子供連れの客 その3
ギースによると、ドーラの父親はいかさま博打をやってる可能性があるのだという。
人をだまして金を盗んでいるのかもしれないということなのだが、遊んでるようにしか見えなかったし、お金を取られたやつも悔しがってはいたが怒ってはいなかった。騙されたことに気づいていないためらしいが、私には見てもさっぱりわからないので、騙しているのかどうかを調べるのはギースに任せることにする。博打に詳しいやつが知り合いにいるそうだ。
さて、今日もドーラと遊んでやるとするか。私と遊んでいる時はいつも楽しそうにしているからな。
そういえば、ドーラは私が人間の姿に変身できることを知らないな。遊ぶのは猫の姿の方がよさそうだし、まあ、気が向いたら人間に変身してみるか。
いつものように朝食の後、中庭でドーラが背の高い草を振って遊ぶのに付き合ったり、木にもたれかかって本を読んでる時に膝の上に寝そべって背中を撫でやすいようにする。読んでいる本は子供向けのものだろう。文字が大きく絵が描かれているのが子供向けの本だと聞いた。本は2冊持っているようだ。文字は読めるようになったが、本はまだ読んだことがない。気が向いたらそのうち読んでみよう。
さて、ドーラがここに来てから今日で3日目、いや、初めて会った時には昨日来たといっていたから4日目になるのか。確かここにいるのは5日くらいといっていたから明日までか。5日くらいといっていたのは2日目だから明後日までなのか。それまでは遊んでやれるな。
そんな感じで毎日遊んでやっていたが、それから3日目、父親が日が暮れた頃に白兎亭に戻ってきた。ドーラはすでに夕食をとり部屋に戻っている。
ギースにこの男が来たら教えてくれといわれていたが、どこにいるのだろう。食堂を見渡すが見当たらない。昼前に掃除をしていたのを見かけたが、その後どこにいったのかはわからない。ギースがいつもどこに出かけてるのは知らないし探す当てもないからどうしようもない。
しかたないので梁の上に登って男の様子を見ていることにするか。ギースが戻ってきたら知らせてやろう。
日が暮れて間もないので、食堂はまだ酒場という感じではない。男も食事をとっている。
食事を終えた男は、食器を戻すとビアマグを手にカウンターと呼ばれる細長くて狭いテーブルにもたれて立っている。なんか食堂の様子を見ているようだ。鞄は足元に置いている。宿に戻ってきたのだから部屋において来ればよさそうなものだが、近くに置いているということはやはりここで賭博をやるのだろう。ギースは見当たらないが、その内戻ってくるだろうから入口の方を見ていることにしよう。そうだ。教えるにはしゃべる必要があるな。人間に変身して自分の家から見張っていることにするか。
男は例の遊びを始めたようだ。食堂のテーブルをいくつか移動して隙間を作ると例の小さなテーブルを組み立ている。興味を持った男らが集まっている。どうやら賭博を始めたようだ。
しばらくするとギースが戻ってきた。教えてやるとするか。
「お、猫か。どうした? そうか。例の男か」
私に気づいたギース。何も話さないうちに何をいおうとしているのか気づいたようだ。
「その通りだ」
と返事し、賭博をやっているあたりを指さす。
「なるほど」
ギースがちょっと背伸びし人が集まっている方を見る。
「ちょっと呼んでくるわ」
そういうとギースを表に出ていく。賭博に詳しいという知り合いを呼びに行くのだろう。
さて、要件は伝えたし猫に戻るとするか。自分の家で服を脱いで猫に戻り、梁の上で様子をうかがうことにする。
賭博をやっているところはさっきよりも人が増えている。歓声も上がり楽しんでいるように見える。
しばらくしてギースが戻ってきたようだ。男が一人一緒だ。長い髭を生やした背の高い男だ。二人は賭博をやっているところにむかっているので、私も場所を移動しよう。
ギースらは近くに移動し様子を見ている。ドーラの父親の他に4人が参加している。1人は女だな。テーブルの上では、小さな紙を配ったり石を転がしたりしている。紙には絵とか数字が描かれている。石にも何か模様がある。紙をテーブルに置いたり新たな紙をもらったりしているが何をしているのさっぱりだ。
何度か紙を交換した後、金をテーブルの上に置く。途中で金を出すのをやめて紙を置く奴もいる。悔しそうにしているところを見ると、どうやら負けたようだ。小さな四角い石を二つ転がすと周りから声があがるので、石の模様にも何か意味があるようだ。
何度か紙のやり取りが行われたのち、残った奴らが同時に紙をテーブルに置く。周りから歓声が上がる。勝負がついたということらしい。ドーラの父親はテーブルの上にある金の一部を取り、残りを女に渡している。女が勝ったということか。負けた男の1人と勝った女が席を立つと、周りで見ていた男2人が席に着く。
見ていると、テーブルに出された金をすべてドーラの父親が回収する場合と一部だけ取る場合、買ったやつに全部渡す場合がある。それに金もたくさん出される場合とちょっとしか出されない場合もある。紙の模様やドーラの父親が置いた紙の模様によって金をどれだけ出すかや、どう配るのかが決まるようだ。
ギースと髭の男はドーラの父親の後ろに移動している。それから何度かの勝負の決着がついた後、ギースが席に着いた。
ギースの様子を見ていると、他のやつらと同じように紙をテーブルに置いたり新たな紙を受け取ったりしているが、最初に出した金の他に金を出すことなく紙をテーブルに置いている。つまりギースは負けたということか。それから4回勝負が行われ、1度はギースが勝ったようだがそれほど嬉しそうにはしていない。まあ、稼いだ金は少なかったからかもしれないが。
その後、ギースは席を立つと髭の男の隣に行って何か話している。何かわかったのだろうか。髭の男はドーラの父親の後ろに立つと、それから何度かの勝負を眺めていたが、一つの勝負の結果が出たところで突然声を上げる。
「こいつはいかさまをやっている!」
髭の男の声に振り返るドーラの父親。
騒がしかったテーブルの周りが静かになる。




