第9話 満を持して現れる、最後のキャラ③
【スタジオ内】
「これで、人類は助かった……のか?」
巨大スクリーンを食い入るように見て、ゲイリーが言う。
同じく画面を見ていた面子が、みな一様に頷いた。
「これで一件落着ですね!」とリシェル。
「カイル君が頑張ってくれました」とガロン。
「残り十五分で隕石世界か、巨大戦艦の速度なら余裕だな」とムー。
「一時はどうなることかと思ったよ」とアゼル。
「私、宇宙船まで送ろうか? あっちに電話ある?」とメリーさん。
ゲイリーはあたりを見渡し、カッと目を見開いた。
「人類が一人もいねえッ! そして誰だこいつらッ!」
リシェルが金髪の少女に向き直る。
「エイリアン二人は戦いを見守りに来たで良いとして……メリーさんは何故ここに? とっくに王都を出たものかと……」
「ものすごい”ふ力”の塊を感じて……拾いに来たの」
「あー、はい。多分シャドウの死体です。欲しいなら持っていっていいですよ」
「……ありがと」
リシェルは長身の優男に向き直る。
「で、アゼル兄様は?」
「国に帰れない。俺、一人であの飛行船動かせないんだ」
「想定の十倍情けない理由だった」
魔族に怨霊、エイリアン。種族も目的もバラバラで、中にはかつて殺し合いもした間柄のものもいる。だが全員、この瞬間に限り、心を一つにしてスクリーンを見ていた。
彼らはみな、世界を救ったカイルを称えていた。
誰しもが、カイルとクレスの決着に納得していた。
ただ一人を除いて――。
「いやー、駄目だね。この結末は駄目だ。大ブーイングだよ!」
白衣に黒縁眼鏡の男――アラン・スミスに全員の視線が集まった。
リシェルが不服そうに頬を膨らませる。
「一応、理由を聞きましょうか?」
「ご契約者様たちの反応が最悪でね。『世界を滅ぼした侵略者が選ぶ結末が、平和的で気に入らない』と」
「最悪なのはその人たちでは?」
「僕個人としては、カイル君がもたらした結末も好きだけどね。ただ、少しだけ修正してもらう」
リシェルが眉を顰める。
「今さらあなたに何ができるっていうんですか、黒幕さん。クレスさんがイクリプスを渡すと決めた以上、月から世界は救われます。誰にもハッピーエンドを変えられません」
「誰にも? そんなことないよ。いるじゃないか。まだ出番が回っていない災厄が」
アランが指を鳴らすと、一人の男が、空から降ってきた。
細く鋭い眼つきが特徴的な、長身の男がスタジオに降り立つ。
全身を覆う黒のボディスーツから、しなやかな筋肉の隆起が見える。スーツ以外はハーフパンツを履いただけのスポーティーな軽装で、靴も走りに適したデザインをしている。
「何だここッ!? この国も滅んでんのか!?」
男が周囲を見回し、誰に向けてでもなく問かける。
男の顔を見て、リシェルが目を見開く。
「……アレイウス兄様? 何でここに?」
「リシェル!? 丁度良かった!」
軽装の男――第六皇子はリシェルの肩を掴んだ。
「ヴィヴィアンが何処にいるか知らねえか?」
「え、何? 知るわけないでしょ?」
「ああ、クソッ、使えねえな! やべえんだよ! ワープでも使わねえと、アイツからは逃げ切れねえって!」
アレイウスは不機嫌そうにガリガリ頭をかいた。
ふと、何人かが自分に視線を向けているのに気づくと、両手を合わせ、頭を下げる。
「すまん、先に謝っとく! ぶっちゃけ全部俺が悪い! アレは俺が引き連れた! せいぜい狙われねえよう祈っとけ!」
言い捨てて、アレイウスはリシェルたちの前から忽然と姿を消した。
魔族としての彼の固有能力は、高速機動を可能にする。
彼は稲妻の速さで王都を駆け抜け、飛び去った。
アレイウスの行く先を、彼の兄妹であるアゼルとリシェルが眺めていた。
「やたら忙しないな……って、あれ? アレイウスってもともと、どの国にいたんだったか?」
「……確か、カーディナル王国ですね」
「誰のせいで滅亡寸前の国だっけ?」
「えーっと、カーディナル王国が召喚した、異世界の侵略者は――」
言いかけて、リシェルの顔が青ざめた。
【市街地:王国広場前】
黒煙が立ち込める、汚い空が裂けた。
空気を押し広げ――巨大なサメが現れる。
全長十キロメートルを優に超える、異形の巨体。空を泳ぐという常識外れの存在が、重力を無視して踊り出る。
地上でカイルが瞠目する。
「メガシャーク!? 動画で見たときよりデカいぞ、アイツ!」
肌は泥のように鈍く光り、ところどころに異様な傷跡が脈打っている。
死体のように眼は濁っていた。
それでも、“獲物”を見つけた生物に特有の、どんよりとした光は灯る。
巨大戦艦が、その視界に収まる。
サメは一度だけ、尾を揺らした。
音を置き去りにして、巨体が滑る。
イクリプスが自衛の砲台を展開する暇はなかった。
その外殻がビスケットのごとく簡単に砕ける。牙が食い込み、装甲がえぐり取られていく。
サメはそのまま、首を振った。
それだけで、イクリプスの前半分が食いちぎられた。
内部構造が剥き出しになり、赤い警告光が空中に散る。
巨大戦艦が、傾く。
揺らめき堕ちていく戦艦を、サメは見逃さない。巨体がゆるやかに旋回し、再びイクリプスに牙を立てる。
そこから先は語るに値しない。牙を立て、首を振り、引きちぎり、咀嚼する。スケールが大きいだけの、単調な繰り返しだった。
こうして後ろ半分も、サメの腹に収まった。
尾が一度だけ振られる。
アレイウスが逃げた方角に向き、メガシャークは悠々と飛び去った。
カイルとクレスは、仲良く二人とも棒立ちになり、空を見上げていた。
一通りの蹂躙の後、クレスが問う。
「カイル君、これ、どうするの?」
「……訊くな」
【スタジオ内】
アランを除く全員がモニターに釘付けになり、言葉を失っていた。
リシェルがいち早く正気に戻り、叫び声を上げる。
「そしてサメェぇぇぇッ!?」
次から最終話です。
ちゃんとたたみます。本当です。




