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『正直そんな呪術は聞いた事ないね』 


 並木はリモート越しで難しい顔をしながら顎をさすった。

 様々な調査を続ける中で自ずと番組を通じてよくお世話になる有識者が何人かいる。民俗学に詳しい並木という男もその一人だった。


『確かに呪いっぽいけどね。オリジナルなのかな? だとしたらそれはそれでだいぶ質悪いけど』


 言いながら何がおもしろいのか他人事のように並木は笑った。


『呪いか、祝いか。どっちなんだろうね』

「祝い? 呪いじゃないんですか?」

『日本文化における包丁の贈り物というのは正反対の意味合いをもつ。取りようによっては呪いとも祝いとも成り得るんだ』


 確かにネットで調べた時に得た情報でも彼の言う通りだった。


『縁を切るといった終わりを意味する面もあり、新しい生活を切り拓く始まりを意味する面もある。呪いの側面と祝福の側面は贈り主の意思によって大きく変わるが、今回の場合はその意図が見えないから受け取り側の解釈によってどうとでもなってしまう。最初はひょっとしたら冥婚的なものかなとも思ったんだけどね』


 冥婚とは生者と死者を結びつける儀式の一種で死後婚とも呼ばれる。ネットで投稿された赤い封筒で一時期話題にもなり、主に中国や台湾などアジア圏に根付いている文化とされているが、日本でもとある地域では実際に存在しているとテレビ等でも取り上げられた事もある。


『縁を切るというより、むしろ縁結びの可能性もあるかもね』


 確かにそうかもしれない。仮に縁切りの意味合いがあったとしても、五年間も同じ人物に贈り物を続けている時点でむしろ縁を繋いでいる、いわば縁結びと言えるかもしれない。 

 しかし考えるとぞっとした。もしそうなら久則は何も知らない息子に冥婚の儀式を行わせている事になる。


「いずれにしても怖いですね。御祝ってのもどういう意味なのか」

『でもそれって父親の指示ではないんだよね? 息子さんは単純に贈って欲しいと言われたからお祝いの品としてそうしてるだけなんでしょ? 父親からの指定はあくまで人物、日程、包丁の三つ。隆一君はこの日付が彼女の誕生日である事すら自覚していない。ひどく不明瞭な遺言だよね。でも間違いなく久則さんと洋子さんの間には何らかの関係性が絶対にある。六本って数字と教室の夢も意味深だね。洋子さんは知らないって言ってるけど、気付いてないだけじゃないのかな?』

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