新たな洞窟 その7
街にゴブリンが侵入したことを報告に戻る。
街のあちこちで叫び声が聞こえていることもあり、後方支援の集団を指揮する年寄りの剣士はすでに知っていて全員を呼びに行ったとのことだった。
話によると、デニス門、街で一番大きな門は破られてはいないが、この門につながる広い通りで戦いが始まっているのだという。奴らは少なくとも2000はいるそうだ。守る方は300人くらいらしいが、例の騎士団は強く戦いの指揮も的確で圧倒的に多い敵を押し返しているということだ。ただ、守りの数が少なかったラバール門が突破され、そこから100匹以上が街に侵入したらしい。
私は持ち場に戻るように指示された。同じ場所を担当する人間もすぐに来るので、協力して対応するようにとのことだ。対応というのはゴブリンと戦って倒すということで、持ち場から逃げられた場合は追いかけろとのこと。大人数の集団同士の戦いの場合、それに適した戦い方があるのだそうだが、我々の場合は相手もそれほど多くないので各人が個別に戦い、とにかく奴らを倒せと指示された。
持ち場の小さな門に戻る。剣士が3人門の前に立っていて、壁際にはゴブリンの死体が4つ転がっている。
門は閉じられていて門の向こう側からは特に音は聞こえないので、こいつらはさっき戦ったのと同じラバール門から入ったやつらか。ここに来たということは門を開けようとしたのかもしれないな。
遠くの方から叫び声も聞こえるので、持ち場よりもそっちに行った方がよさそうに思うが。
「あ、報告してくれた?」
私に気づいたテオが壁際の通りをこっちに向かってくる。
「ああ。もうすぐ他の担当もくるはずだ」
「ぼくはあれから1匹倒したけど、他のはどのあたりにいるんだろう」
そういうと剣をしまうテオ。
「なんかいるぞ!」
門の外から声が聞こえてくる。
こっち側にいた剣士が、門の小さな窓を開けて外にいるやつと何か話している。
「おいお前ら、俺らは外に出るからこの門を見張ってろ。閂もかけておくんだ」
そういうと3人の剣士は門を少し開け、外に出ていく。
門が閉まるとテオは木の棒を再度門に取り付け、門の小さな窓を開けて外の様子を見る。
「外の剣士は10人ちょっと、15人くらいか。まだゴブリンは見えないけど」
少ないな。塀の上に射手はいるが。
「おい、持ち場につけっていわれたんだが、どんな感じだ?」
声のする方を見ると、男が3人こっちに向かって歩いている。他の時間の担当のやつらだ。もう1人もこっちに向かって走っている。2人1組で1日3交代だから、これで全員揃ったことになる。
テオが状況を説明している。この門を守るのが任務だが、逃げたゴブリンは追いかけてでも倒せと指示されたことも伝えている。
5人は門を背に剣を抜いて立ち、私は門につながる通り沿いの建物の屋根の上であたりを見張る。
「来たぞ!」
門の前にいた男の一人が声を上げる。
指さす方を見るとゴブリンが通りを門の方に向かってきているのが見える。数えると7匹いる。
「あっちからも!」
「でかいのがいるぞ!」
別の通りからもこっちに向かってきている。でかいのが4匹いる。全部で6匹、いや7匹か。
テオがゴブリンのことを報告しようと門の小さな窓を開けたちょうどその時、門の外からも叫び声が聞こえてくる。
「奴らだっ!」
テオが振り返る。
「門の外もだ! 何10匹もいる。でかいのも多い!」
「こっちは俺らでやるしかねえな」
門のこっち側にいた男らが剣を構える。
「来るぞ!」
ゴブリンが門の方に向かって走ってくる。最初に見つけた7匹の方が先に到達しそうだ。
盾を持った男が進み出る。
突進してくる斧を振り上げたゴブリンに盾で体当たりする。体の小さなゴブリンが跳ね飛ばされ、後ろにいたゴブリンにぶつかり2匹が倒れる。
残りの男が前に進み出て倒れたゴブリンに剣を突き刺す。
「よしっ!」
「行けるぞ!」
小さいのは弱いのか。
やられた仲間を見て残りの5匹が立ち止まったかと思うと、方向を変えて街の中心の方に向かって狭い通りに走り出す。
「逃げたぞ!」
「追いかけるか?」
「いや、あのでかい2匹が来る」
でかいやつ4匹と小さいのが3匹、すぐ近くに迫っている。
「おい、小さいの! 逃げたやつらを追いかけろ!」
男が私の方を見上げる。
「わかった」
「気を付けて!」
テオはそういうと剣を上にあげる。
5匹が逃げた方の屋根に通りを超えて飛び移り追いかける。
通りはまっすぐなので逃げている奴らが見える。まだ遠いが私の方が速いのでそのうち追いつく。だが相手は5匹だ。私一人で対応できるだろうか。
街の人間は建物にこもっているので通りには誰もいない。と思ったら、建物から男が一人出てくる。
ゴブリンも男に気づき走るのをやめ、武器を構える。こいつらは人間を探して走っているのか。
男もゴブリンに気づき慌てて建物に戻ろうとするが、扉がなかなか開かないようだ。これはまずい。
「こっちだ!」
と気を引いてみる。私はそれほど大きな声は出せないが、やつらは耳が大きいんだから聞こえるだろう。
2匹が立ち止まりこっちを振り返ったところを見ると耳はいいようだ。
通りに飛び降りゴブリンに向かって前に跳躍。
こっちを向いて剣を構えているゴブリンの上を飛び越え、男に向かって進んでいた3匹の内、1匹の足を後ろから切る。切断はできないが、悲鳴を上げて地面に膝をつかせることはできた。残り2匹の注意もひいた。さらに、男が扉を開ける時間も稼げたようだ。
1匹が振り返り私に向かって切りかかってくるが、動きが遅い。
そいつの横、剣が届かないところに跳躍してさらに後ろに回り込み足を切る。この戦い方はこいつらに有効なようだ。
2匹に膝をつかせたところで残りの3匹が逃げ出す。追いかけなくては。
その前にこの2匹にとどめを刺さないと。後ろ回り込み背中から心臓のあたりに剣を突き刺す。こいつらの心臓の位置が左側ならこれでいいはずだ。反応がなくなったところを見ると正しかったようだ。
いつも後ろから攻撃しているが、正面から向かうとなるとこいつらの剣や斧を受けることになるかもしれない。もちろん剣で防ぐことはできるが、こいつらの力が私よりも強いと跳ね飛ばされてしまう。動きは私の方が素早いのだし、敵の攻撃が届かないところから攻撃するのが私にとっては良い戦い方だ。
逃げた3匹を追う。今度は通りをまっすぐに走らず角を曲がったようだ。
屋根に上り追いかける。曲がった通りを見るがいない。さらにどこかの角を曲がったのか。通りを飛び越えながら屋根から屋根に飛び移り走り回るが見つからない。見失ったか。
その時、悲鳴が聞こえてくる。そっちか。
声がした方に向かうと見慣れた街並みになってきた。更に叫び声が聞こえる。次の通りからだ。ここは白兎亭のある通りじゃないか。
見ると白兎亭の前にいる男らに向かって3匹のゴブリンが走っているところだ。白兎亭の窓から漏れる光で通りが明るい。どうやら食堂、いや夜は酒場か、を開けているようだ。
戦いが始まった。
あの戦っている男の一人はギースじゃないか。
「な? 白兎亭の警備が必要って、俺がいった通りだろ」
ギースが一緒に戦っている男に話している内容が聞こえてくる。なんかこのしゃべり方は酒を飲んでいるときのような感じだな。
「ああ、すまなかった。俺はお前が怖気づいて戦いに行かねえ言い訳してんだと思ってたよ」
こいつも酒を飲んでるようだ。足元がふらついている。
警備というのは酒を飲んでいても務まるものなんだな。
「お、猫、こっちだ!」
ギースが私に呼びかけたのを見て、ゴブリンの1匹がこっちに向かってくる。そいつに向かおうとしたところで、残りのゴブリン2匹が白兎亭の窓を突き破り食堂に飛び込む。
「なんだっ、くそっ!」
ギースは悪態をつくと食堂を振り返る。
食堂はいつもの夜に比べれば人は少ないが、それでも半分近く埋まっているようだ。ゴブリンに気づいた連中が外に出ようとしたところに中に突っ込んできたので大騒ぎになっている。やつらは小さくテーブルの下に簡単に隠れてしまうので、男らはテーブルをひっくり返しながら追いかけている。
食堂は大騒ぎだが、酒を飲んでいるとはいえ剣士も何人かいたようで2匹のゴブリンは難なく倒すことができたようだ。やはり小さいのは弱い。
私は門の様子を説明し持ち場に戻ろうとしたのだが、ギースに引き留められた。
「デニス門の方はあらかた片が付いたそうだ。で、お前の持ち場の方にも援軍が行くからもう大丈夫だ」
「そうなのか?」
「ああ、例の騎士団の指揮下で戦ってたやつが報告に戻ったってのを聞いたから間違いない」
そんなことになっていたのか。
「そうそう。で、俺たちも安心して酒飲んでたってわけ」
さっきギースと話していた男だ。名前は知らないが、しばらく前から大部屋に住んでいる男だ。
とはいえ、テオらが気になるので、持ち場に戻ることにした。
門に戻ると確かに戦いは終わっており門も開いていた。外に出ると騎士団の男が10人程いる。確かに援軍が派遣されてきていた。
テオは足を肩に怪我をしたようだ。
「あ、その剣、また修理に持ってきてよ。しばらくは仕事が増えそうで時間かかるかも知れないけど」
壁にもたれて座り方を押さえたテオが私にむかっていう。
「そうだな。その怪我は大丈夫なのか?」
「あのでかいのに吹っ飛ばされたんだ。まあ、これくらいは問題ないよ」
そういうと顎で壁際に転がっているゴブリンを示す。
大したことがないようでよかった。
任務も終わりということで白兎亭に戻ると、いつもの夜の白兎亭の酒場に戻っていた。
話を聞いていると、デニス門の戦いはしばらく続いたものの、突然ゴブリンらが退却を始めたそうだ。相手は2000以上はいたそうだが、半分ほど倒したあたりで引き下がったそうだ。連中にも指揮官のようなのがいるような感じだったとのことで、例の騎士団が追跡するということだ。
騒がしい夜が明け、朝方いつもようにネズミ狩りをして食事を終えた後中庭の木陰で寝そべっていると、食事を終えて中庭に来た男らの会話が聞こえてきた。
「昨夜は大変だったな」
「ああ、まったくだ」
「でさ、窓やらテーブルがぶっ壊れたじゃねえか」
「そうだな、壁にも穴が開いててひでえ状態だ」
「それでも食堂はやるそうだけどな」
「アリナさんらしいな」
「ああ。で、そんな状況なんで、アリナさんはずいぶん怒ってるんだよ」
「まあ無理もねえな」
「そんでさ、ギースの野郎が白兎亭の警備をやるとかいってただろ」
「そうだったな。酒飲んでたが戦ってはいたな」
「ああ。で、アリナさんが窓やテーブルが壊れたのは警備やってたギースの責任だっていいだしたんだ」
「はは、それはひでえ。まあ、いわんとするところは理解できなくもないが」
「ギースの野郎も抗議したんだけどさ、弁償なり修理をしないと白兎亭を追い出す、ってアリナさんが譲らなかったんだ」
「ほう。で、ギースの野郎はどうしたんだ?」
「やつはここが気に入ってるからな、苦渋の決断ってやつで、弁償することにしたそうだ」
「そいつはちょっと気の毒だな」
「まあ、いくつかのテーブルは自分で修理するそうだが、修理不能なのがほとんどだからな」
「そうだな」
「やつも、ゴブリンの発見で稼いだ金をゴブリンのせいで使うことになったって嘆いてたよ」
「修理は手伝ってやるか」
そんなことになっていたのか。
まあ、ギースも気の毒だが、この白兎亭の戦いの記事を書けば原稿料とやらを稼げるんじゃないだろうか。




