七聖英雄集結
想像してた七聖英雄はどんな感じでした?いいバランスになったのではと思います!良ければ感想教えてください!
「緊張しているか?」
前を歩いていたジュードさんが、振り返らずにそう聞いた。
「少しだけ」
「無理もない。まぁそんな気負わずに2人の意見を出してくれ。」
廊下の突き当たりにある大きな扉の前で、ジュードさんが足を止める。扉の横に立っていた職員が姿勢を正し、こちらに軽く頭を下げた。
ジュードさんが扉を開けると、いくつかの話し声が途切れた。
広い会議室の中央には大きな机が置かれ、その上には地図や資料が広げられている。リィナとアリシアさんの姿はすぐに分かった。リィナは椅子の背に腕を乗せるようにして座っていて、こちらを見ると片手を軽く上げる。アリシアさんは資料を手にしたまま、安心させるように微笑んでくれた。
その二人の周りにいる人たちは、初めて見る顔ばかりだった。
「これで揃ったな」
ジュードさんの声に、机を囲んでいた視線がこちらへ集まった。
姉さんが隣で背筋を伸ばす。僕も一歩前へ出た。
「この二人が、灰燐窟の調査に同行したアトラとキャトラだ。今回の情報共有にも同席してもらう」
「アトラです。よろしくお願いします」
「キャトラです! よろしくお願いします!」
リィナが口元を緩める。
「そんな固くならなくていいっスよ。アトラくんもキャトラちゃんもとんでもなく強いんスから!」
そのやり取りで、張り詰めかけていた空気が少しだけ軽くなる。
「まずは、こちらの方々を紹介しておく」
「剣聖、ディオナ・ヴァルハイト殿だ」
ジュードさんに紹介されたのは、腰に一本の剣を携えた細身の女性だった。
華奢というより、余分なものを削ぎ落としたような体つき。立ち姿も静かで、美麗という言葉が似合う人だ。この人が、ニックさんより強い人…思わずそう考えてしまう。
その直後、ディオナさんと目が合った。
「……っ」
息が浅くなる。
剣は抜かれていないし、距離もある。
それなのに、ここはもう彼女の間合いの中だと気づいてしまった。
「……よろしくお願いします」
声が少し遅れて出る。
ディオナさんは何も言わず、ほんのわずかに頷いた。
「次に、聖騎士アーク・レイゼン殿」
白金の鎧をまとった男性が、組んでいた腕を解いた。
顔立ちはかなり厳つい。初対面で向かい合えば、何もしていなくても謝ってしまいそうな迫力がある。けれど、こちらを見る目はまっすぐで、怖がらせようとしている感じはなかった。
「アークだ。よろしく頼む」
短い挨拶なのに、雑には聞こえない。鎧の輝きも、強面の顔も、まっすぐな視線も、全部がひとつにまとまっているような人だった。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
姉さんが元気よく返すと、アークさんは少しだけ目元を緩めた。
笑ったのだと思う。
たぶん。
「弓聖、ウィル・アーシェル殿」
次に紹介された男性は、椅子に深く腰を沈めたまま片手を上げた。
片目には眼帯。けれど、弓聖と呼ばれたのに近くに弓はない。背もたれに体を預け、片足をだらりと伸ばした姿だけ見れば、会議に呼ばれた英雄というより、昼寝の途中で起こされた人に見える。
「どーも。ウィルでーす。そんなに緊張されると、こっちまで疲れるから気楽にね」
のんびりとした声だった。
姉さんが少しだけ目を瞬かせる。
僕も、思っていた弓聖の印象とは違いすぎて、一瞬返事が遅れた。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく!」
「うんうん、元気でよろしい」
ウィルさんはそう言って笑うと、また椅子に沈む。
気の抜けるような人だ。けれど、眼帯のない片目は、さっきから一度もこちらを見逃していない気がした。
「次に、楽聖ミュレア・リシェル殿」
アリシアさんの近くに立っていた女性が、名前を呼ばれて小さく肩を揺らした。
すらりとした体つきで、立っているだけでも目を引く。けれど本人はそれを気にしているのか、少しだけアリシアさんの陰に隠れるようにしていた。
「あ、あの……ミュレア、です。よろしく、お願いします」
声は小さいのに、耳に届く響きは凛と真っ直ぐだった。
恥ずかしそうに伏せられた目元と、その声の通り方が少しだけちぐはぐで、だからこそ印象に残る。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
僕たちが頭を下げると、ミュレアさんは慌てたようにもう一度頭を下げる。
その隣で、アリシアさんが柔らかく微笑んでいた。
「最後に、聖霊王エルフィード・ユグラシア殿」
部屋の奥にいたエルフの男性が、静かにこちらを向いた。
長い耳に、きらびやかな衣装。ひと目で特別な立場の人だと分かる姿をしているのに、不思議と押しつけがましさはない。立ち姿も表情も落ち着いていて、こちらへ向ける微笑みは柔らかかった。
「エルフィード・ユグラシアと申します。灰燐窟の件、大変だったと聞いております。まずは、無事に戻られたことを喜ばせてください」
穏やかで、上品な声だった。
言葉の一つ一つが丁寧で、自然と耳に入ってくる。強い人の前にいる緊張は消えないのに、この人の声を聞いていると、無理に身構えなくてもいいのだと思えた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
僕と姉さんが頭を下げると、エルフィードさんは静かに頷いた。
「七聖英雄の紹介は以上だ。続いて、各地の調査に同行した冒険者たちも紹介しておく」
ジュードさんの視線が、会議室の反対側へ移る。
そこには、七聖英雄たちとは別に、数組の冒険者が控えていた。本部で見かける冒険者より落ち着いていて、装備の質も立ち姿も違う。視線を向けられただけで、相応の場数を踏んできた人たちなのだと分かった。
「Sランクパーティ《銀嶺の牙》、リーダーのヴォルグだ」
最初に名乗ったのは、灰色の髪を短く刈った大柄な男性だった。
「今回は北部方面の調査に同行した。よろしく頼む」
「Aランクパーティ《蒼刃の輪》、リーダーのレイナです」
次に進み出た女性は、青い外套を肩にかけていた。
「東部方面の調査を担当しました。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶に、僕と姉さんも頭を下げる。
そして、最後に紹介された男が、こちらを見てわずかに眉を動かした。
「……Aランクパーティ《黒鉄の鷹》、リーダーのバルザックだ」
意外と細身の男性だった。
腕を組んだままこちらを見下ろすように立っていて、口元には挨拶というより値踏みに近いものが浮かんでいる。
「Aランクになったばかりで、ずいぶん大きな場に呼ばれるんだな」
穏やかな声ではあるが、そこに含まれた棘は隠しきれていない。
姉さんの眉が少しだけ動く。さすがに七聖英雄達がいる前で揉め事になるのは気が引けるので、姉さんがなにか言い返す前に、ジュードさんを見た。
「バルザック」
その一言でバルザックさんも口元の笑みを消す。
「ここは実績を比べる場ではない。灰燐窟で異常を確認した者として、二人を呼んでいる」
「……失礼しました」
納得したというより、ここでは引いたという感じだった。
「改めましてアトラです。よろしくお願いします」
「キャトラです。よろしくお願いします」
僕たちが頭を下げると、レイナさんは少し気遣うように頷き、ヴォルグさんは表情を変えずにこちらを見ていた。
バルザックさんだけは、腕を組んだまま視線を外す。
ジュードさんが机に広げられた資料へ手を伸ばした。
「紹介は以上だ。ここからは、各地の調査結果を共有する」
僕と姉さんも促されるまま席につき、机に広げられた紙面へ目を落とした。グランバルド周辺だけではなく、離れた地域の地名にも赤い印が打たれている。
「それでは北部方面を調査した部隊から報告を頼む」
ヴォルグさんが静かに頷き、報告を始める。




