2日目
登場人物
有沢美琴:喫茶店「アリサワ」店員
柿原清美:平輪高校物理教師
境野里奈:平輪高校3年生
鷹取勝正:仁楼村駐在警察官
鷹取みのり:平輪高校3年生
名畑修二:小説家
名畑継治:仁楼村村長
林川凌介:平輪高校3年生
前田哲彦:平輪高校3年生
有沢淳也:喫茶店「アリサワ」マスター【1日目処刑者】
相関図
~~まとめ~~
占 林川凌介 名畑修二○
柿原清美 有沢美琴○
霊 鷹取勝正
有沢淳也
処 有沢淳也
犠
継「みんな、今日も集まってくれてありがとう」
村人たちの視線はそう言う村長よりも、村長の左の席にできた空席に向かっていた。
里「お姉ちゃん……なんで来てないの……?」
哲「里奈、美琴さんは……」
哲彦は里奈の手をギュッと握った。みのりも反対側から里奈の手を握る。
み「みのりたちがついてるよ。だから――必ず美琴さんの敵を討とう!」
里「うん……ありがとうみのり、哲彦」
里奈は涙をぬぐうと、凌介と清美に視線をやった。
里「凌介、柿原先生。占い結果を教えてください」
凌「俺は哲彦を占って、人間という結果が出た。占った理由は、修二さんの意見に乗って、霊媒師どちらかに投票すると言ったのが怪しいと思ったから。哲彦、疑ってすまなかった。それに、親友が人狼かどうかっていうのを知っておきたかったからだな」
清「私は里奈ちゃんを占って、人間だという結果を見ています。なぜ占ったのかというと、投票の時にひとりだけ村長さんに投票したのが気になったから。それが元で、教え子が疑われるのは耐えられないのでね」
修「なるほどね……。それじゃ今度はカツさん。結果を教えてくれ」
勝「淳也君は人間だった。私から見れば、彼は狂った人間だったと言えるな。もちろん皆さんたちから見れば、淳也君が本物の可能性は十分にあるのだがね」
継「ふむ……まとめると、清美さんは美琴さんと里奈ちゃん、凌介君は修二と哲彦君に人間だと言い、カツさんの淳也さんを見た結果も人間。そして何の役職だとも名乗らず、誰からも占われていないのはこの私、名畑継治とみのりちゃんのふたり、というわけだな」
修「そうだね父さん。ここで考えなくちゃいけないのは、カツさんをどうするかということ。つまり――」
勝「今日は、私に投票するんだ」
勝正は、修二の言葉を遮って強く言い放った。
み「お父さん! なんでそんなこと言うの! みのり嫌だよ!」
みのりは今にも泣きだしそうな顔で、父の腕にすがっている。
勝「みのり、よく聞くんだ。私は確かに、自分が本物の霊媒師だとわかっている。しかし、それは私だけの情報。村のことを考えるなら、私を殺すのが良いんだ」
み「で、でも……」
みのりの瞳からは、すでに大粒の涙が止めどなく流れていた。勝正はみのりに微笑みかけると、さらに続ける。
勝「それに今日、私以外を殺すとなったら、おそらく村長とみのりが候補だ。私は、みのりが死ぬのが1番耐えられない。だから――今日は私を殺してほしい」
み「でも、でも――でも!」
勝「みのり!」
勝正はみのりの両肩を掴んで、よく言い聞かせる。
勝「お父さんの願いは村が平和になること。そしてみのりが生き残って、みのり多き人生を送ってくれることだ。わかってくれるね?」
みのりは、大声をあげながら泣きじゃくり、父と固く抱きしめあった。
継「カツさん、みのりちゃん。少しの間、席を離れていなさい。今日は議論もできないだろうしね」
勝「わかりました。ありがとうございます、村長」
勝正は、みのりに寄り添いながら部屋の隅へ移動する。
里「みのり……」
里奈は、そんな親友の姿を見て一層人狼というものが許せなくなった。何も起こらなければ、みのりもカツさんもこんな思いをすることなかったはずなのに。
里奈は親友のために、円卓に座る自分を除く5人を再び見た。そこにはやはり、信じたくない事実がある。里奈は短くため息をつくと、皆に向かって話し出した。
里「みのりとカツさんには申し訳ないけど、少し、考えを話させてもらうわね。カツさんが本物の霊媒師なら、お姉ちゃんを襲った憎き人狼はまだ2匹いる。まず柿原先生か凌介のどちらか……そして哲彦、みのり、村長さん、修二さんの誰かひとり……」
哲「そうだな、里奈。それにこれは俺の勘だが、カツさんと淳也さん、どちらが偽物でもそれは人狼ではないと思うんだ。人狼ならもっと抵抗しても良い気がするし――」
哲彦は思わず勝正とみのりに視線をやったが、すぐにパッと逸らした。
哲「どちらかといえば、カツさんが本物の霊媒師なのではないかと考えているけどさ。なんとなく、今日の反応からして。だから今日は投票するのは――」
凌「いや、カツさんもああ言っているんだ。確かに俺も、カツさんが真の霊媒師だと思う。でも、狂ってしまった者や人狼が、生き残るための細い確率にかけているとしたら非常に怖い。俺はカツさんを疑っているわけでもないが、確実な平和のために……」
凌介は語尾を濁し、部屋の隅のふたりを哀しげな眼で眺めた。
清「もし今日カツさんを残して、彼が人狼か狂人だったとしたら、明日は人狼ふたりと狂人が残って投票を集められてしまうかもしれない。だから凌介の意見に乗るわけじゃないけど、今日の投票は……カツさん」
清美が言い切ると、村人たちは口を閉ざしてしまった。少し経って、修二は周りの様子を窺いながら発言した。
修「誰も話さないのなら、ちょっときかせてもらうよ。清美と凌介君、美琴が人狼に殺されたことにはどう考えてるんだい?」
凌「俺は、姉ちゃんが少しでも自分が真の占い師に見えるように、自分が出した人間判定の人を殺した、そんな風に見てるよ。美琴さんを騎士と思って殺したとは思えないから」
清「私はただ、本物の占い師が人間だと言っている人を殺したかったんだと思ってるわ。その方が、後々人狼は有利になるでしょうから」
修「そうか。そういえば里奈ちゃんは、昨日父さんに投票してたけどまだ疑っているのかい?」
里「いえ、今日はそんなには。ただ無理に誰かを疑っているというのなら、やはり村長さんか修二さんですね。修二さんは、場を仕切ろうとする感じが少し怪しい気もしますし、村長さんは今日、あまり喋っていないので」
継「そうか……それはすまない。私はただ辛いのだよ。あんな親子を見ているとね」
修「気持ちは分かるよ、父さん。ところで父さんは凌介君と清美、どっちが本物の占い師だと思ってる?」
継「私は清美さん、だと思っている」
継治がそう発言すると一瞬空気が張り詰めた、里奈はそんな風に感じた。しかし、里奈はそのわけを見つけることはできないまま、修二が継治に質問する。
修「何でなんだ?」
継「正直な話、本物と偽物の区別はつかない。だから私は、より信じたい者を信じたい」
凌「それってつまり、俺より姉ちゃんの方が大切だって言ってんのか?」
継「……あぁ。申し訳ないね、凌介君」
継治がそう言うと、柱時計の音が鳴った。
継「今日は、昨日処刑された淳也君の隣に座っていたカツさん。あなたから投票してください」
勝正は黙って頷くと、とても穏やかな表情で言った。
勝「先に言っておくが、皆は私に投票することをためらわないでほしい。これが、私の最後の願いだ。きっと、きっとこの村は救われると信じているよ。そして私は村長、あなたに投票する。凌介君と清美さん、どちらが真の占い師かは知らないが、人間だといわれている人に投票はできない。だから、すみません」
継-1
み「み、みのりは――」
みのりはすすり泣いていた。勝正が優しく優しく背中をさすると、ゆっくり口を開いた。
み「それがお父さんの願いだとしても、お父さんに投票することなんて――絶対にできない。だから、だから――ごめんね、村長さん」
継-2
里「あたしは、カツさんに投票する。ごめん、みのり。ごめんね」
継-2 勝-1
哲「オレもカツさんだ。申し訳ない、みのり」
継-2 勝-2
凌「必ず、村を平和にしてみせますよ、カツさん。だから――すみません」
継-2 勝-3
清「こんな……こんなことになるなんて……。許せないわ、人狼が。でも――ごめんなさい、カツさん」
継-2 勝-4
修「……そう、だな。カツさん、あなたは本当に勇敢な方だ。僕は必ず、あなたの望みを叶えてみせる」
継-2 勝-5
継「もう、決まっているのか。だが自分の意志表示として、私はカツさんに投票する」
継-2 勝-6
みのりと勝正は、再び強く抱きしめあった。
◇
継「何か、言い残したいことはありますか?」
勝「もう何もないですよ。ただ、最後にみのり。お父さんは、お前という娘がいてくれて本当に幸せだった」
み「みのりも――みのりも幸せだよ!」
みのりに優しく笑いかけると、鷹取勝正はゆっくりと階段を上って首に縄をかけた。
◇
「みのり?」
里奈は交番のパイプ椅子にもたれるみのりを見つけた。みのりの黒々とした長い髪が、だらりと垂れ下がっている。里奈の方を向いたみのりの顔は疲れ切っていた。
「里奈……!」
みのりは里奈の胸に飛び込んだ。顔をうずめて、涙を流す。
「お父さんが……お父さんが……!」
里奈は優しく親友の頭を撫でた。何度も何度も、落ち着かせるように撫でた。
「お父さん……なんで、なんでみのりを置いていっちゃうの……お母さんに続けてお父さんまで……!」
肩を震わせて泣きじゃくるみのり。みのりにとって、家族や友人というものは心の拠り所。特に家族とは、いつもべったりだった。みのりの母が人狼に襲われた時も、ひどく泣いて落ち込んでいた。その時支えてくれた父親も、もうこの世にはいない。
心中を察した里奈は、優しい口調で語りかける。
「あたし実はね、嬉しかったんだよ。お姉ちゃんが死んだとき、『みのりたちがついてる』って言ってくれたこと。とってもとっても、心強かった。お姉ちゃんのためにも頑張らなくちゃって思えた。絶対に村に平和をもたらしてみせるって。だから昨日哲彦にも言われたんだけど、みのりにも言うね」
みのりをギュッと抱きしめて、里奈は柔らかい声で言った。
「あたしたちがついてるよ」
◇
「伯父さん」
継治はその心配そうな声を聞いて、ドアの方を向いた。甥である哲彦が立っていた。継治はペンを机に置くと、椅子から立ち上がった。
「どうかしたかい?」
「いや、里奈は交番でみのりとふたりで話していたので邪魔しない方が良いかなと思って……それでひとりでいるのも不安だったので」
「そうか。それじゃ、紅茶でも淹れようか。君のお母さんほどうまくはいかないがね」
「ありがとう、伯父さん」
継治と哲彦は黙ったまま台所へ向かう。何かを話そうかとも思ったが、継治には何を話せば良いのか思いつかなかった。台所を覗くと、お湯を沸かしている清美の姿があった。
「あら、村長さんに哲彦君」
清美はふたりに目をやると、食器棚に手を伸ばした。
「カップがもう1個いるわね。哲彦君も紅茶飲むでしょ?」
「はい……。柿原先生、この家にいたんですね」
「昨日からね。あの家には居ずらいから」
「そう、ですよね」
清美は戸棚にも手を伸ばして、ティーバックの束を取り出す。そしてその中から3つ出して、束の方を元の位置に戻す。
「ふたりは座ってて。もうお湯も沸くと思うから」
ニコリと笑った清美は、何かを我慢しているようにも見えた。だが継治も哲彦も、その思ったことは心のうちだけに留めておくことにした。
「伯父さん」
急に改まった顔で、哲彦は継治に向き直った。継治は思わず顔が固まったが、真剣な眼差しで哲彦と向き合う。
「どうした?」
「あのさ、オレもここに泊っても良い?」
継治は一気に顔の緊張が解け、優しく頷いた。
「なんだ、そんなことか。当たり前だ。客間はまだ余っているからな」
「良かった……ありがとう、伯父さん。なんだかひとりってのが、心細くてさ」
継治は彼の肩に優しく手を乗せた。
◇
「修二さん」
凌介は、家の前を通り過ぎようとした修二に声をかけた。修二は何かを悩んでいる様子で、顎に手を当てていた。
「何だい?」
修二は手を離すと、何ともないような表情で凌介の方に向いた。
「いえ、別に見かけたら声をかけただけですけど……なんで出歩いてたのかなって」
「色々と考え事だよ。小説で詰まった時も、よくこうしていたし」
「ふぅん……何を考えてたんです?」
凌介はあえて尋ねてみる。名畑修二という人が、どんなことを考えているのか知りたかったから。もしかしたら、何かの参考になるかもしれないと思って。
「……僕は昨日、淳也さんを殺した。そして今日もカツさんも殺した。昨日は、生まれて初めての感情を味わったよ。だが気づいたんだ。村のためには、常に前を向いてなくちゃならない。カツさん、それから淳也さんに美琴の死はもちろん悲しい。でも、僕らは村のため考えなくちゃいけない。例えば、今日は誰が殺されるのか、騎士は誰を守るのか、誰が真の占い師なのか。僕は清美を信じているから、こうして君に何かを話すのは嫌なんだけどね」
「そう……ですか。わかりました。呼び止めちゃってすみません」
「いやいや。構わないよ」
凌介は黙ってその背中を見送った。
◇
里奈は自室でひとり、夜空を見上げていた。ベッドを見ると、みのりが安らかな寝息を立てている。落ち込んでいるみのりを心配して、自分の家に泊まらせていたのだった。里奈は目一杯に窓を開け放ち、夜の空気を吸い込んだ。
「……いつまで続くんだろうね、お姉ちゃん。こんなの……こんなの嫌だよ。もしかしたら明日、あたしは目を覚まさないかもしれない。もしかしたら明日、みのりは目を覚まさないかもしれない。こんな、こんなことって――」
里奈は声を立てないように、ひっそりと涙を流した。それを昨日哲彦から借りたハンカチで拭うと、再び夜空を見上げる。ほのかに哲彦の匂いがした気がした。
「……でもきっと、あたしは幸せになれる。そんな気がするんだ、お姉ちゃん。あたしは何の能力もないただの人だけど、そんな予感がするの」
その瞬間、急な睡魔に襲われた里奈は倒れこむように布団に入った。
今夜もまた、村を濃い霧が包んだ。
~~まとめ~~
占 林川凌介 名畑修二○→前田哲彦○
柿原清美 有沢美琴○→境野里奈○
霊 鷹取勝正 有沢淳也○
有沢淳也
処 有沢淳也→鷹取勝正
犠 有沢美琴