VS拳聖
更新遅くなりましたー!!ついに拳聖との戦闘描写をかけてうれしいのもありますが、自分の力量不足も感じる。。もっと頑張るぞー!!
「それじゃあアトラ、どっちが先に戦うか決めましょ!」
修練場の中央で、姉さんがやる気満々にそう言った。
「え?」
思わず聞き返すと、姉さんは当然みたいな顔で胸を張る。
「だって順番決めないとでしょ? こういうのは公平に――じゃんけんよ!」
「いや、待って。じゃんけんで決めることなの?」
「こういうのは勢いが大事なの!」
ぐっと拳を握りながら、姉さんは僕の前に手を突き出す。
「最初はグー!」
「いや、だからちょっと待ってって」
僕が止める間もなく、姉さんはもうノリノリだった。
その様子を見ていた段差の上の冒険者たちが、ざわざわと声を上げる。
「おいおい……」
「まさか拳聖相手に、一人ずつ戦う気かよ?」
「新人のくせにずいぶん余裕だな……」
その声を聞いていたリィナさんが、きょとんと首を傾げた。
「ん? 一人ずつじゃなくていいッスよ?」
その一言で、また周囲の空気がざわりと動く。
「……は?」
姉さんも目を丸くしている。
リィナさんは悪びれもせず、にこっと笑う。
「二人まとめてでも大丈夫ッス」
姉さんがぶんぶんと手を振った。
「二人がかりはさすがに悪いでしょ!」
「悪い?」
リィナさんは、きょとんと首を傾げた。
「そっちが遠慮する必要あるッスか?」
「だって――」
姉さんが言いかけた、その時。
リィナさんは胸の前で、拳と手のひらをパァンと鳴らした。
乾いた音が、修練場に小気味よく響く。
「……舐めないでほしいッスね」
にやりと、不敵に笑う。
「自分は、二人まとめて来られて困るほど柔じゃないッス」
その目は、楽しそうだった。
挑発しているというより、
本気で戦えることを期待している顔。
「むしろ、その方が楽しめそうッス」
姉さんが、ぴたりと動きを止める。
「……なるほど」
「分かってもらえたッスか?」
「うん!」
姉さんは、ぱっと表情を明るくした。
「じゃあ遠慮なくいくわ!」
「切り替え早いな……」
僕が呆れ半分で言うと、リィナさんは楽しそうに肩を揺らした。
「いいッスね。そのくらいで来てもらわないと困るッス」
その時だった。
「ルールを決める」
低い声が落ちて、場が静まる。
キースさんだった。
腕を組んだまま、僕たちとリィナさんを順に見渡す。
「模擬戦だ。当然だが殺しはなし」
その言葉は、段差で見守る冒険者たちにも向けられていた。
「また、どちらか片方がギブアップした時点で終わりだ。」
一拍置いて、修練場の中央を覆う結界に目を向ける。
「それと――アトラが張った結界が壊れたら、その時点で試合を止める。ギルドを吹っ飛ばされては敵わんからな。」
「了解ッス」
リィナさんが軽く手を挙げる。
「分かりました」
僕も頷く。
姉さんも真剣な顔で前を向いた。
その瞬間、修練場の空気が変わった。
さっきまでのざわめきは消え、
段差にいる冒険者たちも、もう誰も軽口を叩いていない。
見逃すまいと息を潜める気配が、空間そのものを張りつめさせていた。
僕は小さく息を吐く。
隣では姉さんが、楽しそうに、それでいて油断なく目を細めていた。
向かい側に立つリィナさんは、相変わらず笑っている。
でも、その姿には一切の隙がない。
キースさんが、静かに手を上げる。
修練場の全員が、その動きを見ていた。
「――始めっ!」
その掛け声と同時に。
僕たち三人は、同時に踏み込み、
次の瞬間には、誰一人として、その初動を目で捉えられなかった。
「――消えた!?」
段差の上で、誰かが叫ぶ。
その声が聞こえるか否や、修練場の中央で衝撃音が弾けた。
ドォンッ!!
空気そのものがぶつかったような重い音。
石床がびりっと震え、遅れて風圧が観客席まで叩きつけられる。
「うわっ!?」
「な、なんだ今の……!」
僕は踏み込みと同時に身体強化を乗せ、真正面から距離を詰めていた。
姉さんも横から回り込むように動いている。
けれど――
(速い)
リィナさんは、僕たち二人を相手にしながら、まるで遅れない。
しかも。
(リィナさんは魔法が使えない。
だから、何か別の方法で強化してくると思ってたけど……)
(……何もしてない?)
それなのに、僕たちの身体強化に素でついてきている。
「っ!」
拳が掠める。
反射で身を沈めると、髪先をかすめた風が遅れて頬を打った。
「おおっ、今の避けるッスか!」
楽しそうな声が、すぐ横で弾む。
「姉さん、左!」
「分かってる!」
姉さんが氷の足場を一瞬だけ作って軌道を変える。
そこへリィナさんの蹴りが飛び込む。
バシィッ!!
鋭い音とともに、姉さんの体が大きく後ろへ滑る。
靴底を軋ませながら踏みとどまる。
「……、すごい」
姉さんが口元を上げた。
リィナさんは少し離れた位置へ軽やかに着地すると、にこっと笑う。
「そっちこそッスよ。身体強化がまだまだ全力じゃないじゃないッスか。」
見抜いてる。
こっちがまだ、出力を上げきっていないことを。
「ふふっ、まだまだ2人とも余裕ありそうっスね!」
リィナさんが軽く肩を回す。
「魔法を使えない拳聖が、どう闘うのか――見せてあげるっスよ。」
その瞬間。
リィナさんの纏う空気が、ふっと変わった。
さっきまで自然に流れていた力が、ひとつ芯を通したみたいに鋭くまとまる。
「第一脈動」
観覧している冒険者たちもザワつく。
「闘気術か……!」
「拳聖の……!」
リィナさんは楽しそうに笑う。
「まずは軽くいくッスよ。――影狼」
その姿が、ぶれた。
いや、ぶれたように見えたのは一瞬だけだ。
次の瞬間には、位置が揺らぎ、前にいるはずなのに横にいて、横にいるはずなのに後ろにいる。
「なっ……」
「アトラ、上!」
姉さんの声に反応して見上げる。
いた、と思った瞬間には、もう消えていた。
「こっちッス!」
今度は真横。
緩急をつけた踏み込みが、視線を完全に置き去りにしていく。
(速さだけじゃない……見切れない)
ただ速いんじゃない。
揺さぶって、惑わせて、反応を遅らせるための動きだ。
「――烈牙ッ!」
鋭い踏み込みと同時に放たれた一撃が、姉さんを正面から捉えた。
ドンッ!!
衝撃音とともに、姉さんの体が吹き飛ぶ。
結界の壁に叩きつけられ、半透明の膜が大きく揺れた。
「姉さん!!」
思わず声が出る。
けれど次の瞬間、吹っ飛ばされた姉さんが、ぱっと顔を上げた。
「っはぁー……!」
そのまま勢いよく身を起こす。
「びっくりしたー!」
痛がるより先に、弾んだ声が出ていた。
「今のなに!? すごいすごい! 全然見えなかったんだけど!」
結界から離れながら、姉さんは目をきらきらさせている。
「姉さん、無事!?」
「だいじょーぶよ!」
軽く腕を振って見せてから、姉さんはにやっと笑った。
「お、立つッスか!」
リィナさんが嬉しそうに笑う。
「立つに決まってるでしょ!」
姉さんはそう言ってから、今度は僕の方を見た。
「アトラ」
「うん?」
「集中しなさい」
「……してるよ」
「そう?ならいいわ。」
即答だった。
姉さんはふっと笑う。
「身体強化の出力上げるわよ」
その一言で、僕も頷いた。
「分かった」
僕たちは同時に息を整える。
その瞬間。
段差にいた冒険者たちが、またざわつく。
「お、おい……」
「まだ上がるのかよ……!」
「さっきので終わりじゃなかったのか!?」
「マジでどこまで隠してたんだ、あいつら……」
"流浪人"は、口元を歪める。
「へぇ……」
キースさんも腕を組んだまま、わずかに目を細めていた。
正面では、リィナさんが嬉しそうに拳を握り直している。
「いいッスねぇ……!」
その声には、心底楽しそうな色が混じっていた。
「こういうの、ほんと久しぶりッス」
にやっと笑う。
「やっぱり強い相手とやるのは、こうじゃないとッスよね!」
その言葉に、修練場の空気がまた熱を帯びる。
僕は一歩前に出て、姉さんと肩を並べた。
姉さんが小さく笑う。
「次は、さっきみたいにやられないわよ」
「うん。僕も。」
向こうでは、リィナさんが待ちきれないみたいに足を鳴らしていた。
「じゃあ――続き、いくッスよ!」




