16.仲間と居場所
「フェルシア。聞いたぞ、使節団入りしたんだって?」
春も終わりの五月中旬。
兵舎の中を歩くフェルシアへ声をかける者がいた。
ロイだ。彼は話しながら彼女の隣に並ぶ。
「本当にすごいな。今回は中佐もいるし、精鋭ぞろいだ」
「中佐」とはもちろん、我らがウォルフ大隊長だ。
このたび公表されたテュリエールとの和平交渉。彼はそこに同行する警護隊長として抜擢された。
喋りつつ、ロイはフェルシアの運ぶ資料を半分持ってくれる。
「私は事情があって入ったから…。皆様の足を引っ張らないように努めるわ」
使節の派遣は今夏だ。そこへフェルシアも警護隊員として参加する。
結局、彼女はグローリーブルー家の後継かつ、新人士官として後学のため選ばれた…という体になった。さすがに「相手国の王族に呼ばれている」と明かせば憶測を呼ぶからだ。
間もなく資料室に着き、扉を開けながらロイも頷く。
「ライナス様からも聞いた。でも君は実力があるから心配ないさ。新人なのは承知の上だし、あまり気負わなくていいと思うよ」
ライナスの言った通りロイはとても素直だ。話していると嫌味なく褒めてくれるので毎度面食らう。
「…うん。ありがとう」
資料を机上へ置き、フェルシアは小さく礼を言った。
「いや…。ああでも最後まで注意しろよ?まだ反乱分子の騒ぎが時々ある。まだまだ危ないよ、テュリエールは」
若干口籠ったロイには気付かず、フェルシアは本を仕舞おうと棚の前にしゃがむ。
「あ、そうだ。…ライナス様もまだ行けるかわからないんだろ?」
「ええ、そうね…」
いつしか二人で返却物を片付けながら、彼女は声をやや沈ませた。
フェルシアもライナスの参加の可否をまだ聞けていない。
偶然なことにライナスは八月に入り、南の隣国へ用があるそうだ。その日程を聞くと使節参加は本当に難しそうだった。そもそも往復に日にちがかかる。
それによりまたしても気落ちした…のは、自分だけの秘密だ。
「ま、頑張れよ。皆で帰りを待ってるからさ」
資料を仕舞い終わり二人で立ち上がる。
手伝ってもらったおかげで早く済んだ。ロイには感謝しなければ。
「お前がいない間も心配するなよ。中佐や下士官一人いないくらいじゃこの正門は揺らがないだろ?」
「…そうね。ロイ、本当にありがとう」
彼はきっと、フェルシアの仕事を空ける罪悪感に気付き、こう言ってくれたのだ。
このごろ自分は本当に恵まれている。
それは、こうして温かな言葉をもらえることと…今は、相手の気遣いを素直に受け止められるから。
去年までずっと塞いでいた心が晴れてからは毎日体が軽く、視界は色鮮やかだ。
始めに手を差し伸べてくれたライナス、そしてこの環境をくれた周囲の人々へ、ちゃんと感謝しながら生きよう。
尊敬する人が見守るに相応しい自分でありたい。
そうしてまたフェルシアが礼を言うと…今度はロイに固まって凝視されてしまった。
フェルシアは首を傾げ、己の浮かべた微笑みに気付かぬまま。動かなくなった同僚へ「もう行きましょう」と声をかけるのだった。




