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夜時間

〈議論のずっと前〉

「どうだ? うまくいったか?」

「もちろんよ、父さん。それにしてもこんなに美味しいものだとはね!」

「あぁ。オレも実際に喰うのは初めてだったが……これから毎日これを喰えると思うと楽しみだ。だがあんまり浮かれすぎで、本当の目的を忘れるんじゃないぞ」

「分かってるわよ。『境野』の家の女の子を苦しませる。そしてこの村を滅ぼさせる、でしょう?」

「そうだ。ところでお前はなんていう奴に化けたんだ? 随分と可愛らしい女の子じゃないか」

「ふふん、でしょう? アタシ、一目惚れしちゃったわ。だからこの子がひとりになるのをわざわざ待って、襲ったんだから。絶対に美味しいって思ったしね。この子の名前は『鷹取みのり』。平輪高校3年生で、村の駐在警察官のひとり娘。それに記憶を覗いてみるに、『境野里奈』って子と仲が良いみたい。大親友って言えるほどにね」

「ほぉ、そりゃ丁度良いな。オレが襲ったのは『林川凌介』って奴だ。村で宿を経営している夫婦の息子。目に入った男を適当に襲っただけだが、『境野里奈』って名前が記憶に入ってて仲もかなり良さそうだ。どうやら高校3年生で、『鷹取みのり』とも友達らしいな」

「父さんも良い人を襲ったわね」

「あぁ。こりゃあ……なかなか楽しくなりそうだ」




〈議論前日〉


【占い師】

 どうやら私、柿原清美は「占い師」という能力を授かったみたい。この村に紛れ込んだ「人狼」を倒すための、重要な役割らしい。そして今日から誰かひとりを占えるけど、とりあえず今日は美琴。幼馴染の有沢美琴を占う。恋人の修二でも良いけど、まずは最近だいぶ参っている彼女を占いたい。



【霊媒師】

 私、鷹取勝正は能力を授かった。殺した人物が人間か否かを知ることができる「霊媒師」。妻を亡くした私がなんとしても守らなくてはならないのはみのりだ。直接的には守ることはできないと思うが……必ず、みのりを守ってみせる。人狼なんかに殺させはしない。



【騎士】

 僕は神から能力を授かったみたいだ。しかも「騎士」だってさ。人狼の襲撃から誰かひとりを守ることができる。絶対に村を守ってみせるさ、この名畑修二がな。



【狂人】

 ……ん? 人狼が……村にいるんだよな。だったら俺は人狼様のために、人狼様が村を滅ぼすための手助けをしなくてはならない。そうだ、「霊媒師」という能力を持っているふりをしよう。人狼様はきっと「占い師」だと嘘をつく。だったら俺がそれを邪魔するわけにいかない。必ずや、人狼様の手に勝利を……! たとえこの命が果てようとも、有沢淳也は人狼様の勝利を願っております……!



【人狼】

「さて、ここからが問題だ。神が無力な人間どものために能力を与える」

「そうね、父さん。アタシたちは、一刻も早くそいつらを殺さなくちゃならない」

「いや、そうとも限らんぞ。オレは『占い師』の能力を持っている、そういう嘘をつくつもりなんだ」

「なるほど……それでもうひとりの占い師を殺しちゃったら、父さんが疑われちゃうってわけね」

「あぁ。だからそこは臨機応変に動くしかない。ここまで来れば、もう一息なんだ。絶対にあの女を、苦しませてやるんだ。そして村を滅ぼす!」




〈1日目夜〉 処刑者:有沢淳也


【占い師】

 まさか凌介が人狼か狂人だなんて……。信じたくないけど……覚悟を決めなくちゃ。凌介を占いたい気持ちは山々だけど、村のみんなからみたらそれはあまり良いことではない。だから今日は、里奈ちゃんを占う。今日の投票で、ただひとり淳也さんにもカツさんにも投票しなかった。それが元で明日彼女が疑われるのは嫌だから。それに私はまだ他の誰が怪しいとかいうのは分からない。強いて言うなら修二と哲彦君、ふたりは少しチェックする必要がありそうだけど。



【霊媒師】

 人間、か。つまり淳也君は狂人。しかし、私がこう言ったところで村には疑問が残るだろう。私は真の霊媒師なのかと。……みのりは、みのりだけは死なせない。たとえ私が死のうとも、みのりだけは必ず守る。みのりのために――私は死ぬ。子供のために親が命を懸けるのは当たり前のことだ!



【騎士】

 今日は誰が襲われる? 有力候補は人間だと言われた美琴さんに僕、それから能力者だと名乗って、今も生きている清美、凌介君、カツさん。確率は5分の1。僕自身は守れないから、実質4分の1。おそらく自称霊媒師のカツさんは狙われないと思うし、村にとって困るのは能力者が死ぬこと。だから清美か凌介君。もちろん信じたいのは清美だ。でも明日の方が占い師が襲撃される可能性は高いだろうから、明日のために清美を守れるチャンスは残しておきたい。だから今日守るのは、林川凌介君。



【人狼】

「……さて、食事の時間だ」

「そうね。今日は誰を食べようかしら? 能力者と名乗っている鷹取か柿原を襲うのは危険よね」

「あぁ、昨日言った通りにな。それに『騎士』の野郎が守ってる可能性もある」

「それじゃあ真の占い師が人間だって言ってる、美琴って女はどう?」

「オレもそいつが良いんじゃないかって思ってたんだ。他の人ヤツを襲うくらいなら、その女が良い」

「ところで父さん、明日の『占い師』としての結果はどうするの?」

「哲彦って男に、人間って言ってみるよ。どうやら”俺”とは親友らしいから、もっともらしい理由をつけてな。それにあの男は場を仕切ろうとしている感じがあるから、もしオレが偽物だってバレた時にはあいつを人狼に仕立て上げられる」

「そんなこと言わないでよ父さん。ふたりでこの村を滅ぼしてやるのよ!」

「あぁ……」




〈2日目夜〉 犠牲者:有沢美琴  処刑者:鷹取勝正


【占い師】

 カツさん……ごめんなさい。必ず私が村に平和をもたらせてみせますから、見ていてください。今日占いたいのは……哲彦君か修二。ふたりは、場を仕切ろうとしている感じがあるから。もし人狼だったらとっても怖い。でもどっちかを占うとしたら修二。村のための能力だっていうのは分かってるけど、恋人の潔白を証明してあげたい。それにホンモノの修二なら、村のみんなから見てもそれを確定できる。だから今夜は、名畑修二を占う。



【騎士】

 うぅん……カツさんが自ら死ににいくとは。言い方は悪いが、効率的に人間以外を殺せる方法だからな。これで淳也さんかカツさんで、少なくともひとりの人間じゃないヤツを殺せたことになる。今日はおそらく占い師を襲撃しに来るだろう。ここで昨日、清美を守らなかったのが生きてくる。清美はきっと真の占い師。だったら人狼が今日襲うのは清美に違いない。必ず守って村に貢献してやるんだ。今日守るのは、柿原清美。



【人狼】

「父さん、今日はどうするの?」

「占い師を襲う。柿原清美を喰ってやる」

「大丈夫かしら? 騎士が守ってる可能性も……」

「いや、今日に襲うしかない。今日まで誰からも占われていないのは、お前と継治。お前が占われる可能性が高い。オレは明日、継治に人狼だという嘘を言うが、柿原がお前を人狼だと言って村人たちがそれを信じちまったら勝ちがなくなる。だったら、今日柿原を襲っておくしかない」

「でも継治や、哲彦や修二を占う可能性もあるわ!」

「だがお前が占われやすい位置にあることを踏まえると、やはり最も良いのは柿原だ。そして明日は俺に投票するんだ」

「……どういうことよ!」

「良いか? 明日は村人から見て、本物かどうか分からない占い師を残す選択肢はない。オレを殺して夜には誰かをお前が襲って、4人で最後の日を迎える、そんな展開にするべきなんだ。だから……分かってくれるな?」

「でも――でも父さん!」

「ダメだ。それにオレは”林川凌介”。お前の父さんは鷹取勝正だ。だから必ず、オレの遺志を継いでくれ。あの女をできるだけ苦しませてやって、村を滅ぼしてやるんだ!」

「……分かった。分かったわよ。”みのり”、頑張るわね」




〈3日目夜〉 犠牲者:なし(柿原清美)  処刑者:名畑継治


【占い師】

 終わるわけないんだよ、修二。この惨劇はまだ終わらない。この私が真の占い師だから。そして今夜、おそらく私は死ぬ。楽しかったよ、修二。最後の日に――楽しかった。一応占いはできるから、しておく。私が怪しんでいるのは正直なところ、みのりちゃん。なんというか勘に近いものなんだけど……本当に彼女は彼女なのかしら? あんなに父を思う彼女を疑っている自分が怖いけど……私は鷹取みのりを占います。



【騎士】

 頼む……今日で、今日でこの惨劇が終わってほしい! だがもし、万が一続くのなら、清美を――僕の愛する彼女を守りたい! でも、それはできない……もう、誰だって良いや。今日守るのは、林川凌介君。それで良いや。



【人狼】

「……父さん?」

「だから言っているだろう。俺は”林川凌介”だと」

「明日は――明日はどうするのよ、父さん!」

「……お前が占われることがなくて、本当に良かったよ。まさか『騎士』の野郎を確実にホンモノだと示してくれるとはな。今日こそ柿原を襲う。そして明日はオレを処刑し、修二を殺せ。そして明後日、前田哲彦を殺すんだ!」

「父さん……」

「覚悟はしていたんだろ? だったら大丈夫だ。それによく考えてみろ、明後日の状況を。お前に前田哲彦、それに境野里奈の3人」

「……ホントだ」

「どうやら、神は我々の味方のようだ。あの女を最後の最後まで、極限まで苦しめてやれるんだからな。そうなるんなら、オレは本望だよ」

「うん……分かった。アタシ、必ず父さんの遺志を継いでみせる」

「頼んだぞ」




〈4日目夜〉 犠牲者:柿原清美  処刑者:林川凌介


【騎士】

 今日、僕は間違いなく死ぬ。清美は昨日、こんな心持ちだったのか。随分と不安なものだね、清美。でもきっとすぐにこんなことすら考えられなくなるのか……怖いよ、すごく。死を目前にして思うけど、僕は生への執着が大きいみたいなんだよ。そういえば今日も一応この能力は使えるのか。そうだな……里奈ちゃんかな。最後の僕からの応援さ。



【人狼】

 父さん……必ず、村を滅ぼしてやるわ。見ていてね、父さん。必ずあの女を喰ってやるんだから!



〈最終日〉 犠牲者:名畑修二  処刑者:前田哲彦


【前田哲彦】

 里奈は、オレの愛した里奈は、涙を目にためながらオレの首にロープを巻き付けた。

 その温かな手に目一杯の力を籠めながら、オレを、前田哲彦を殺そうとしている。

 あぁ……もう1度その彼女の温かな手を握りたかった。

 里奈と一緒の時間をもっと過ごしたかった。もっとずっとずっと――。

 次第に薄れゆく意識の中、オレはヤツの顔を見た。涙目の里奈の後ろで、勝ち誇ったかのようにニヤニヤ笑う女の姿があった。何度殺しても殺したりないほど、嫌みったらしい馬鹿にするような笑みだった。全く”鷹取みのり”の面影など残っていない、最低な笑い方だ。

 この怒り、憤り、嘆き、憎しみ、哀しみ、その全部をオレはヤツにぶつけてやりたかった。しかし、オレにそんな時間は残されていない。

ただオレは絞め殺されながら、目一杯の愛が籠った気持ちを心の中で伝えるくらいしかできなかった。まさにオレの命を絶とうとしている彼女への愛情を。

 里奈、愛しているよ。ずっと、ずっと愛しているよ。



【人狼】

 やった……やったわよ、父さん。この世のものとは思えないほど美味しかったわよ、あの女。それにあの絶望に満ちた顔、最高だったわ。あんなに苦しませてやれるなんて、神様に感謝しなくちゃね。本当に楽しかったわ。この時のためにアタシの人生はあったんだなぁって思えるわ。

 さて、アタシはこれから準備をしなくちゃ。100年後、再びこの地は惨劇の舞台になる。そのための準備を。あぁ……楽しみで堪らないわ。再びここに濃い霧が流れる日がね。

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