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3日目

登場人物

柿原(かきはら)清美(きよみ):平輪高校物理教師

境野(さかいの)里奈(りな):平輪高校3年生

鷹取(たかとり)みのり:平輪高校3年生

名畑(なばた)修二(しゅうじ):小説家

名畑(なばた)継治(つぐはる):仁楼村村長

林川(はやしかわ)凌介(りょうすけ):平輪高校3年生

前田(まえだ)哲彦(てつひこ):平輪高校3年生

有沢(ありさわ)淳也(じゅんや):喫茶店「アリサワ」マスター【1日目処刑者】

有沢(ありさわ)美琴(みこと):喫茶店「アリサワ」店員【1日目犠牲者】

鷹取(たかとり)勝正(かつまさ):仁楼村駐在警察官【2日目処刑者】


相関図

挿絵(By みてみん)


~~まとめ~~

占 林川凌介 名畑修二○→前田哲彦○

  柿原清美 有沢美琴○→境野里奈○

霊 鷹取勝正        有沢淳也○

  有沢淳也


処  有沢淳也→鷹取勝正

犠  有沢美琴→

継「みんな、おはよう」

 村人たちは少しだけ「おや?」というような気持ちになったが、それを素直に喜んで良いのか分からなかった。というのも、空いている席は有沢夫婦と鷹取勝正のものだけだったのだ。

里「昨晩は誰も死んでない、のね」

 里奈はなかなか喋らない全員に代わり、あえてそれを口にした。すると横で哲彦が頷きながら言う。

哲「どうやら騎士の能力を授かった人間は、この7人の中にまだいるようだね」

修「そうだな、哲彦君。昨晩の時点で、騎士の可能性があるのは美琴くらいだったけどさ」

哲「それはそうですけど……騎士がいるって分かっただけでも良いじゃないですか」

み「みのりは早く先生と凌介の結果を知りたい……早く教えてよ……。こんな、こんなこと、早く終わらせたい」

 みのりは、明らかに昨日よりも元気がなかった。だが、昨日父に言われた『村の平和』という目的を目指している雰囲気は全員に十分伝わった。

清「私は修二を占ったわ。結果は人間だった。理由として、修二は何となく場を仕切りたがっている感じがあったから。確定で人間になればこの場を任せられるし、もし人狼なら怖かったの。それからもちろん本物の修二だとは信じていたけど、私の恋人が人間なのかどうかハッキリさせておきたかったから」

凌「ふぅん……あんたはそんな理由か」

 凌介は清美を冷ややかな目つきで一瞥すると、真面目な顔で話し出す。

凌「俺が昨日の時点で占っていなかったのは、里奈、みのり、村長、偽姉ちゃんの4人。だが俺から見て、まずみのりは人狼ではなさそう。カツさんとのやり取りからしてな。偽姉ちゃんも村のみんなを考えたら、まだ占うべきではない。ほぼほぼ人狼だって、わかってるし。そして里奈も村のための発言をしようとしている感じがしていた。村長はあまり発言も多くなかったから、正体を見ておきたかったんだ。そしたら――まさか村長が人狼に成り代わっていたなんてな」

 凌介は冷たい目で言い放つ。継治は一瞬唖然としたが、すぐに反論する。

継「ば、馬鹿なことを言うな! 私は……私は人間だ! 君が人狼だったのか、凌介君!」

凌「違う! 村長、あんたが人狼だったんだ!」

 占い師候補の林川凌介が告げた、名畑継治が人狼だという結果。村人たちは皆、黙りこくってしまった。凌介の占い結果が告げられてから下を向いたままだった修二が、覚悟を決めたように言う。

修「……父さん。きかせてもらうが、あんたは騎士か? だったら言った方が良い」

継「いや、私は残念ながら何の能力も授からなかった。ただの仁楼村村長、名畑継治だ」

 修二は頭を抱えて心底悩んでいるように見えた。何度か口を開きかけたが、言葉を発せない。すると不意に哲彦が声を上げた。

哲「じゃあ、考えたことを話させてもらいますよ修二さん」

 修二は頷きもしなかったが、哲彦は続ける。

哲「結論から言えば、オレは今日伯父さんに投票する」

 継治は驚いた顔を上げた。だが感情を抑え込むように奥歯を噛みしめると、哲彦を問い詰める。

継「なぜ……なぜなんだね哲彦君。なぜこの私に?」

 継治の冷たい声を聞いて、里奈は思わず哲彦の腕にしがみついた。

里「哲彦……」

哲「ごめんな、里奈。オレは――」

 里奈に優しい表情を向けると、すぐにキッとした顔で継治を向いた。

哲「伯父さんは、柿原先生から見ても人狼の可能性があるから。信じたくはないが、凌介が狂人で間違えて人狼に人狼だって言っている可能性もある」

継「だがそれはカツさんが人狼で、淳也さんが真の霊媒師でなければあり得んことだろう。君は昨日、カツさんを本物と見ていると言っていたではないか。その考えを君は曲げるのか?」

哲「はい。村のためなら、柔軟に考える必要がありますから。あなたを処刑すれば、凌介から見た時に人狼は柿原先生だけになる。それにもしカツさんが人狼だったなら、柿原先生は狂人で今日でこの悪夢から解放されるかもしれない!」

継「しかし……私から言えることは、そんなのは幻想だということだ。この名畑継治を殺したところで、村に平和が訪れるはずがない!」

哲「それにです、伯父さん。柿原先生から見ても、今の時点で人狼候補は凌介とオレとみのり、それに伯父さんだけ。カツさんが人狼で、凌介が狂人というパターンでも明日にはほぼ人狼を発見できる!」

継「し、しかし……」

み「ねぇ、村長さん。それじゃあ誰が人狼だと思ってるの?」

 哲彦の攻撃が止まると、今度はみのりが尋ねる。

継「そ、それは……まず、凌介君が人狼なのはほぼ確定だろう。霊媒師と名乗ったふたりは、本物と狂人だと思っているからな。そして予想通り清美さんが真の占い師。だから人狼候補は……みのりちゃんか哲彦君だ」

み「どっちだと思うの?」

 みのりはいつになく冷静な口調で言う。継治は少したじろいだようだったが、少し考えて答える。

継「今日の反応からして、私は哲彦君を疑っているよ。凌介君と協力して、私を陥れようとしているのではないかとね」

哲「ふん、そうやって他人に罪を着せたいわけですか。やっぱり伯父さんは本当に人狼なんじゃないか?」

継「違うんだ、私は本当に……! 修二、お前はどう思っているんだ」

 隣に座る父に強く言われ、修二はハッとした。

修「ぼ、僕は……」

 修二は隣に座る父、そして反対の隣に座る恋人を見比べ、続いて凌介の方を見た。修二は何かを決意したのかキリッと顔を引き締めて、こう言い切った。

修「僕は騎士の能力を授かっている」

 その言葉に村人たちは皆、息をのんだ。そしてそれに真っ先に反応したのは凌介だった。

凌「……ほぉん。それじゃ修二さん、昨夜は誰を守ったというんだ?」

修「清美さ。僕の愛する、柿原清美」

 清美は修二を不安げな顔で見上げる。

清「し、修二……でもそれって……」

修「……あぁ。だから相当悩んだ、悩みぬいた! でも、でもこれが僕の出した答えなんだ」

 「騎士」という能力の人は、連続で同じ人を守れない。里奈はそのことを思い出した。だから今晩、人狼は間違いなく殺せる柿原清美を襲うに違いない。ふたりの言っていることに、何か裏があるような感じがしたのはそのためだ。

修「だから清美! 僕は……君を生かせる可能性のある方法に賭ける」

清「どういうこと……?」

 清美が弱々しくきき返す。

修「君が狂人で、凌介君が真の占い師。つまり、カツさんが人狼で淳也さんが真の霊媒師。残りの人狼は……父さん。あなただということ」

継「修二……お前は、愚かな人間だよ。父が信じられないのか……」

修「あぁ。僕は、清美だけは失うわけにはいかない!」

継「考え直せ修二! そんなことをしたら……父と恋人を同時に失うことになる!」

修「駄目ですよ、人狼さん。僕は清美を失いたくないんだ。きっと、人狼がいなくなれば清美だって正気に戻ってくれる」

 修二は怪しげにフフフと笑った。恋人を明日守れないという事実は、彼の何かを壊してしまったのかもしれない、里奈はそう思った。

継「修二……!」

 継治はギリと奥歯を噛みしめる。伝えきれない思いを込めながら、何度も拳で机を叩き続けた。

 静かになってしまった集会場。皆、何を言えば良いのか見当もつかなかったのだ。しかしまだ、柱時計は鳴らない。すると清美が震える唇で言った。

清「……ねぇ、みんな。今日は誰に投票するつもりなの……? 私はきっと、もう生きられない。だから……今後のためにも何か話してみてくれない?」

 怯えながらも、なんとかしようとしてくれる清美。その意思に答えようと、みのりが少しだけ大きな声で言う。

み「みのりは、先生には悪いけど村長さん……。だって、先生から見て人狼の可能性があるのは凌介を除けば、みのり、哲彦、村長さんの3人。みのりは自分が人間だって知ってるし、哲彦も信じたい。だから……みのりは村長さんに投票する。凌介が本物の占い師なら、今日でこの悪夢は終わるだろうし……」

哲「オレもみのりと全く同じ意見。オレはあなたが人狼に成り代わられているように見える。いつもの伯父さんらしくないから」

継「そんなもの、こんな状況なら当たり前だろ哲彦君! 君は――君はそれで良いのか!」

哲「すみませんね、伯父さん。それに先生から見ても、あなたが人狼の可能性はある」

 哲彦に強く言われ、継治はひどく残念そうに顔を伏せた。

哲「それに凌介から見て、柿原先生は確実に狂人。つまり淳也さんを人間と言っているカツさんは偽物、すなわち人狼なんだ。だからオレはこう考えてる。人狼の片割れが処刑され、焦った人狼が真の占い師はどちらかわからないがけどとりあえず殺そうとした、ってね。だからオレは伯父さんに投票する」

 哲彦はいつになく淡々とした口調で継治を追い詰める。するとみのりも、小さい声で言う。

み「ちょっと哲彦の言い方はきつい気もするけど……やっぱり賛成。だって、言っていることは間違ってないし……。里奈、あなたはどう思ってるの?」

里「……あたしは凌介、あなたが怪しいと思うの」

 里奈は誰の眼も見ないように、自分の足元に向かって小声で言った。

凌「ふぅん……なんでだ?」

 凌介は目を細めて訳を尋ねる。

凌「まさか偽姉ちゃんの方が、自分に人間だって言ってるからじゃないだろうな? それで俺が偽物って言われちゃ堪らないよ」

里「うぅん。そんなことじゃないわ」

 里奈は不安な気持ちを抑えながら考えを話す。

里「カツさんや淳也さんの反応からして、霊媒師に人狼は紛れていないとあたしは思っているの。人狼は2匹しかいないのに、あんなに潔く自分を殺してほしいなんて言わないと思う。だからあたしは偽の占い師は人狼で凌介、あなただと思ってる」

 里奈が言い終わった直後、柱時計の音が鳴り響いた。




継「今日は、カツさんの隣のみのりちゃん。君からだ」

 みのりは暗い顔ながらも、しっかりとした目つきで継治を見ながら言った。

み「みのりは、やっぱり村長さん。さっきも言ったけど、凌介を信じたいから……。それに、もしかしたら今日でこの悪夢は終わるかもしれない。そんなささやかな望みに、みのりは賭ける」

継-1

里「あたしは、凌介に投票する。なんだか変な気がするんだよ、凌介あなたは。本当にあなたは凌介なの?」

継-1 凌-1

哲「……オレの番か。もちろん投票は表明通りに伯父さん」

継-2 凌-1

凌「俺はもちろん村長の皮を被った人狼さん、あなたに投票する。今日でこの悪夢が終わるかもと思うと、ワクワクしてるんだよ」

継-3 凌-1

清「……確かに確立的に考えれば、村長も人狼の可能性がある。村長さん、本当にあなたは人狼? でも違うとしたら私は――」

 清美は涙を湛えた瞳で哲彦とみのりの方を眺めた。

清「ごめんなさい、村長……」

継-4 凌-1

修「僕は父さん、あんたさ。いや、もう父さんじゃないのか。まあともかく、僕はあなたを処刑してこの惨劇を終わらせる。そして、正気に戻った清美と暮らすのさ……」

継-5 凌-1

継「まさか、こんなことになるとはな。先に言っておくが、この名畑継治の首に縄がかかったところで、今晩も霧がこの村を包む。だから修二、清美さん、それから里奈ちゃん。私は確実に信用できる君たちに、この村を託す。なんとしてでもこの村を救ってくれ。投票はおそらく人狼の凌介君、君だ」

継-5 凌-2


 継治は口をギュッと結びながら、ゆっくり席から立ち上がった。


 ◇


凌「何か言い残すことはあるのかい?」

継「……何もないさ。私は村長として、この村が救われることを心から願っているよ」

 継治はひどく寂しそうな顔を村民たちに向けると、階段を上って首に縄をかけた。



 ◇



 修二はシャツをしっかりと着直すと、隣でベッドに腰掛けながら服の乱れを整える清美を見た。彼女はひどく暗くて落ち込んだ表情だった。心の奥底で何かが自分を責めている、そんな気が修二はしていた。

「清美。何で今……だったんだ?」

 答えなんて知っているはずなのに、修二は問いかけた。清美はそんな彼に、必死に涙をこらえるようにジッと床を見つめながら答える。

「……だって今日、私は間違いなく死ぬ。だから最後にあなたと……」

「そんなこと言わないでくれよ!」

 大声で清美の言葉を遮り、修二は彼女の顔を自分の方に向かせた。顔を合わせた瞬間、ふたりの瞳からは涙がこぼれ出す。

「僕だって……僕だって信じていたいんだ! 君とずっと過ごせるって! これが、これが君と過ごせる最後の夜だなんて……考えたくもないんだ!」

「……ごめんなさい修二。でも……」

 修二は清美に抱きつくと、唇を重ねて強引に言葉を止めた。


 ◇


 凌介は何度も鳴らされるインターフォンに舌打ちしながら、ドアを開けた。そこにはすまし顔で立つ、里奈の姿があった。

「なんだ、里奈か。てっきり修二さんか、偽姉ちゃんあたりかと思ってたよ。要件は何だい?」

「教えてほしいのよ、あなたの気持ちを」

 里奈は微笑みを浮かべながら問いかける。

「どういうことだ? 今晩はもう人狼が現れないだろうから、ホッとした気持ちだよ」

「ふぅん、強がっちゃって。明日は処刑されるに違いないのに」

「そんなことねぇよ。林川凌介は、真の占い師だからさ」

「あら、そう言い張るのね」

 ポニーテールの髪を後ろにやると、里奈は顔を近づけて大声で言った。

「凌介を――なんで凌介を殺したのよ、人狼!」

 すごい剣幕で詰め寄る里奈の姿に、思わず凌介は1歩下がった。何か言い返す言葉を探していると、里奈はさらに続ける。

「凌介は……すっごく心優しい人だったのよ! ちょっとやんちゃなトコもあったけど、良い人だったの!」

「……なんだよ。その”俺”はここにいるだろ」

 凌介は、わざと”俺”と強調しながら言い返した。すると里奈は呆れたように笑う。

「ふん、そうよね。”あなた”はここにいるわよね。まあ明日また会いましょ」

 里奈はクルリと後ろを向くと、ズンズンと遠ざかっていく。そんな彼女を見ながら、凌介は誰にも聞こえないように呟いた。

「……境野さん。目先の俺に気を取られて、もっと大事なことに気づいてないんじゃないか? オレのことなんかよりもっと重大で、残酷な事実に」

 凌介はピシャリと大きな音を立てながら、ドアを閉めた。


 ◇


「みのり」

 哲彦は、ひとり交番のパイプ椅子に腰かけるみのりに声をかけた。

「どうしたの哲彦?」

 キシリとパイプ椅子の音を立てながら、みのりはわずかに腰を浮かせた。彼女の顔はひどく疲れているように見えた。

「いや……本当に伯父さんを処刑して良かったのかってさ」

「そんなの、みのりも分かんない。でももし、凌介が本当の占い師なら今日で霧は晴れる。みのりはそれを信じたい」

「そうか。そう、だよな」

 哲彦はみのりの隣の椅子に座る。特に何か話したいわけではないが、何となく。黙って色々と考えていると、みのりが哲彦の顔を覗き込んでいた。

「……なんでそんなにオレの顔をジロジロ見るんだ?」

「別に――理由なんてないよ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安なの」

 彼女は複雑な微笑みを浮かべて、その場から立ち去った。

 哲彦はただ、彼女の背中を見送るしかなかった。


 ◇


「私は――――を、占います」

 清美は天に向かって呟いた。すると頭には、その人物の正体が浮かび上がってきた。

「……そうなのね。あの子は、もうあの子じゃなかったってわけ――」

 消え入りそうな声でそう言った清美を、猛烈な睡魔が襲う。よろよろとベッドに倒れながらも、清美は部屋のドアを凝視していた。

 そして眠りに落ちそうになったその瞬間。彼女は確かに見た。自分の教え子ふたりが、満面の笑みを浮かべながら部屋に入ってきたのを。


 そう、よね……。


 そんなことを思いながら、柿原清美は眠ってしまった。

~~まとめ~~

占 林川凌介 名畑修二○→前田哲彦○→名畑継治●

  柿原清美 有沢美琴○→境野里奈○→名畑修二○

霊 鷹取勝正        有沢淳也○

  有沢淳也

騎 名畑修二 ?→柿原清美


処  有沢淳也→鷹取勝正→名畑継治

犠  有沢美琴→なし

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