第八皇子ハロルドが交戦中。ヒャッハァ!


カストレア王国

侵略者?:隕石

備考:二十四日後に月が落ちる。第一皇子カイアスが重力異常の原因を調査中。


ノルディア王国

侵略者:怨霊

備考:祠を壊されてキレてる。他国に比較して通信障害が激しい。第四皇子エレノア、行方不明。


ギデオンハート王国

侵略者:ダークヒーロー

備考:『助けを求める顔』をするとヒーローが殺しに来る。第三皇子ミモザ、ダークヒーローの刺客と交戦中。


カーディナル王国

侵略者:メガシャーク

備考:サメ。第六皇子アレイウス、行方不明。




 リシェルがキャップを閉じる。


「今のところ、()人の皇子が侵略者を抑え込めた例はないようですね」


 なるほど。

 って、あれ?


「足りてなくね? 皇子も王国も八じゃなかったか?」


「何言ってるんですか? 私たちは七人兄弟ですよ」


「いやでも、ハロルドは第八皇子って」


(何言ってんだ?)

(七王国に、七人の皇子が侵略してきたんだろ?)


「……ああ、悪い。数が数えられなくて」


 俺は頭を押さえながら、ぼうっとホワイトボードを読み返した。

 違和感はもう、消えていた。



「侵略者たちの動向は、君の便利なスマホで追えたりしないのかい?」



 アラン・スミスが黒縁の眼鏡を磨きながら、リシェルに訊いた。

 リシェルが首を横に振る。



「召喚の儀の映像が撮れたのは、あらかじめ各王宮を私の使い魔に監視させていたからです。継承レースの動向を知るつもりで、用意してた子たちですが……今はもう、みんな騒乱に巻き込まれて死んでしまって……」


「おや、それは残念だね。もっと侵略者の情報が欲しいところだけど……何にせよ、最優先で対処すべき相手は決まってる」



 俺たち三人(、、)はホワイトボードを眺めながら、ほとんど同時につぶやいた。



「月か」

「月でしょ」

「月だよね」



 冷静に考えて、こいつが他の侵略者と比較しても群を抜いてやばい。ゾンビやギャングがどれだけ喚き散らしても、月が堕ちればペシャンコだ。



「少なくとも、俺のゾンビじゃどうしようもねえよ」


「魔王様でも月は止められませんよ?」


「なら方針は決まりだね。他の異世界から月に対処できる存在を探し、奪い取る。それ以外に僕たちが生き残る道はない」



 アラン・スミスがきれいにまとめてくれた。俺も異論はない。


 ならまずは、異世界の情報を得るために、侵略者たちに会う必要がある。

 とはいえ、相手は選ぶ。

 例えば、ギャングはハズレだ。奴らから月に対処できるほどの力を奪えるかというと、正直、望み薄だと思う。あいつら結局、ただの人間だし。

 できれば超常の力を持つ者たちと接触したい。だとすれば、アタリはダークヒーローかエイリアンか、あるいは――。


 そうやって思索を巡らせていたとき、リシェルのスマホが急に震えた。画面には非通知の文字が浮かぶ。



「……電話をかけてくる相手はいないはずですが」



 いぶかし気な顔をしつつ、リシェルが電話に出る。



『私メリー、今王国広場にいるの』



 電話からは少女の声がした。そしてブツリと切れてしまう。

 リシェルがしばらく首を傾げて言う。




「多分、怨霊世界(ノルディア)からのお客様です」


「おー、やったな。比較的アタリのほうじゃん」



 もう一度電話が鳴る。

 リシェルからスマホを受け取り、代わりに電話に出る。



『私メリー、今王城の門にいるの』


「あ、そういうのいいんで。小刻みにせずさっさと来てくれ」


『!?』



 電話はブツリと切れてしまった。

 俺はリシェルに向かって言う。



「リシェル、ゾンビを頼む」


「……入れてる(、、、、)なんて言いましたっけ?」


「どうせストックしてるんだろ? お前のことだし」



 リシェルがため息をつく。

 再び電話が鳴る。



「『私メリー、今あなたの後ろにいるの』」



 突然、俺の背後にワンピース姿の少女が現れた。

 少女が包丁を振り上げる。


「え?」


 少女が驚愕に目を見開く。

 彼女の首を、何もない空間から伸びてきた青白い手がつかんでいた。

 その手を中心に輪郭が広がり、やがてゾンビが姿を現す。何処からともなく現れた五体のゾンビが少女の身体に絡みつき、拘束した。



()かして悪いね、メリーさん。僕らも困っているんだ。何せ、世界の滅亡まで二十四日しか時間がなくて」



 アラン・スミスが申し訳なさそうに笑いかける。

 あくまで、害意はないと言いたいらしい。まったく、こいつは昔から優しすぎる。

 ん? 昔から?


(そうだよ、アラン・スミスとは昔から友達だった)

(ゲイリーに裏切られ、一緒に生き埋めにされかけた仲じゃないか)


 そうだ、そうじゃないか。何を今さら。


 雑念を振り払うように首を振る。

 俺は床に組み伏せられた少女を見下ろす。



「さて怨霊、話を聞かせてもらおうか?」

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