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暴君忠長に転生したので、兄上のために日本列島をメンテします 〜SFチートのはずが、田んぼと水路と寺社ノードの保守係なんですが〜  作者: パラレル・ゲーマー
第二部・広がる勘違い編

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第10話 草だけをいじめる道具と、神様印のスマホ

 天海僧正の一件から数日。


 俺は、ただただ疲れ果てていた。


 榎戸村の祠は幕府の手によって立派に修繕され、俺は表向き「水守り様の御心を伝える御使い」という、限りなく黒に近いグレーなポジションに収まってしまった。


 城内ですれ違う女中や若い武士たちが、俺に向かって隠しきれない畏敬の念を込めた目で一礼していくのが、針のむしろのように辛い。


「もう嫌だ……。水神も、生き仏も、御使いも嫌だ……。俺はただの、平穏に生きたいだけの六歳児だぞ……」


 布団の中で、誰も聞いていないのに必死に自己暗示をかける。


「こういう時は、原点回帰だ。宗教も政治も忘れて、泥臭くて地味な、普通の農業改善に逃げよう」


 俺がのろのろと起き上がったところに、小栗半兵衛が待ってましたとばかりに帳面を開いて現れた。


「若君。お待ちしておりました。では、田の雑草の件にございますな」


「……普通の農業改善って、最初から地獄みたいな重労働なんだが」


 俺はため息をつきながら、泥にまみれる覚悟を決めた。


     *


 御料地へ赴くと、正条植えにした区画の稲は、初夏の日差しを浴びて青々と力強く成長していた。


 だが、それは同時に「草」の成長をも意味している。


 前回草取りをしてからそれほど経っていないにもかかわらず、苗の列と列の間に空いた隙間には、すでに新たな青草がびっしりと顔を出していた。


(稲が育つ環境ってのは、当然草にとっても天国なんだよな……)


 俺は畔に立ち、泥の中で腰を曲げる百姓たちの姿をじっと見つめた。


 現代の農業なら、ここで除草剤や農薬を撒いて一網打尽にするところだろう。


 だが、俺はその考えを数秒で自分の頭の中から叩き出した。


(駄目だ。農薬の成分なんて知らないし、適正濃度なんて分かるわけがない。間違えれば稲まで枯らすし、最悪の場合、水路を通じて下流の村や川の魚まで全滅させる劇薬になりかねない。水札の制度でようやく水利を整えたばかりなのに、そこに毒を流すなんて完全に自殺行為だ)


 江戸初期の技術力で、安全な農薬を合成・管理できる気など全くしない。


「農薬は、今の俺には早すぎる。というか危険すぎる」


 俺がポツリとこぼすと、横にいた与平が怪訝な顔をした。


「のうやく……とは?」


「草や虫だけを弱らせる、水に溶かす薬……のようなものにしたかったが、無理だ」


 与平は、その言葉の意味を理解すると、顔を引きつらせた。


「水に混ざる薬を田に撒くなど、恐ろしゅうございますな」


「……ですよね」


     *


「若君様。田の中に生える草は、確かに我ら百姓の敵にございます」


 与平は、泥の中から引き抜いた数種類の草を畔に並べながら言った。


「されど、草そのものが全て無用な悪というわけではございませぬ」


「悪ではない?」


「はい。例えばこの若い草は、灰汁を抜いて煮れば人の口に入ります。こちらの草は、牛や馬の良き餌になります。そして残りの固い草も、一箇所に積んでしっかりと腐らせれば、来年の田を肥やす良き肥やしに生まれ変わりまする」


 与平はさらに、足元の畦を指差した。


「畦に生える草も、根を張ることで土を押さえ、雨で畦が崩れるのを防ぐ役目を果たしております。草を全て根絶やしにすれば、それはそれで村の暮らしの一部が立ち行かなくなりまする」


 俺は目から鱗が落ちる思いだった。


「雑草は悪ではない。田の稲の隣、養分を奪う場所に生えているから困るだけか」


「左様にございます。場所を違えれば、草も役に立つ資源に変わりまする」


(草を全滅させるのではなく、稲の邪魔になる場所から退かす。そして抜いた草も、食料や飼料、肥料として再利用する。敵を殺すのではなく、資源に変換する。これが、江戸時代の持続可能な農業の正解か)


     *


「よし。ならば、草を楽に退かすための道具を作ろう」


 俺は、前回の草取りの時にうっすらと思い描いていた「田車」のような道具を形にするため、井戸掘りで世話になった職人の源七を呼び寄せた。


「列と列の間だけを真っ直ぐに押して、泥の表面をかき混ぜる。草の根を浮かせるが、稲は決して倒さない。腰を曲げずとも、押すだけで動く、小さな車のようなものが欲しい」


 俺の説明を聞いた源七は、腕を組んで天を仰いだ。


「若君様。井戸の次は、草と喧嘩する車でございますか」


「草だけをいじめる道具だ。それ以上でも以下でもない」


 横で半兵衛が、嬉々として帳面に『草いじめ具』と書き込もうとした。


「半兵衛、その悪役みたいな名前はやめろ!」


 数日後。


 源七と木工の職人が、図面を元に試作一号機を組み上げてきた。


 丸太を削って作った車輪に、短い木の歯が無数に突き出ている。


 柄が長く、立ったまま押せる構造だ。


「よし、試してみろ!」


 だが、結果は惨憺たるものだった。


 頑丈さを求めて太い木を使ったため、重すぎて泥に深く沈み込んでしまう。


 押すのに大人二人がかりの力が必要で、沈んだ歯が苗の根元まで深くえぐり取ってしまった。


 泥だらけになって息を上げる百姓たちを見て、与平が冷静に言い放った。


「若君様。これは草をいじめる前に、人と稲を激しくいじめておりまする」


「……はい。ごもっともです」


 半兵衛が、淡々と筆を走らせる。


「一号機、重すぎ。人足負担大。苗損傷あり……と」


「半兵衛、そこまで正直に書かなくても……いや、書け。失敗の記録こそが大事だ」


     *


 数日後、改良された試作二号機が登場した。


 今度は極力軽くするため、軸や歯の多くを竹で代用し、木材も軽いものを選んだ。


 確かに押しやすくはなった。


 一人でもすいすいと泥の中を進む。


 だが、今度は強度が足りなかった。


「バキッ」という音とともに竹の歯が折れ、泥が車輪の間に詰まって回らなくなる。


 雑草のしぶとい根を浮かせきれず、少し力を入れるとあっという間に軸が歪んでしまった。


「軽くすりゃいいってもんでもねえですな」


 源七が、壊れた二号機を前に渋い顔をする。


「現場は厳しい……。やはり、木と竹だけでは限界があるか」


「草も、生き残るために必死ですからな。なかなかしぶといものにございます」と与平。


 半兵衛の容赦ない記録が続く。


「二号機、軽量なれど耐久不足……と」


 俺は腕を組んで考え込んだ。


(泥の抵抗を減らしつつ、強度を保ち、雑草の根を的確に切る。……刃先だけでも、鉄にしたい)


 俺は源七に提案した。


「源七。この歯の先、あるいは車輪の刃の部分に、薄い鉄を貼れぬか?」


 その瞬間、源七が「げっ」というように目を剥いた。


「て、鉄でございますか」


 そこに、源七が部品の相談のために連れてきていた鍛冶職人の甚五郎が、慌てて前に進み出た。


「若君様! 鍬先や鎌ならともかく、草取りの道具の歯にふんだんに鉄を打ちつけるなど、とんでもないことでございます! それでは値が張りすぎて、我ら百姓や下級の職人には到底手が届きませぬ!」


「そんなに、鉄は高いのか?」


 与平が、諭すように言った。


「若君様。鉄は、水のように地から湧き出てくるわけではございませぬ。山と、炭と、職人の血のにじむような手間で出来ておりまする」


「砂鉄を集め、山から木を切り出して何日もかけて炭を焼き、火を守り、職人が三日三晩眠らずに世話をして、ようやくひと塊の鉄が生まれまする。その鉄も、道具に使える良きものばかりではありませぬ」


 甚五郎の言葉に、俺の記憶の奥底にあった「現代知識」の断片が、ざっくりと蘇ってきた。


(たたら製鉄。砂鉄。木炭。……そうだ、日本の伝統的製鉄は、異常なまでの木炭を消費する。鉄を安く大量に作ろうとすれば、たちまち近隣の山が禿山になる。高炉とか反射炉とか、鋳鉄と鋼の違いとか、何となく言葉だけは知ってる。知ってるけど……具体的にどうやって作るのか、温度管理をどうするのか、全く分からない!)


 一人の現代人の知識量など、たかが知れている。


 検索エンジンがなければ、ただの「単語を知っているだけの人間」でしかないのだ。


「現代知識チート……検索機能なしだと、弱すぎるだろ!」


 俺は頭を抱えた。


「草取り道具にちょっと鉄の歯を付けたいだけなのに、なんで山林管理と製鉄の産業革命問題に直結するんだよ……」


 俺は思わず、空に向かって本気でぼやいた。


「スマホが欲しい……。現代知識チートって、ネットの検索があって初めて成立するんだよ! 高炉の作り方とか、たたらの構造とか、炭焼き窯の効率的な形とか、ググらせてくれよ! ……いや、仮にスマホがあっても、この時代じゃ圏外か。せめてオフラインで読めるWikipedia……。KAMI様、マジで検索機能ください……」


 俺のブツブツとした呟きに、周囲の人間は完全に意味不明という顔をしている。


「すまほ、とは?」と半兵衛。


「失われた未来の神器だ」


「……また神具でございますか」と与平が呆れたように言う。


「違う!」


 その時だった。


 俺の目の前の空間が、ぐにゃりと歪んだ。


     *


「やっほー、検索難民くん」


 黒髪ゴスロリのKAMI様が、今回はなぜかみたらし団子を串に刺したまま頬張りながら、宙に浮いて登場した。


「出たな、元凶」


「元凶呼ばわりとは失礼ね。せっかく、あんたが泣いて欲しがってた便利アイテムを持ってきてあげたのに」


「便利アイテム?」


 俺が問い返すと、KAMI様は団子の串をくわえたまま、懐から黒い薄板のようなものをポンと投げ渡してきた。


 手のひらに収まるサイズの、滑らかな漆黒の板。


(ス、スマホ……!?)


 現代のスマートフォンと全く同じ形状をしたそれを受け取り、俺は手が震えた。


 だが、周囲の半兵衛たちから見れば、それはただの黒曜石の札か、奇妙な黒い鏡のように見えているらしい。


「はい、管理者候補用・現場端末」


 KAMI様は団子を飲み込んで言った。


「あんたがスマホスマホって空に向かってうるさいし、そろそろこっちも電話機能を解禁したかったから、特別に渡しておくわ。地図も必要でしょ? ノードの反応範囲が江戸周辺に広がってきたし、あんた一人で管理するには、最低限のUIがないと面倒だからね」


「えっ、そんな気軽に!?」


「だって、あんたが一人でブツブツ言いながら地面に木の枝で設計図とか書いてるの、天界から見てる方も結構もどかしいのよ。端末があった方が効率いいじゃない」


「効率のために、江戸時代へスマホを投げ込むな!」


「ロマンあるでしょ?」


 KAMI様は悪びれることなく、空中でふわりと身を翻した。


「一応言っておくけど、万能じゃないわよ。現代のインターネットには繋がらない。YouTubeもSNSもないわ。検索できるのは、あんた自身の記憶の補助と、ノードに蓄積された断片データ、そして私が許可した『安全フィルター』を通した技術情報だけよ」


「安全フィルター?」


「そう。高炉の完全な設計図とか、近代的な製鉄技術とかを検索しても『危険・産業基盤不足・非推奨』って弾かれるわ。あんたに全部の知識をポーンと渡したら、十年で関東の山を全部燃やし尽くして産業革命しようとするでしょ」


「……しない。たぶん」


「その『たぶん』が駄目なのよ。人間は欲深いんだから」


 KAMI様は、団子の串をくるくると指先で回しながら続けた。


「それと、今まであんたの視界に勝手に出ていた青白い表示は、別に消えないわよ」


「消えないのか」


「消えないわ。あれは現地ノードからの自動警告とか、緊急通知みたいなもの。水脈のハイライト、祠のログ、危険箇所の赤表示、そういう“見落としたら困る情報”が勝手に飛んでくる仕組みね」


「勝手に仕事が飛んでくる仕組み……」


「こっちの端末は、あんたが自分から地図を開いたり、過去ログを確認したり、検索したり、通話したりするための操作盤よ。勝手に見えるのがAR。自分で調べに行くのが端末。分かりやすいでしょ?」


「つまり、勝手に仕事を投げてくるARと、自分から仕事を探しに行く端末が、両方あるわけか」


「そうね」


「最悪では?」


「便利でしょ?」


「便利と最悪は両立するんだよ!」


 俺が黒い端末を握りしめて震えていると、KAMI様はさらに釘を刺すように言った。


「あと、電話機能についても勘違いしないことね。誰にでも渡せるものじゃないわよ」


「え、そうなのか?」


「当然でしょ。江戸時代に一般電話網なんて入れたら、社会が通信速度の差でバグるわよ。これは管理者候補と、あんたが本当に繋ぐべき相手だけの秘密回線。選ばれし者用の通話札、とでも思いなさい」


「選ばれし者用……」


「まずはKAMI、江戸城地下環境制御ノード、それから竹千代くらいね。あんた、何かあるたびに兄上兄上って言ってるじゃない。むしろ登録しない方が非効率よ」


「効率で兄上に神具を持たせるな!」


「でも、いずれ必要になるわよ。水路も、祠も、ノードも、江戸城から離れた場所で異常が起きるんだから」


 俺は言い返せず、ぐぬぬと唸った。


 確かに、毎回泥田から城へ戻って報告するのは非効率極まりない。


 だが、だからといって、江戸初期の徳川家に電話めいた神具を持ち込むのは、胃が痛すぎる。


「端末は、あくまで管理者候補用。通話札は、必要最低限の選ばれし相手だけ。一般普及はなし。これでいいのか?」


「そういうこと。今のあんたが扱うべきは通信革命じゃなくて、日本列島のメンテナンスよ」


「それでも十分重いんだが?」


「知らんがな」


 俺は恐る恐る、黒い画面に指を触れた。


 パッと画面が明るくなり、シンプルなアイコンが並ぶ。


【地図】【ログ】【検索】【通話】【ノード警告】【記録】


 俺は真っ先に【検索】をタップし、「たたら製鉄」「鉄農具」「高炉」と打ち込んでみた。


 瞬時に画面に文字が表示される。


『たたら製鉄:砂鉄と木炭を原料とする伝統的製鉄法』


『警告:大量の木炭を必要とする。現在の山林資源回復速度では、大規模化は負荷大』


『高炉建設:現時点の産業・運搬基盤では非推奨』


『推奨:既存の鍛冶効率改善、炭焼き窯の温度管理最適化、鉄使用箇所の限定』


「……答えが、めちゃくちゃ堅実すぎる」


「当たり前でしょ。あんたが今やるべきなのは、高炉建設で鉄を大量生産することじゃなくて、目の前の田車の歯をどうやって壊れにくくするかよ」


 KAMI様はあくびをしながら言った。


 だが、それでも、情報が「文字として引き出せる」という事実だけで、俺の現代人としての精神的な安心感は劇的に回復した。


「めちゃくちゃ便利じゃん……!」


 俺が黒い板を見つめてニヤニヤしていると、半兵衛が恐る恐る声をかけてきた。


「若君……それは、もしや……神具にございますか?」


「違う。これは管理端末……いや、未来の帳面だ」


「み、未来の帳面……!」


「やはり神具ではございませぬか!」と与平。


「だから違う!」


 KAMI様の姿は彼らには見えていないらしく、俺が空中の何もない空間と喋りながら、黒い板を撫で回しているようにしか見えていないようだ。


(やばい、また変な誤解が生まれる。これは隠し持つ方がかえって危険だ。兄上には絶対に報告して、共有しておこう)


 俺は心に固く誓った。


     *


 端末で検索した「木材の応力分散」や「泥抜けの構造」の断片的なヒントを元に、三号機の制作が始まった。


 歯は短くし、泥が抜けるように木部に適切な隙間を設ける。


 幅は、正条植えの列の幅にぴったりと合わせる。


 そして、最も摩耗の激しい軸の部分と、土をえぐる歯の先端だけに、小さな鉄釘や薄い鉄輪を打ち込んで補強した。


「なるほど、これなら鉄はほんの少しで済みますな」


 源七が感心したように言う。


「これならば、鍬先を一枚鍛えるよりも、はるかに安うございましょう」と甚五郎も太鼓判を押した。


「これなら、我ら百姓にも手が届くやもしれませぬ」


 完成した三号機「草祓い車」――半兵衛と与平の強い要望により、この縁起の良い名前に決定された――を、田んぼに投入する。


 結果は、劇的だった。


 泥に沈みすぎず、軽く押すだけで水面下の小さな草の根を浮かせ、苗を傷つけることなくスイスイと進む。


 半兵衛が興奮して叫んだ。


「若君! 草取りの刻が、さらに大幅に縮まっております! 手で抜くよりも、はるかに早うございます!」


「よし! 大成功だ!」


「ただし……」と半兵衛が付け加える。


「正条に植えられた列間に合わせた幅ゆえ、従来のように乱雑に植えられた田では、全く使い物になりませぬな」


「つまり、正条植えとこの田車は、セットで運用して初めて真価を発揮するということだ」


 俺の言葉に、与平が深く頷いた。


 浮かせた草は、そのまま泥に沈めればやがて腐って肥やしになる。


 大きく育ちすぎた草は手で抜き、食える草と、家畜の餌になる草、堆肥にする草に仕分ける。


「雑草を殺すのではなく、退かして使う。これが正解だな」


 端末が、ブッと震えた。


『除草工程改善を確認』


『有機物循環ルート候補を検出』


『推奨:堆肥化試験』


「……また新タスクが増えたぞ」


 俺はため息をつきつつも、確かな達成感を感じていた。


「よし。今回は普通の、実用的な農具改善回だった。水も出してないし、神仏要素もゼロだ!」


 俺が胸を張った直後。


「水神様が……我らに、草を祓う神器を授けてくださった……」


 村人たちが、草祓い車に向かって手を合わせ始めた。


「違う! これは源七と甚五郎と百姓たちの知恵と努力の結晶だ!」


 俺が叫ぶ横で、見えないKAMI様が腹を抱えて笑い転げていた。


「あはははは! 草祓い車、いいじゃない! 神話の武具っぽくて最高よ!」


「お前が言うと、余計に縁起が悪いんだよ!」


     *


 その夜。


 俺は布団の中で、端末の画面を光らせていた。


 ふと、【通話】というアイコンが気になり、タップしてみる。


『通話機能:試験解放』


『登録先:KAMI』


『登録先:江戸城地下環境制御ノード』


『未登録:竹千代』


「……竹千代兄上が、未登録?」


 俺が首を傾げた瞬間、画面に着信の表示が出た。


『KAMI様』からの着信。


「……本当に電話かよ!」


 恐る恐るタップして耳に当てると、クリアな声が響いた。


『やっほー。ちゃんと聞こえる?』


「聞こえる! クリアすぎて怖いくらい聞こえるぞ!」


『よしよし。次は、兄上との緊急連絡用の登録も考えなさいな。後で通話用の木札か子機みたいなのを作ってあげるから。あんた、いちいち泥田から城まで報告に戻るの、非効率でしょ』


「いや、電話という概念そのものを兄上に持ち込むのが怖すぎるんだが」


『一般普及じゃないって言ったでしょ。選ばれし者だけの秘密回線よ。通話札は、徳川の中でも本当に必要な相手だけ』


「その“選ばれし者”という言い方が、すでに嫌な予感しかしない」


『水神様の御札で遠くの声を聞く、くらいにしておけばいいじゃない』


「水神扱いを、何でもありの万能免罪符にするな!」


 通話が切れ、端末に最後の通知が表示された。


『推奨:通話札試作』


『推奨:竹千代登録』


『推奨:通信ノード安定化』


 俺は、光る画面を見つめながら、深く、深く息を吐き出した。


 田んぼの雑草を、どうにかして楽に処理する道具を作る。


 ただ、それだけのはずだった。


 それなのに。


 鉄の不足を知り、山林管理という巨大な産業問題を突きつけられ、神様からスマホを渡され、ついには江戸時代に選ばれし者だけの秘密回線まで持ち込まれようとしている。


 米を増やすには、草を取る。


 草を取るには、道具がいる。


 道具を作るには、鉄がいる。


 鉄を作るには、山がいる。


 そして、山と田と神社の信仰を管理するには、どうやら広域の秘密通信がいるらしい。


「……なんか、やること、無限に増えてないか?」


 消えた画面の向こうで、KAMI様の笑い声が聞こえたような気がした。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
KAMI様めっちゃ面倒見良いじゃん。感謝すべき所だよここは。
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