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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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32/32

#32 力試し

 彼に諦めさせてほしい。

 そう妻の従者に言われて屋敷の訓練場へと弟子を連れてやってきた。

 そこは敷地の入り口から建物を挟んでその奥に作られた広場で兵舎からほど近く、武具や訓練用の倉庫が置かれている。


 弟子はなんだか釈然としないらしい。そういう俺も納得はできないし、どんな奴か気になってはいる。

「諦めてほしいってどういうことなんすかね? 強いなら代わりに戦ってくれりゃもっと上に行けるのに……」

「弱いのに意気込みだけな奴だったらすでに振り払っているだろうけど、そうできない理由があるんだろう」

 妻のやることだ、無意味なことはないだろう。


 しばらくして妻がやってきた。従者と子供二人を連れて。

「待たせたね、クリストフ」

 妻が自分の名前を呼ぶ。

「ああ、カールも来てくれたのか、すまないね」

 自分の隣を見て弟子に微笑む。


 だが、諦めさせたいというやつはどこにいるのか。まさか子供が―――

「時間も惜しいからさっさと要件を済ませるよ」

 そう言って二人の子供の内、男の子を前に押し出す。

「この子の能力が闘技者として通用するか見てやって」

 なるほど、先触れに従者をよこしたのはこの子に気を使ってのことか。


「分かった。だが、良い言い方が思いつかないんだが……昔から剣術でもやってたのか?」

 その齢で無謀にも出たがるというと、そういった教育を受けた家系か金持ちの子供かどちらかだろう。

「いや……魔法に優れているだけ……だよな?」

 妻はなぜそんなに首を傾げて子供を見ているのか。


 子供は眉に皺を寄せて首を傾げて答えた。なぜ二人とも向かい合って首を傾げる?

「少しは……剣を持ったことはあります」

 できるやつがたまに謙遜してそういう場合もあるから判断ができない。

「まぁそういうことだ、あとは任せた。結果は後で教えて」

 そう言って妻は子供二人を置いて従者を連れて帰っていった。


 向かいでは子供二人がこそこそと話している。

「別に予定通りなんだしいいんじゃない?」

「でもまだ分からないから」


 大きく咳払いをすると、ハッと二人はこっちに向いた。

「で、色々と聞きたいことはあるが、出たいのはそっちのでいいんだな?」

 男の子に視線を合わせて尋ねると、しっかりと頷かれた。


「まずは自己紹介だな、俺はクリストフ、で、こっちがカール、俺の弟子」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 子供二人は頭を深め目に下げて返してきた。

「僕は、ハンス・アルカーバーです」

「私は、シャルロッテ・ローデンヴァルトです」

「ああ、よろしく」


 家名持ちか。この国では聞かない家名だな。

「二人は西か?東か?」

 主語なく尋ねると二人は東と答えた。


 家名持ちはめんど―――呼び方に困る。

「えぇっとなんと呼べば?」

「ハンスでお願いします」

「私もシャルロッテで」

「分かった、ハンスにシャルロッテ」


 時間はそれなりにある。少し和ませるのもありか。

 カールを巻き込んで雑談に花を咲かせてもらおう。


 しばらくカールを中心に雑談した甲斐もあって二人の緊張もほぐれたようだ。自然な笑顔がちらほらと出てきた。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」

 ハンスとシャルロッテが身構えたのが分かった。

「カール、的を作ってくれ。できれば鎧ありで」

「はい!」

 元気に返事をしたカールがてきぱきと案山子を作ると、倉庫から持ってきた銀色に輝く鎧を着せる。しっかりと兜ものせて。


 作っている間に二本の模造剣を取ってきて片方をハンスに渡す。

「これであの鎧をぶった切ってくれ。できなければ諦めてくれ」


 模造剣で鉄でできた鎧を切り裂くには切断系の付与(エンチャント)ができないとあの体躯では無理だろう。


 ハンスは剣を頻りに片手で両手で振り下ろす。

「よし」

 何かを確かめ終えると、鎧のついた案山子に届く距離まで移動する。

「始めても?」

 できるというのか?そういえば魔法に優れているって言ってたが付与(エンチャント)も含まれるのか?

「――ああ」

 できるというならやってみてくれ、そういった気持ちで軽く頷く。


 だが、ハンスの両手で振る剣筋はあまりに拙く、ほんとに剣を持ったことがある程度であった。

 それでも、案山子に触れていく切れない刃が鉄の鎧を切り裂いていく。


 案山子が切り裂かれがしゃりと鎧が地面に落ちる音が響いた。

「ふぅ、どうですか?これで十分ですか?!」

 軽く息を吐いたハンスは、こちらに向いて笑顔で成果を尋ねてくる。その姿は確かに年相応に見える。


「まぁ門前払いは避けられたって所だな」

 嘘ではない、それぐらいできてくれなければ教える気が起きなかった。

 たぶん自分の顔の口角は上がっているんだろうな……


 *******


 少し時間が戻り、ハンスが模造剣を受け取った。

「これであの鎧をぶった切ってくれ。できなければ諦めてくれ」


 うーん、これで普通に切っても僕じゃできないなぁ。

 ハンスは何回か剣を片手で振ってみたり両手で振ってみたりして振り心地を確認する。

「両手の方がやっぱいいや」

 ハンスは小さくこぼす。


 案山子の前まで向かう間、鎧を切り裂ける方法を考える。

 できることなら付与(エンチャント)だけど、最近はあんまりしていないから加減が分からないな。

 とりあえず持ったことがある剣の刃を想像しつつ、付与(エンチャント)するが、これだけでは足りない。たぶん藁だけならこれでも切れると思う。


 もう一つ何かが欲しい。


 魔力を乗せて強引に―――いやできても今後を思うとこんな出来では使えない。

 熱で溶かしつつ―――これはできてもこの剣じゃもたないかも。

 最近練習してるアイネアスさんから教わった中身をくり抜く方法を―――完全じゃないけどやり様はあるかも。


 ハンスは模造剣にもう一つ付与(エンチャント)する。

 それは、両刃の作りになっている片方で切りつける予定の刃、そこに触れたものを削り取る魔法を付与(エンチャント)した。


 でも、これってほかに当てたら洒落にならない気がする。早く切ってしまおう。

「始めても?」


「――ああ」

 なんか少し間があった気がするけど、早く終わらせよう。


 ハンスは恐る恐る案山子に向けて斜めに振り下ろす。

 すると、思っていた通りすんなりと刃が入り、剣は案山子を通り抜けた。

 一息つく前に付与(エンチャント)は解除。

 削り取る魔法の付与(エンチャント)だけで十分だった気もする。


 これならきっと満足してくれる気がするし、付与(エンチャント)も色々できそうで調べ甲斐がありそう。

 ハンスは、できたことの喜びと新しい発見に勢い余って出来具合を聞いてしまう。

「ふぅ、どうですか?これで十分ですか?!」


「まぁ門前払いは避けられたって所だな」

 少しにやけている気がするけど反応はイマイチ、これができて当たり前なのか。でも何とかこれですぐ辞めさせられることは無くなりそう。


 それからは一旦、訓練所の端にある椅子と机に向かった。

「じゃあまずはルールの説明とかいるだろ? 何を知っているか教えてくれ。それから考える」

 クリストフはどこまで知っているのか確認してから教えてくれるらしい。


 ハンスは聞き覚えていたことを伝える。

「確か、商会毎に一人だけ参加できて、戦っていれば今の国家を運営している商会の人達と戦えること。弓とか魔法での遠距離の攻撃は禁止。これぐらいです」

「ハンス……もうちょっとしっかり覚えとかなきゃ」

 ハンスの答えた内容にシャルロッテが眉をひそめていた。

「確か一週間ほどあって予選が四日と本選に二日があったはず。予選では今の国家を運営している商会以外が戦って残ってた人達で本戦に挑めるみたいな感じ……ですよね?クリストフさん」

 シャルロッテは説明を終えてクリストフに視線を送ると彼は小さく何度か頷いた。


「嬢ちゃんの方が詳しいじゃねぇか」

「嬢ちゃんじゃなくてシャルロッテです」

「悪い悪いシャルロッテ嬢?」

「それでいいです」

 抗議するシャルロッテにいたずらめいて呼び方を変える。


 小さく咳をして話を戻す。

「大会のルールはそっちの嬢ち―――違ったシャルロッテ嬢の言った内容でだいたい合ってるがもう少し補足しておこう」

 補足の内容は、予選では相手の背中を地に三回つけるか気絶させる、これを一試合五分ほどで行われ、点数をつける。背をつけさせた回数か気絶させるで五点となる。

 そしてそれを四日間続けるか一定数になるまで行われる。

 相手を選ぶ方法としては、自分の点数以上を相手に選ぶことができる。そのため、点数上位は挑まれることが必然と多くなる。

 途中で辞退を宣言するか、継続不能な負傷の場合のみ辞退でき、気絶から復活後、即挑戦者がいた場合は必ず試合に出なければいけない。


「ざっとこんな感じだな。ハンスは予選には含まれないから本選のみ気にすればいい」

 そう言って本戦についても説明してくれた。

 予選と本選の間に休みの日が設けられている。それで癒せるのは限られているが。

 本選では、予選を勝ち残った者(挑戦者)からのみ、国家運営商会と試合が組め、勝利すればその座を奪える。

 国家運営商会同士で試合を行いたい場合、一度挑戦者に敗れることで試合できたりもするが、リスクはある。

 そして挑戦者が全員、試合の続行ができなくなるか二日経つまで行われる。


「どうだ?聞きたいことは?」

 椅子の背もたれに体重を預けてクリストフは尋ねてきた。


「本選の点数ってその試合での勝ち負けに影響するだけですか?」

「そうだ。試合時間は五分だから結構短い、だから挑まれる側としては軽くいなしていれば楽だが、何回も挑んでくるんだよなぁ……」

 経験者らしく、眉をひそめて苦い顔をする。

「だから、背をつけさせるより気絶させて時間稼ぎをできるときはしてるな」

 簡単に言うがそれはそれで力加減とか大変なんじゃ……


 ハンスが首を傾げているとクリストフは経験者らしいアドバイスを送ってくれた。

「相手を観察してそれに合わせればいい。どうせ予選である程度分かるしな」

「なるほど、こっちは相手の動きを事前に見れるんですね」

 最終日にならある程度人も減っていて観察しやすいかも?

「そうだぞ?だから予選の間もしっかり見とかないと嫌な戦い方をする奴と当たるとめんどいぞ。それに」

 嫌な戦い方……

「?」

「予選二日目にはもう戦っていない奴がいるときがあるからな。最終日だけとかは良くない」

「え、なんでそんなことに?」

 予選は点数を稼がないとダメなのでは?


「よく考えてみろ、別に上位にいなくても生き残っていれば何とかなる。血気盛んな奴ほど早く辞退していくからな」

「確かに」

 点数を取っても挑まれる範囲が広くなるだけなのか。それに挑める相手も減るなら必要以上に集める必要がない。


「なら最終日に調整すれば何とかなりそう」

「そうそう、最後で点数をいくつか稼いで上位にいれば定員には残れるだろ。な?カール」

「えぇ、まぁ……」

 なんだかカールの反応が暗い。

「こいつ、それをしようとして定員に入れなかったんだよな?」

 カールの肩に手を置いて笑顔で顔ごと視線を向ける。

「そんな昔のこと覚えていないです」

 カールはそっぽを向いてしらを切っている。

「つれないこというなよなぁ、あの時の縁で今ここにいるんだし」


 楽し気に話すクリストフとは対称的にカールはやっぱり暗いままだ。

「そんなこと言ってますが、ほんとに譲る気ですか?」

 肩の手を払いのけると真剣な表情でクリストフを見た。


「なら聞くが、ハンスにやらせたことお前はいつできた?」

 さっきやった案山子と鎧のことだろう。

「ここにきてから四年……」

「もう五年は過ごしているな。お前の癖は色々知っている」

「でも! 自分じゃなくてこの子を選ぶんでしょ?!」

 カールが少し涙目になっていた。


 クリストフは眉を寄せて困った表情をした後、大きく息を吐いて答える。

「はあ。一回しか言わないぞ?お前は、俺の跡を継ぐ。あと五年ぐらいたてば俺と同じぐらいになる、そう思う。だが、彼は俺なんかよりも生きてきた世界が違う、目的も。だから可能性を感じている」

「ふふふ……あははっははは―――」

 カールが涙目になりながら堪え切れずに笑い出した。

「すごくいいこと言ってそうですけど、あんまり響かないです」

「そうか?」

「はい。でも認められていることは分かりました、ありがとうございます」

 目元の涙を拭いながら礼を言って頭を下げる。


「ああ、伝わったならいい」

「あーでも、やっぱりはっきりさせときたいです」

 頭を上げたカールがハンスを見た。

「一度予選ルールで戦ってくれますね?」

 その顔にはさっきまで涙を浮かべていたとは思えないほど、鋭い目つきをしていた。


 これは避けられない。

「分かりました」

 ハンスは頷いて答える。


 ********


 ハンスとカールはそれぞれ模造剣を持って訓練所の真ん中にいた。

 お互いに防具は最小限、胸板と関節部の補助程度。

「では、予選ルールは覚えていますね」

「もちろん、三回背をつけるか気絶するまでですよね」

 ハンスの答えに頷いて肯定する。


 油断はするつもりはない、でもこの子に対する評価が気になる。これはやっぱり戦ってみないと分からない。

「先手は譲ります」


 お互いに剣を構える。


 さぁどうする?剣で切りかかるか?それとも足払いか?

 カールは軽く剣先や足を動かして相手の動向を探る。


 ―――っ!!!

 ハンスに動きがあった。

 姿勢を低くし左に両手で剣先を後ろに構えて踏み込んできた。

 もともと低い身長なのに姿勢を下げられるとかなり低い。


 カールもそれに合わせて振り上げられる剣を勢いがつく前に踏みつけて地面に突き刺し―――

「なっ?!」

 ハンスは抑えられた剣をそのまま手放し、掌底で喉元に突きつけられる。


 何とか姿勢を変え胸元で受けることに成功するが息が漏れる。

「カハッ」

 体が浮き、後ろに弾かれ胸板の防具が少し凹む。


 その間にハンスは剣を拾い直して構えていた。

 カールも急いで構える。


 すごく戦いなれているように見えるのは気のせいか?

 油断は――していたのだろう。ここまで戦いなれているとは思わなかった。

 次はない。

 それに一手目は譲った、次はこっちの番だ。


 カールは踏み込むと構えた姿勢から剣をほとんど振り上げず、振り下ろす。

 それを角度を変えて同じように体が覚えている型に沿って剣を振る。

 小刻みに空を切る音と剣に当たる音が鳴った。


 細かな攻撃をハンスはたどたどしくも防いでいた。

 それでも、隙は生まれる。

 振り上げた剣に巻かれハンスの両手で握った剣が一緒に振り上げられる。

 開いた足元に回し蹴りを繰り出す。


 ハンスの両足は綺麗に払われ、一瞬宙に浮いた後、背中を地につける。


「これで一本ですね」

 そう言って倒れたハンスに手を伸ばす。

「はい、でも負けません」

 伸ばした手の助けを得てハンスも立つ。

 落とした剣を握り直すとまた構える。

 それに合わせてカールも構える。


 さて、ここからは防戦でもいいわけだが、どうするか。

 でも彼に自由を与えると何をするか分からないなら、連続で攻めて封じた方がいいか。


 カールはさっきと同様に細かな剣戟でハンスの動きを防戦一方に固定する。


 だが、おかしい。さっきよりも隙が減っている気がする。

 始めは打ち込むと受けきれず弾かれていたはずだが、今はほとんどない。

 打ち込むほどにハンスの受け方が洗練されていく。すでに慣れつつあるらしい。

 このままじゃ余裕を与えてしまう。


 細かな剣戟の合間に少し重みのある剣戟も含めよう―――

 そう思った矢先、こちらの剣が押し負けて弾かれた。

「は?」


 その隙にハンスがすれ違うように突っ込んできた。

 この距離ならまた掌底か? だが剣は振り上げられたままだ。

 手元に警戒していたカールだが、剣を振り下ろす間もなく遅れて腹部に痛みを感じる。


 その痛みはハンスが繰り出していた蹴りであった。

 気づくのが遅れたのもあり無防備にいい所にもらってしまう。


 数メートル飛ばされて地面に着地する。

「ぐふっ……はぁはぁ」

 さすがに呼吸が―――

 俯き気味に呼吸に意識を向けていると不意に声がする。

「ごめんなさい」

 その声に顔を上げると、首筋に剣を振り下ろそうとしていた。


「そこまでだ!」

 遠くからクリストフの制止する声が聞こえる。

 その声を聞いたからか意識が遠のく。

「ああ……まけてしま―――った――」


 カールはその場で意識なく倒れこんでしまった。


 ********


「カールさん?!」

 クリストフの制止の声を聞いて剣を下ろしたらいきなり倒れこんだ。


 呼吸を確認すると呼吸はしているようだった。

「死んではなさそう……」


 駆け寄ってきたクリストフが色々確認した後、担いで訓練所の脇に併設されている医務室に連れて行った。



 数分経った後、クリストフは戻ってきた。

 彼が戻ってくるまでにシャルロッテには見ていたけど一応説明しておいた。


「悪いな、こんな所で待たせて」

「いえ、命に係わることかもしれませんでしたから……申し訳――――」

 謝罪しようとハンスが言葉にしている途中、クリストフは遮るように手を上げて制止する。

「いや、これはカールの責任であり、俺の責任だ。君が謝ることじゃない。だから気持ちだけ受け取っておく」

 そういうと、腕を組み顎を手でさすって視線が泳ぐ。

「ハンスよ、まだまだ余裕か?」

 彼の言いたいことは分かった。たぶん力量を自分で図りたいのだろう。

 特に疲労感もないし、断るという選択肢はない。それに負い目もある。

「はい」

 ハンスは頷くとクリストフは、分かったとだけ答えハンスに先ほど使った剣を渡してきた。


「俺も自分の得物を持ってこないとな。ああ、ちゃんと刃は切れないから」

 んん? 彼はこの長剣と呼ばれる一般的な剣を使わないってことなのかな?


「待たせたな」

 しばらくすると彼は片手に細長く緩く湾曲した鞘に入った木製の得物をもって帰ってきた。

「それは?」

 見たことある気はするが、よく覚えていない。


「まぁこれは刀っていうらしい。ちゃんと刃はないだろう?」

 そう言って抜いて見せ、中の刀身も木製で刃がないことを確認させた。


「じゃあ早速始めようか。シャルロッテは端まで離れていた方がいい」

 二人は訓練所の中央に向かい、シャルロッテは端まで歩き、心配そうにハンスを見ていた。


「この戦いは予選とか本選は関係ない、ただの模擬戦だ。まぁルールはないと締まらないから、胴への三本先取は?」

 胴以外で受けるのはありということか。一本入った時点でかなり不利な気もするけど……まぁいいか

「それで大丈夫です」

 二人がそれぞれ構える。


 ハンスはよくいる剣先を相手に向けて構えるが、クリストフは腰を落とし、片手は鞘に、もう片方を柄に手を添えて構えている。

「先手はどうぞ」

 また先手を譲られたけど、試される側だから仕方ないか。


 それにしてもどう攻めていいかが分からない。ただでさえこういった戦い方をほとんどしないし。

 ハンスが剣先をゆらゆらと左右に振ってみても一切動じないし、視線すら揺るがない。


 うーん……胴を狙うなら縦か横か。横なら通りやすいかもしれないけど……いやどう振っても止められる。

 ならいっそ身体強化付与と視覚強化付与を全力でやった方がいいな。よし。


 ハンス周りに青白い光が色濃くなっていき、体にしみこむと体自体が軽く青白い光を発する。

「いきます!」

 一言発すると、全力で切りかかる。言っても言わなくても変わらない。


 ビュンッ―――

 空気を切り裂く音が響く。

 ガキンッ―――

 案の定、ハンスの剣は軌道を刀でずらさ、地面当たる前に何とか軌道を止めて、横なぎに移ろうと力を加える。


 だが、ハンスは視覚強化した目で捉えることができた。すでに振り下ろした両手の隙間から鞘の先端がハンスの腹部にめがけて迫っていることに。

 クッ――

 ハンスは距離を離そうと下がるが間に合わない。


 それなら!

 握っていた剣を手放し鞘を両手でつかみにかかる。

 あっさりと掴めた。だが、すでにクリストフは鞘を握っていなかった。


 しまっ―――

 鞘を握っていた手がそのまま滑るようにハンスの胸元に叩き込まれる。

「がはっ」

 一拍遅れたハンスはもろに食らってしまい、肺から空気が漏れる。


 足跡を長く残してハンスは息を整える。

 そっか、自分だけが武器を手放すとは限らないか……

「これで一本だ」


 そう言って手放した長剣を放り投げてきた。こちらも鞘を投げ返す。

 お互いまた同じように構え直す。


 とれる選択肢少なすぎる!どう切りかかろうが一撃目は弾かれてそのまま反撃がくる。


 あの構え……左腰に鞘を据えてそこからの一撃に限定はされているから行動は予測しやすいけど、ただ速いだけじゃ合わされる……なら変則なら合わされないか?まだ次はある。


 ただ正面から打ち込むことは避け、距離を保ちながら彼の右側面に回り込む。

 正面に捉えるために向きを変えてくれたらそこに合わせられ―――


 ハンスが真横についてもクリストフは構えたまま微動だにしない。

 横がダメなら真後ろへ―――くっ?!

 さらに踏み込もうとする意識の隙にクリストフが動く。


 ジャリと彼の右足が向きを変え、ハンスに向く。


 振られる軌道は想像できる!ならそれに合わせてタイミングをずらして―――

 彼の刀が円を描いて振られる。


 なんで?!

 視覚強化のおかげで彼の刀に違和感を覚える。

 それは、鞘をつけたまま振られていたからだ。


 だが、もうそれに合わせるしかなく、ハンスはその鞘にタイミングをずらしたつもりで剣を合わせる。

 でもそれすら見込まれていたのか、少し高い位置で鞘とぶつかる軌道だ。

 衝撃を感じる少し前に彼は体をねじり始め、衝撃の勢いを使って鞘を宙に残し刀を抜く。

 そのまま一回転し減速したハンスの振り下ろす剣よりも低い位置から胴を狙って木製の刃が迫る。


 ハンスはなすすべなくその刃に数メートル弾き飛ばされる。

 何とか両足で着地した。またしても長い足跡を残してしまう。

「ほう、骨折か失神ぐらいするかと思ったが」

「ぜんぜん――これぐらい―――なら」

 身体強化しててもこんなに衝撃が来るなんて……なかったら骨折ですんでいない気がする。


「そうか。なら最後はハンスの使える手段なら何でも使っていいぞ。魔法とかな」

「そうさせてもらいます」

 それなら何かと対処できそう。

「ああ、でも発動が分かったらこっちも動くから」

 付け加えるようにクリストフが言う。

 ハンスはそれに頷いておく。


 両者とも先ほどと同じように5メートルほど離れて構える。


 魔力領域を軽く広げて魔弾なら瞬発力もあってけん制になるかな。

 ハンスは構えたまま、周囲から魔弾を両手両足と頭に的を分けてクリストフに発射する―――

 はずが魔法に意識が行った瞬間、クリストフが動いていた。

 慌てて魔弾を発射したが的を絞り切れず、クリストフの後方で地面に当たり土埃を巻き上げる。


「まだまだ!」

 ハンスは後ろに飛びのきながら魔法を発動させる。

 飛びのいた先へ着地する前に空気の壁(エアシールド)で足場を作った。


 空気の壁(エアシールド)を蹴って全力で前進する。

 飛び込んできたクリストフとハンスの距離が一気に縮まる。


「たああ!」

 ハンスは構えた状態からほぼ剣を動かずに体当たりに近い形で突っ込むと、クリストフは鞘に入れたままの刀でそれを受ける。


 鞘に入れてあったとはいえ細身の刀では長剣で幅のある剣の勢いに勝てず受けた箇所が折れる。

 即座にクリストフは刀を手放し、ハンスの刃を両手の掌で受け止め、そのままへし折る。


 ハンスの勢いが強かったのか、二人ともハンスが進んだ先に足跡を伸ばす。

「ふむ、お互いに武器が壊れたか」

 少し離れた位置でお互いを見る。

「そのようです。続けますか?」

 そういってハンスは素手で構えを取る。

「いや、これ以上やったらほんとに怪我をする」

 そう言ってハンスの胸元を指す。

「え? ああ、ほんとだ」

 ハンスが胸元を見ると借りていた胸板の防具が割れて落ちそうになっていた。

 次攻撃を受けていたら割れた破片も含めて危なかったかもしれない。


「かなり丈夫でしたね」

 二回受けただけとはいえかなり強い衝撃だったし、普通なら二発目で粉々に壊れていそうな気もする。

「そりゃ新鉄鋼で作ったやつだしな」

「何ですかそれは?よくある鉄とは違うんでしょうか……?」

 ハンスは不思議そうに首を傾げている。


「お、おまえ……そんなことも知らなかったか」

 クリストフは刀と剣の落ちた破片を拾いながら呆れていた。

「分かった。その辺も教えてやるから手伝ってくれ」

「え、それって……」

 ハンスは急いで木片を拾い始める。

「まぁ合格だ。代わりに出てもいいぞ。だが、それまでに色々教えこんでやるから覚悟しろよ」

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