闘技大会 その1
いつものように朝食の後、中庭の木に登り寝そべる。
最近はそれほど暑くない。聞いた話だと、秋が近づいているのだそうだ。
人間の話し声が聞こえてきたので目を開ける。中庭に置いてある木に腰かけた二人の男が話しているようだ。
「聞いたか? 収穫祭に向けて闘技場が作られるんだってよ」
「闘技場? なんだそりゃ」
私も聞いたことがない言葉だ。
「新しい街は、まだガレス通り沿いあたりにしか建物がねえだろ?」
今の塀の外側にも塀を作って街を広げる話か。
「で、まだ空地が多いってことで、柵で囲って闘技場を作るらしいんだ」
「武闘大会でもやろうってのか?」
これも知らない言葉だ。
「お、賞金が出るなら俺は出るぜ」
近くにいた男も関心を持ったようだ。
賞金というのは、確かお金のことだったな。
「賞金は知らねえが、何でもダンジョンの大サソリとかを生け捕ってきて、そいつと戦うんだと」
「なんだそりゃ」
「なんでわざわざここまで引っ張ってきて戦わないといけねえんだ?」
「まったくだ。ダンジョンに行けばいくらでもいるだろ」
その通りだな。なんのためにそんなことをするのだろう。たぶん、お金が関係しているはずだ。人間はお金のために回りくどいことをやる。
「この街はダンジョンで知られた街だが、一般人はダンジョンに行かねえし、魔物とか見たことねえだろ?」
そういえば、街に住んでる人間の多くはダンジョンにはいかないと聞いたことがあるな。
「見世物か」
「なるほどな。だが、やつら、明るいところは苦手とかじゃなかったか?」
そうなのか。
「夜にやるんだとよ」
「ほう」
「生け捕ってきてどこで飼うんだよ」
「闘技場の近くに飼育小屋を作るんだと」
「そいつはたいそうなこったな」
「大サソリなら馬小屋くらいでいいだろうが、大トカゲは無理だな」
確かに。大トカゲはかなり大きい。以前ベルナが飲み込まれたくらいだからな。
「で、人気が出たら、本格的な闘技場が作られることになるかもしれねえって話だ」
「商業組合の連中が考えたんだろうな」
商業組合? 聞いたことのある言葉だが、なんなのかは知らない。
「そういうことか。まあ、見世物としては悪くねえ。入場料も取るだろうしな」
入場料? 人間が魔物と戦うのを金を払って見る人間がいるということか。
「連中が考えたにしては悪くねえな」
この反応からすると、金をとって戦うのを見せるというのは人間にとってはふつうのことなのか。
「ああ。俺が魔物を倒すのを一般人に見せたいっては、ちょっとあるな」
戦う方も乗り気なようだ。
それから、食堂の方でも闘技場の話をする人間が増えてきた。
「魔物生け捕りの仕事が出てたぞ」
剣士の格好をした男がいう。
「生け捕り?」
「闘技場用か。運ぶにしても、例えば大サソリとか毒針とか切り取るわけにもいかねえだろうし」
「まったくだ。どうやって運ぶんだ?」
「大きな網で絡めとるらしいな」
「なるほど。しばりつければ何とかなるか」
「やってみるか」
人間が魔物と戦うのを見たことはあるが、その時は私も一緒に戦っていたので時々目に入るくらいだった。闘技場とやらで見ることができるなら、ぜひ見てみたいものだ。
「闘技場で使うなら魔物は何10匹も捕まえないと間に合わないな。飼育小屋も大規模なものが必要だ」
「そうだな。大サソリばかりってわけにもいかねえだろうし」
「魔物を研究している学者がいて、そいつが世話するんだと」
「そんな奴がいるのか。物好きだな」
学者というのは聞いたことがない。研究という言葉は聞いたことがあるような気はするが。
「ニュースペーパーにその学者の記事が出てるな」
手に大きな紙を持った男がいう。このニュースペーパーはエルナの会社が出しているやつだな。
「魔物を卵から育ててるそうで、すでに何10匹も飼ってるってよ」
飼っている、というのはどういうことかわからないが、育てたということは一緒に住んでいるということなのだろうか。
「どこで飼ってるんだよ」
「ネラス山って書いてあるな」
「ここからだと、ダンジョンの向こう側だな」
「そんなとこに人が住んでたのかよ」
「誰も知らねえってのがすごいな。何10匹も飼ってるってのに」
「記事によると、でかいのが8匹いるんだと」
「へー」
「多分その8匹が手に余ってるんじゃねえか?」
もしかしたら、闘技場の話もこの学者が関係しているのかもな。
そんな感じで白兎亭食堂の梁の上で人間の話を聞いていると、聞いたことのある人間の声が聞こえてきた。
見ると、エルナが来たようだ。アリナさんが出迎えている。
「この紙をどこかに貼ってもらいたくて」
「それは、闘技場の案内ですね。ここでも最近その話題で持ちきりですよ」
アリナさんも知っているようだ。
「はい。収穫祭で闘技大会をやるので、その出場者の募集をしてるんです」
そういうと紙を広げて見せるエルナ。
「それと、この申込書も一緒において欲しいんです」
鞄から紙の束を出す。
「その大きな紙を貼って申込書を置くと、何か良いことがあるのかしら?」
良いこと?
「もちろんです。この申込書のこの文字と番号ですけど、これは白兎亭専用なんです。この申込書での申し込みが10件を超えたら、報酬が出ますよ」
「あら。それは素敵ですね。報酬はどのくらいなのかしら」
「それはこの紙に書いてますので」
エルナは鞄から別の紙を取り出しアリナに渡す。
「なるほど。10件に満たないと報酬なし、それで100件を超えると、なるほど...」
紙を置くだけでお金が手に入るとか、アリナさんが気に入らないはずはないな。
「申込書が足りなくなったらどうすればよいのかしら?」
やはり気に入ったようだ。
「うちの会社の者が毎日様子を見に来ますので、その時に申込書の回収と補充を行います」
うなずくアリナさん。
「魔物と戦うんですってね。大勢の剣士さんが応募するでしょうね」
ここからは見えないが、アリナさんは笑顔のはずだ。
「はい。抽選か予選会を行うことになると思うんですけど、予選会やった方が盛り上がると思うんですよね」
「予選でも魔物が必要となると、たくさんの魔物を街に連れてくることになりますね。それはちょっと心配かも」
申込書は白兎亭だけに置くのではないだろうし、100人応募したら魔物も100匹は必要だ。
「いえ。予選会は人間同士で戦うんです。実際の剣じゃなくて木刀とかを使って模擬戦をやるんです」
そういえば私も剣術の練習で木刀を使ったな。
「それは興味深いですね。どの剣士さんが強いのかわかりますし」
「はい。他にも、収穫祭らしくタラ芋の大きさを競う大会とか食堂とか出店の人気投票とかもやって、そして最終日にパレードを行う予定なんです」
「パレード?」
私も聞いたことのない言葉だ。
「広場からデニス門に向かう通りを、収穫祭のいろんな大会で優勝した人を乗せた台車を中心に行列を作って練り歩くんです」
「それは楽しそうですね」
「はい。きっと盛り上がりますよ」
もしかしたらエルナがこの案を出したのかもな。
「それと、闘技大会を盛り上げるために、シイラちゃんにもぜひ協力してもらいたいんです」
「あら、それはお仕事の依頼かしら?」
「そうですね」
「それはもちろんお引き受けしますよ」
仕事をするのは私なのだが?




