7. 大胆すぎるはじめの一歩を
「分からないんです」
四回目のお茶会を申し入れておいてこれである。
何を言っているのか、自分でも分からない。
だが口は止まらない。
彼が静かにこちらを見る。
沈黙のまま、続きを待っている。
「三回会って、嫌ではなかったです。でも楽しかったかって聞かれると、正直よく分からなくて」
指先が覚束ない。
触れているはずのカップの感触が、自分のものではないように遠い。
「何を考えればいいのかも分からなくて。継続って何なのかも分からなくて。好きとかそういうのも全然分からなくて」
言葉が崩れていく。
「でも――」
喉が詰まる。
胸の奥が強く締めつけられる。
「……このまま会えなくなるのは、困る気がしていて」
言ったあと、言葉がどこにも着地しない。
三回も会っておきながら、何も考えていなかった。
流されるまま時間だけが過ぎた。
答えを出さないまま、今日を迎えてしまった。
向き合うべきだったのに。
判断するべきだったのに。
曖昧にしていたのは私だ。
逃げていたのも私だ。
その重さだけが胸の中で渦を巻く。
「……そうですか」
彼の声は穏やかだった。
責める響きはない。
それが余計につらい。
「無理をさせてしまったなら、申し訳ありません」
その一言で、内側の均衡が崩れた。
違う。
謝るべきは私だ。
何も決めなかった私だ。
何も示さなかった私だ。
このまま終わるなら、それは当然の帰結だ。
だが。
それでも。
終わらせたくない。
胸の奥が大きく揺れる。
挽回しなければ。
何か言わなければ。
誤解を解かなければ。
ちゃんと考えていると伝えなければ。
思考が一気に回り始める。
まず謝罪。
それから理由の説明。
続けたい意思の表明。
順序を間違えるな。
言葉を選べ。
失敗するな。
口を開く。
「――」
だが出てきた言葉は、準備したものとはまったく違った。
「……結婚してください!」
空気が凍りついた。
自分の耳を疑う。
今、何を言った。
求めていたのは弁明であり、謝罪であり、意思表示だったはずだ。
なぜ最終段階を飛び越えた。
挽回どころか状況を悪化させている。
彼は完全に固まっている。
当然である。
沈黙が落ちる。
重い。
痛い。
逃げ場がない。
店内の音が遠くなる。
食器の触れ合う音だけが妙に大きい。
時間がどれだけ進んでいるのか分からない。
自分の呼吸がやけにうるさい。
撤回したい。
だが、今さら何を言っても取り繕いにはならない。
完全な事故だ。
ようやく彼が動いた。
「……まず、交際から始めましょう」
落ち着いた声だった。
驚きはあっても、拒絶はない。
終わらない。
「……はい」
反射だった。
少なくとも、ここから始まるらしい。
よりにもよってこの始まり方で。




