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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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魔法の練習

5層キャンプの宿泊所は、白兎亭の大部屋のような感じで部屋に二段ベッドが並んでいる。ベッドは白兎亭のような収納部分がないため、一回り小さいような気がする。

部屋は男女別に分かれており、私は魔法使いのコルレアと一緒だ。彼女が上、私が下のベッドを利用する。私は体が小さいからということで、ベッドの半分は荷物置き場にされている。運んできた煙を焚くための葉っぱの入った大きな袋4つをベッドに置かれた。それでも寝るには十分な広さがあるので問題はない。というよりも狭いところの方が心地よい。


夕食の後、測量士のセブノワと助手のフラキノは明日の打ち合わせをするそうだが、その他の者は自由時間だ。

ギースは知り合いを見つけたそうで、向かいの宿に出掛けて行った。カイは宿の裏手のちょっとした広場で剣の素振りをしている。

私は特にすることもないのでベッドに行って寝転がってようかと思っていたが、魔法使いに話しかけられた。


「シイラさんは、毒ムカデを倒して得た能力で人間に変身できるようになったのですよね?」

同室になるコルレアだ。隣に若い男の魔法使いエドガルもいる。


「ああ、その通りだ。名前はシイラでいい」

測量士は私を「くん」を付けて呼ぶが、最初にこういっておけばよかったかもしれない。


「人間への変身というのは、たいていは魔物が人間を惑わすために使う一種の魔法なんですよね。一部の魔物ですけど」

エドガルがいう。私を興味深そうに見ている。

「そうなのか?」

そんな魔物がいるのか。


「ええ。このあたりではあまり知られていませんが、北部の一部の地域には人間に変身する魔物がいると信じられているんですよ」

コルレアが説明を続ける。

「私を魔物だと思っている人間がいるということか? 私を恐れているような人間は見たことはないが」

実際、人間になってしばらくリスタの人形の服を着せられていたころは人気があったくらいだ。私に関心を示さない人間ももちろんいるが、もしかしたらその中に北部とやらから来た人間がいるのだろうか。

「ここから遠く離れた地域の話ですから、知らない人が多いのでしょう」

そういうことか。


「人間への変身の他に何かできるんですか?」

エドガルが質問する。

「魔法のようなものは変身だけだ。猫の形態では爪が長くなって強化されたり、暗いところでも見えるようになったりもしたが」

長い爪を引っ込めることができるのは魔法のような感じはするが。


「なるほど。私たち魔法使いですと、経験を積むと魔法の基礎力が強化されて使える魔法が増えたり強化されるんですけど」

コルレアが説明する。

「猫としての能力も強化されているんですね」

エドガルが感心している。


「ギースやカイのような剣士は経験を積むとどんな能力を得るのだ?」

気になったので聞いてみる。


「剣士の場合、やはり剣士として能力、体力とか瞬発力、持久力、痛み耐性が向上しますね。あと、ちょっとした魔法が使えるようになることもあります」


「魔法を?」

それは意外だ。

「ええ。剣士が魔法を使えるようになるには、かなりの経験を積まないといけませんけど」

コルレアがいう。

「できることは、剣や弓の攻撃力が増すといったものですね。後、魔物を一瞬動けなくするというのもありますね」

剣士としての力を強化するようなものなら、私も何か魔法が使えるようになるのかもしれない。


「白兎亭に住む魔法使いに魔法を教えてもらったが、うまくいかなかった」

彼女が見習い魔法使いだからかもしれないが。


「そうですか。どのように教わったんですか?」

エドガルに聞かれたので、ベルナとの魔法の練習を説明する。練習といっても、詠唱とやらを唱えて手を動かすとかくらいなのだが。


「そのやり方では魔法は使えないですね」

これはコルレア。そうなのか。

「もしかして、教えてもらっている魔法使いは初心者ですか?」

エドガルもベルナの教え方ではだめだと思っているようだ。


「見習いだと聞いている。彼女も火属性だそうだ」

顔を見合わせる二人の魔法使い。


「なるほど。見習いさんですか。その詠唱も火属性のものでしょう」

エドガルがいう。

「魔法には属性というものがあって、例えば私たちやその見習いさんは火属性といって、炎や光を扱うことができます」

これはコルレア。そういえば、今まで出会った魔法使いはみんな火属性ばかりだ。ダンジョンのような暗いところでは明かりが役に立つからだろうか。


「属性は人によって違うので、属性の違う魔法の練習をしても効果はないんです」

エドガルが説明を続ける。

「そういうものなのか」

私の属性も確認せずに教えられていたということか。


「属性を確認してみましょうか」

コルレアが私の方をのぞき込みながらいう。

「そんなことができるのか?」

「ええ。変身ができるんですから、なんらかの魔法の能力はあると思うんですけど」


「属性確認ができるのは、コルレアさんのような年、い、いえ、経験の豊富な魔法使いだけなんですよ」

なんか焦っているような感じで、途中から急に早口で説明するエドガル。コルレアもちょっとエドガルの方をにらんでいたような感じだった。


「ちょっとじっとしていてくださいね」

コルレアはそういうと両手を私の頭の左右に持ってくる。頭には触らず少し離れた位置だ。彼女は目を閉じて何かを考えているような感じだ。私は特に何も感じない。


「これは...」

考え込むコルレア。両手を少し動かす。


「少なくとも火や水の属性ではないですね」

「火や水は苦手だ」

念のため伝えておく。

「なるほど。元は猫ちゃんですからね」


「木の属性が強いような感じですね。まだ魔法力は弱いですが、経験を積めば魔法が使える可能性は十分にありますよ」

コルレアが両手を頭の横から手を離す。


「木の属性というのは何ができるのだ?」

見当もつかないので聞いてみる。


「攻撃、防御に使えます。木だと蔦を延ばしたり巻き付けて攻撃したり、同じように蔦で壁を作って防御したりできます」

エドガルが説明する。攻撃や防御に使えるなら戦いに役に立ちそうだ。


「なるほど。実に興味深いな。これらを習得するにはどうすればよいのだ?」

知り合いの魔法使いはベルナしかいないが、彼女では無理だそうだし。


「同じ属性の魔法使いに教えてもらうか、魔法学校に入るかですね」

「学校?」

聞いたことのない言葉だ。


「ええ。ガレスウェルにはないですが、一番近いのはライゼルの学校ですね」

コルレアが質問に答えてくれる。住んでる街にはその学校とやらはないのか。

ライゼルというのは聞いたことのある名前だ。確かリスタがそこの出身とかではなかっただろうか。


「その、”学校”というのは何なのだ?」

どこにあるのかは分かったが、そもそも学校が何かわからない。

「え? ああ、学校というのは、いろいろなことを教えてくれる場所です。魔法学校というのは魔法を教えるところで、それぞれの属性の魔法使いの先生が教えてくれるんです」

興味深いが、確かライゼルは遠いという話だったから、学校とやらに行くのは困難だろう。


「属性とは関係ない魔法もあるんですよ。例えばこんな感じです」

エドガルはそういうと手を左右に動かして指を複雑に動かし右上の方に手を伸ばすと、一瞬手の先の何もないところがぼやけたような感じがした次の瞬間、手に本を掴んでいた。

「これは空間魔法といって、こういったものをしまったり取り出したりすることができるのです」


「手の届く範囲の空間内に物をおくことができて、周りからは干渉されず見えないようにできる魔法です」

コルレアが説明を引き継ぐ。

「物をしまっておくには常に魔法力を消費しますが、小さなものなら比較的少ない魔法力でも使えますから、たいていの魔法使いは使えるんですよ」

そうなのか? 確かベルナは使えないといっていたと思うが。


「空間魔法というのは聞いたことがある」

ベルナが人間への変身の際に役に立つかもといっていた魔法だ。

「猫から人間に変身すると裸だから人がいるところでは変身するなといわれているのだが、服をその空間魔法でしまっておいて、さらに変身の魔法で服を着た状態に変身できるのではないかといわれたのだ」

ベルナがいっていたことを思い出す。


「なるほど。服をしまうことはできますが、服を着た状態に変身というのは無理だと思います。変身というのはあくまで体が変化するものなので、装着している物、着ている服をどうこうはできないのです」

これはエドガル。つまり、ベルナがいうようなことはできないということか。


「でも、この魔法を使えば猫の状態で人間の服を持ち歩くことはできると思いますよ」

コルレアがいう。なるほど、それは便利そうだ。

「そうすれば、人目につかないところで着替えができますね」

確かに。


「こう手を動かすと状態を表す一覧が見えますよね」

「そうだな」

実際にやってみる。

「一覧をこう横に流すと、袋のような印は出てきますか?」


「一番端にそのようなものがある」

「その袋の上に数字が表示されてませんか?」

「2と表示されているな」

顔を見合わせるコルレアとエドガル。ちょっと驚いているような表情だ。


「ということは、空間魔法が使えますよ。2ですから低い段階ですが、魔法力が少ないのに2というのは大したものです」

「2ですと、先ほどの着替えでいうと靴下片方も無理ですけどね。あ、シイラは小さいから片足分はしまえるかもしれません」


「この数字がどのくらいになればこの人間の服をすべてしまえるのだ?」

「そうですね。防具なしなら30、防具と剣を入れると60くらいでしょうか」

エドガルが説明する。

「実用的にはその倍か、少なくとも100を超えてからの方がいいですね」

先は長そうだ。


「質問ばかりで悪いが、魔法力というのはどうすれば上がるのだ?」

ついでなので聞いてみる。

「基本は魔物を倒せば上がるんですけど、まずは基本的な能力、シイラは剣士ですから、剣士としての能力が上がります。そして、魔法の適性がある場合、その向上した能力の10分の1から100分の1が魔法力になります」

エドガルが質問に答えてくれる。10分の1というのは、10の能力を得たら1が魔法力になるということか。


「10分の1から100分の1というのは幅が広いですが、どのくらいが魔法力になるかは、その人の魔法適正しだいですね」

「シイラは変身できるわけですから、10分の1に近いんじゃないでしょうか」



それから空間魔法の使い方を教えてもらい、試しにベルナに持たされた木の実をしまったり取り出したりしてみた。人間の形態だと服に物をしまうところはあるし鞄も持てるから物を運ぶのに困ることはないが、猫の形態の時には役に立ちそうだ。

物をしまっておくには魔法力を使うということだったが、魔法力が切れるとしまっていた物が現れるのだという。ふつうは起きている間にだけ使うものだそうで、そのくらいの時間なら魔法力が切れることはないらしい。魔法使いの場合は魔法力を使う機会も多いので気を付けないといけないそうだが、私のような剣士の場合は魔法を使うことはほとんどないので、起きている間はしまっておけるそうだ。



さて、二人と別れベッドに戻る。ベッドにはカーテンがあって外から見えないので、服を脱いで猫に戻ることにした。人間の姿で寝たことはないし、慣れない場所ではやめておいた方がよいような気がしたのだ。それと、もう一つの理由としては、些細なことだが、ベッドに置かれた4つの大きな袋の隙間に入って寝たいというのもある。


さあ、明日は10層だ。どんな魔物が出てくるのが楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >隙間に入って寝たいというのもある。 まさに猫ちゃんですね!
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