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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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狙われた白兎亭 その1

今日は朝から曇っていて涼しかったので、朝食の後、街を適当に歩いていたのだが雨が降ってきた。

今は建物から突き出した小さな屋根の下にいるので雨には濡れないが、移動するには通りに降りるしかない。しばらくはここで過ごすとするか。


雨の勢いが強くなり、通りを歩いている人間も慌てて雨宿りを始めたようだ。この街に住んでいる人間は、以前いたところのような雨から濡れないようにするための大きな丸い布を持っていない。頭にかぶる袋のようなものがついたマントで体を覆うというのが、この街の人間の雨への対処方法らしい。


この小さな屋根の下にも人間が雨から逃げてきたようだ。

「急に来たな」

「ああ、ひどい降りだ」

男が二人か。

被っていた布を頭から後ろにおろし水を払っている。


「今度の標的は白兎亭か」

白兎亭? 標的?

「ああ。あの通りでは二番目に広い敷地だ」

「そいつは外せねえな」


敷地という言葉は聞いたことがない。白兎亭のある通りにはたくさんの建物が並んでいるが、白兎亭よりも大きな建物は一つだけだ。敷地というのは建物の広さに関係する言葉なのだろうか。


「そこのおかみ、金には細かくてうるさい女だって噂だ」

「なるほど。まともにいくと吹っ掛けられそうだな」


確かにアリナさんは金を稼ぐのが好きな人間だが、白兎亭の敷地があの通りで二番目に広いということとどう関係があるのだろう。それに吹っ掛けるという言葉の意味も分からない。


「となると、またあのやり方だな」

「ああ。今はがたいのいい奴らが大勢街に来てるから、人材は豊富だ」

「はは、まったくだ」


がたいのいい奴ら、というのはどういう意味だろう。最近、街に大勢来ている奴らというと、塀を作る仕事をするために来ている人間のことか。そいつらは武器は持っていないが、強そうな体格の人間が多い。がたいがいいというのは、強そうな体格ということかもしれない。


がたいのいい奴らが大勢街にいること、白兎亭が通りで二番目に広いこと、アリナさんが金にうるさいこと、これら三つには何も関連はないように思うが、人間には関係がわかるのだろうか。誰かに聞いてみることにしよう。



雨が止むまでしばらくかかったが、夕方の食堂が開く前に白兎亭に戻ることができた。

「おう、今日は人間の格好か」

食堂の掃除をしているギースが話しかけてきた。ギースに聞くのがよさそうな気がする。

「聞きたいことがあるのだが」

「おう、掃除はもうすぐ終わるからちょっと待っててくれ」

そういうと掃除の続きを始めるギース。

では、窓際のテーブルのあたりで待っていることにするか。


しばらくしてギースがやってくる。

「で、なんだ? 聞きたいことってのは」

「さっき外で雨宿りしているときに、男らが話していた内容についてなんだが」

「知ってるやつか?」

「いや。見たことのない男二人だが、白兎亭について話していたのだ」

「ほう。で?」

さっき男らが話していた内容をそのまま伝える。


「なるほど、それはいいことを教えてくれたな」

そういうと腕を組むギース。

「いい話なのか?」

「いや、やばい話だな。白兎亭や俺たちにとっちゃあ」

やはりあの話だけで人間には内容がわかるようだ。

「さっきの話がなぜやばい話だとわかるのだ?」

「ん? つまりこういうことだ」

顎に手をやるギース。


「まずは、そうだな、この街を広げようとしている話は知ってるか?」

「デニス門の向こうに塀を作っているやつのことだな」

「ああ。最初はその通り沿いの簡単なものだが、将来的にこの街は二重の塀に囲まれることになる」

「塀の話が関係するのか?」

「もちろんだ。何重もの塀に囲まれた街ってのは、中心部が最も安全だし地価も高い」

「地価?」

「土地にも値段があるんだ。地価ってのは土地の値段のことだ」

人間はなんにでも値段を付けるのだな。もしかして建物とか人間にも値段があるのだろうか。


「で、このあたりは他と違って通りが狭くて汚くてぼろい建物が多いだろ?」

「まあそうだな」

確かに白兎亭の前の通りは細く穴があったりゴミも多い。通り沿いの建物も汚れていたり一部が壊れたりしている。

人間は、床とか壁、服に泥とか食べ物とかが付くことを嫌がる。まあ、以前いたところの人間は毎日風呂に入っていたことに比べれば、この街の人間はそれほど気にしてはいないようで、このあたりの汚れた通りも掃除する気はないようだが。


「そんなところは地価が安いんで、ここは安宿としてやっていけてるってわけだ」

なるほど。白兎亭が安いのは、このあたりが汚くて地価が安いからなのか。汚いことにもいいことがあるんだな。


「それで、例の男らの話とどうつながるのだ?」

「将来的にこのあたりも地価が上がるってことだ」

「つまり、塀が二重になるとこのあたりは街の中心になって地価が上がるので、白兎亭の宿代も高くなるということか?」

「まあ、そうなるだろうな」

肩をすくめるギース。

「まだ繋がりがわからないのだが」

地価が上がることと連中の話はどう関係するのだろう。


「例の男らは、このあたりの土地を安く買って高く売ろうとしているんだ」

ん?

「将来地価が上がるとわかっているなら、アリナさんが安い今のうちに売るとは思えないが」

「ははは。よくわかってるじぇねえか」

やはりそうだよな。


「連中は、アリナさんが安くても売るしかない、という状況にしようとしてるんだよ」

「そんなことができるのか?」

「ああ。いろんなやり方あるが、どれも白兎亭にとっちゃあいいことじゃねえ」

アリナさんが安くても売る。そんなことができる方法があるというのは驚きだ。


「まあ、ここを狙ってるやつがいるとわかったからには何とかできるはずだ。まあ、俺に任せとけ」

「また警備をやるのか?」

「はは。いや、今回は警備担当とは名乗らねえがな」

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