天使の為の本改革
よく晴れた日の昼間。ソフィアは紙の束を持ったアンナを連れて廊下を歩いていた。
レックス先生とのお茶会で失言してから2週間ほど経つが、本が見つかったかどうかは知らない。
この間の講義の際に、目の下に大きな隈をつくっていたからきっとまだ探している最中なんだろう。
(あぁ、このまま見つからなかったらなんて言い訳をしよう…)
そんな不安もある部屋の前まで行けば自然と吹き飛んでいく。
扉の外にまで聞こえるキャッ、キャッと笑う可愛らしい声。
扉を開けて部屋に入ると、私に気づきハイハイをして近づいてくる天使。
そんな天使に向けて、ソフィアは両手を大きく広げる。
「ジャック、おいで」
ジャックは8ヶ月になりだいぶ大きくなった。それでもまだまだ小さな体を抱き上げる。
おむつカバーのお陰で嵩張り過ぎない程よいおむつ尻。そこはかとなく薫るミルクの香り。ヨダレでベトベトの紅葉のようなお手手。
暫くジャックの愛しさを堪能して、ジャックを床に下ろすとソファーへと歩みを進める。
本当はジャックを抱っこして歩きたいけど、私の軟弱ボディーでは、抱き上げるのが限界なのだ。
(あぁ、子どもの体なのが憎い!)
ジャックはハイハイしながら一生懸命私についてくる。
(あぁ、なんて可愛いの!!!)
ソフィアはソファーの上に座った。エリゼにジャックを膝の上に乗せて貰う。
「ふふ、今日はジャックにいいものを持ってきたのよ」
そう言うと、タイミングを図ったかのように、アンナが紙の束を差し出してくれる。
アンナが渡してくれた紙の一枚目には、手で顔を隠す熊と”いないないばあ”の文字。
そう、前世ではよく見た、色んな動物がいないないばあをする乳児向けの絵本である。
著作権?ナニソレ、治外法権です。
実は、レックス先生に文字を教えてもらうまでソフィアは文字をひとつも知らなかったのだ。
いくら野猿と言われていたとしても、6歳になるまで一度も文字に興味を持たなかったのは、少し不思議な気がしていたが、その疑問はローレンス家の書庫に行った際に解決した。
なんとこの世界には、子ども向けの絵本や児童書が存在しなかったのである!
文字と触れ合う機会がなかったから、文字に、興味を持たなかったのかと納得した。
短大で幼少期に絵本と触れ合うことの大切さを常々聞かされていた私は、こりゃいかんと思いジャックの為に絵本を作ることにした。
思い立ってから2ヶ月以上経ってやっと昨日絵本が完成したのだ。
絵本づくりに時間がかかったのは、お父様とお母様も絵本作りに参加したいと言って、3人で協力して作ったからである。
色々と話し合って、文字はお父様が、絵は私が、色付けはお母様がすることで落ち着いた。
だから作者名は、3人の名前を組み合わせて『リシア・ソフィード』となっている。
紙はジャックでもページを捲りやすいようにと思い、分厚くて丈夫なものを使っている。
出来たての絵本をジャックに早速読み聞かせる。
今日はジャックの絵本デビューの記念すべき日である。
前世での経験をフル活用して、ジャックに絵本って面白いと思って貰えるような読み聞かせをしてあげたい。
「いないないばあ、作リシア・ソフィード──────」
読み聞かせが終わると、ジャックは絵本を指さして、
「うっ!」
もう一度読むようにせがんだ。
(勿論!ソフィアお姉ちゃん、可愛い弟のためなら何度でも読むよ)
………それから10回ほど読み聞かせをした。
最後の方には、「ばあ」のタイミングで反応をしてくれるようになったから嬉しかったけれど少し疲れてしまった。
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夕食の際に2人に絵本が好評だったことを伝えると、次の絵本を作ろうということになった。
次はみんなで読み聞かせしようと約束もした。
こうやって家族の思い出をどんどん増やしていけたらいいなぁ。
お父様の名前はリチャードです。
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『ある意味転生チート?』の話の内容を少し変更させていただきました。
(前)掛け算と割り算が出来ない→(後)割り算が出来ない
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ご意見ありがとうございました。自分の物差しを普通だと思ってはいけませんね…。




