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84話

 ギルドマスター執務室。

椅子にドカと深く腰掛け、ため息をこぼすのはギルドマスターのシグマ。

 一息ついたシグマの耳には今日も依頼を求め集う我がギルドの冒険者達の活気に満ちた声が響いてくる。


「あー、そうか。まだこんな時間か……」


 夜通しの資料の確認と今後の対応の検討。そしてついさっきあったクーガーの事。

それらが一区切りついた今、体に感じる疲労感は丸一日分の体力を消費したといっても過言ではなかった。


「かといっていつもの業務を疎かにするわけにもいかねぇよな」


 上がサボればツケは当然下にいく。それはシグマにとって望むモノではない。重い体に鞭打ってこれからやってくる書類の山との格闘に備えるしかない。


 マイナスな気持ちを吐き出すように体を伸ばして息を吐く。

少し軽くなった頭で考えるはこれからの業務と先程の話し。


「返答は五日後、か。奴の意志に任せると言った手前祈るしか出来ないってのは中々に落ち着かないもんだな」


 早朝クーガーに問うた打診の話し。いつも歯切れよくその場で返答をする男が、シグマの話しを聞いた時は長く沈黙をし漸く口を開いて出した答えが、


――――少し時間が欲しい。


 了承でも拒否でもなく保留と答えた。

一応の理由を尋ねると、気持ちの折り合いがつかないと一言。

たったそれだけの理由と思うかも知れないが、そう発した人物がクーガーとなれば納得に足りうる理由となる。

続けてクーガーはこれから依頼に向かう予定があると言い、それが完了する予定が四日後、遅くてもう一日。それらを踏まえて五日後に答えを出したいと言った。


「マリナスには五日程掛かる旨を伝えておくとして」


 シグマ個人としてはクーガーの意志を尊重したいと思っているが、ギルドマスターの立場としてとなると彼らのパーティー以外の選択が限りなく無いに等しくなる。


「代案なんざ考えたくはないんだが、そうも言ってられないか」


 願わくば自分の願いとクーガーの意志が一致するようにとシグマは思った。











 場面は変わりギルド内の集会所。

クーガーはパーティーメンバーと依頼に出向くため最後の確認を行っていた。


「今回はオネッサの村周辺の魔物の討伐依頼ねぇ。あそこってそんなに魔物が多かったけ?」


「勇者様一行の活躍のおかげで各地の被害は減りましたが、魔物を率いていた魔族が討伐されたことにより生き残ったのが方面に散らばったことも報告されていますから、今回もその類いのものなんじゃないですかね」


 魔族という大きな脅威は確実に減ってはいるが、残った魔物は逃げ延び無秩序に人々を襲う案件も確かにあった。

依頼のあったオネッサ村の近くで過去、勇者が魔族を討伐したことも確認されている。そして今回寄せられた情報の中には普段近辺には見られない魔物が出たと記されており、依頼資格がレベル10以上の上級のパーティーに指定されていた。


「理由はなんであれやることは変わらないわよ。全部残さずぶっ潰す!これだけなんだから」


「ほんと清々しい程にハッキリしてるわねオタク」


 上級の冒険者になってもその姿勢は変わるどころか磨きが掛かっているルセアにソーマはため息を吐きながらも感心した。


「それにシータも頑張っているんだもの、私だって負けていられないわ」


「シータという人は確か勇者様と行動を共にされている方と聞いた事がありますが、お知り合いで?」


「小さい頃からね。私のお父様と彼女のお父上であるサウス様がローランド王国に使える将軍だから家族ぐるみで親交があるのよ」


 ギルドの冒険者ということで忘れがちだがルセアは貴族である。将軍の娘同士、歳も近ければ親交もあるのは当然だった。


「そういうのを聞くと改めて貴族なんだって思い出すよ。なぁクーガー?」


 同意を求めるように尋ねるソーマの声にクーガーは何も言わなかった。

何かしらの反応は反ってくると思っていたソーマはクーガーの名を呼ぶと漸く返答があった。


「ああ、悪い。何の話しだったか?」


「珍しいなお前さんが上の空だなんて。なんか考え事か?」


「少し、な」


 歯切れの悪いクーガーにソーマだけではなくコーラルとルセアも珍しそうにクーガーを見た。


「今回の依頼について何か思うことでも?」


「いや、依頼についてはなにも。俺自身について少し」


「本当に珍しい。貴方が悩みごとなんて」


「悩むことぐらい俺にだってあるさ」


 ルセアの言葉はクーガーからは少し小馬鹿にしたように聞こえた。


「ああごめんなさい。言葉が足らなかったわね。貴方って自分ってものを持っているように見えるからそこまで思い悩むなんて思わなくて」


 それはクーガーという人物を高く評価しているから出た言葉だとルセア。

言葉はともかく評価はされている事実に毒気を抜かれたクーガーは息を溢して口を閉ざした。


 そんなクーガー達に向かってくる人影が一つ。


「おーっす我がギルドの有望な方々。話し合ってる所を見るに出発前の確認かな?」


「ライアンか、どうかしたのか?」


 基本愛想が良くないクーガーに臆する事もなく気兼ねなく話しかけてくるギルドでも珍しい一人、ライアンがやって来た。


「いやなに、いつもムスッとした表情のお前がもの憂ってる顔をしてたのが見えたもんでな。何事かと気になったのさ」


「そいつはどうも。悪いが個人的なことでな、詮索はお断りだ」


「ありゃ、そいつは失敬」


 ピシャリと断りを入れられた事でライアンは目的を失い、かといって話しかけた矢先に去っていくのも味気ないと考えて矛先をソーマへと変えた。


「所で元からレベルの高かったコーラルを除いて、お前達三人とも10レベルを越えたって本当か?」


 ライアンの問いにソーマは言葉よりも見せたほうが早いとステータスを投影すると話した。

ついでにパーティーメンバー四人全員が投影して改めて把握しておこうと提案し、クーガーふくむ残りの三人も受け入れた。



名前 クーガー Lv10

種族 人間

〈能力〉

筋力値 22

器用値 21

機敏値 12

生命力 18

魔力値 12

〈スキル〉

武器 鎚

魔法 土属性

補助 毒耐性 指揮 連携




名前 ソーマ Lv10

種族 人間

〈能力〉

筋力値 11

器用値 21

機敏値 25

生命力 10

魔力値 17

〈スキル〉

武器 短剣

魔法 風属性

補助 料理 識別 夜目 解体 投擲 気配察知  道具作成 気配希薄化 連携




名前 ルセア Lv11

種族 人間

〈能力〉

筋力値 18

器用値 15

機敏値 20

生命力 13

魔力値 16

〈スキル〉

武器 拳

魔法 雷属性

補助 気配察知 直感 連携 




名前 コーラル Lv17

種族 エルフ

〈能力〉

筋力値 12

器用値 20

機敏値 12

生命力 15

魔力値 31

〈スキル〉

武器 杖

魔法 光属性 水属性

補助 詠唱短縮 精神耐性 連携



「おおお……っ!」


 感嘆の息を漏らすのはライアン。ちょっと前まで自分と同じ初級の冒険者だったはずの面々が上級の仲間入りの目安となるレベル10に確かに到達している事実を目の前にして目が見開かれている。


「つかレベルに対して能力値も高いな!?」


 それぞれの能力の数値はレベルが上がれば必ず上がるというものではなくどのように戦闘経験を積んだかで左右されるのは周知の事実。

戦士のように前線で武器を振るえば力が、魔法使いのように後衛で魔法を放てば魔力が上がりやすくなるように。

そしてそれでも必ず毎回上がる訳ではない。より濃密な戦闘を行えば上がりやすいというだけで、大斧を振るう冒険者でも力が上がらない事だってある。


 しかしクーガー達のステータスを見れば毎回上がっているといいほどに伸びが良い。

毎日のように戦闘に赴いていることは知ってはいたが、その内容も決して楽なモノではないと証明するような値だった。


「毎日のように戦闘依頼ばっかり行ってて異常だと思ってたがこれはスゴいな…!」


 呆れるように感心するライアンにソーマは目に涙を浮かべて叫んだ。


「だよなっ!?毎日毎日戦闘、討伐って異常だよな!?ソレが普通の感覚だよな!?」


 クーガー達とパーティーを組んで幾月、最初こそライアンのように異常だと訴えていたが聞き入れられずにここまでて来た。そのせいもあってか徐々にソーマ自身もこれが常識の範囲内に収まりつつあるところに久しぶりに一般の感性を持つ人物の一言が出た事で世間一般の感覚を久しぶりに体感していた。


「改めて見ると本当に成長したわね私達」


「ええ、それにどの戦いも強敵でしたから数値の上がり幅も私の知っている限りだとかなり高いものだと思います」


 そんなソーマを尻目に各々の成長を実感するルセアとコーラル。


「それに全員もれなく連携の補助スキルを得ているのを見るに、パーティーとしての動きはかなり良いんじゃないですかね」


 補助スキルは自身の行動の積み重ねによって身に付くスキルであり、連携のスキルが取得出来ているということはそれだけチームワークが優れているという証明にもなる。


「その要の人物は普段は口数少ないのに、戦闘中は打って変わって適切に指示を出すんだものね」


「魔物は基本人語を理解出来ないからな。それに戦闘中の状況なんざ逐一変わるんだ。事前に決めるのはある程度の作戦で、後はその場その場で考えたほうが俺は楽だ」


「事実私達はそのやり方で戦って来ましたからね。効率が良いと言いますか」


「その感覚は判るわね」


 自分達の戦いについて語る三人の横でライアンはソーマに疑問を尋ねる。


「お前よくあの面子の中にいられるな」


「俺が一番そう思うよ。でもやっていけるのはやっぱりアイツが率いてくれるからかな」 


 その人物とは勿論クーガーの事。


「単純に強いってのもあるが、対応力っつーのかな、その場その場での指示が的確なんだ。しかもソレを全員分常にだ」


 どのような状況でどんな魔物が相手でも立ち回りの指示を的確に頻度も多く出すクーガー。

前衛でありながら後衛のソーマやコーラルの分まで指示を出し自分も鮮やかに立ち回る姿は頼もしさを越えて安心感すら感じている。


「頼りになりすぎて自分の力不足は否めないが、せめて自分に与えられた事はキッチリこなさないといけなくて必死だよ」


 苦笑いしながら語るソーマ。だけどその表情に悲観さは無く、大変だけど精進しなければと言っているようにライアンには見えた。


「お前も成長してんだな」


 ライアンの記憶には魔物との戦いを恐れ、不甲斐なさを隠すように見栄を張るかつてのソーマの姿がある。

でも今のソーマにはそんな影は欠片も見られない。自分の力不足をしっかり認識し、それでも足を引っ張らないように付いていくと言葉にしたのだ。これを成長と言わないでなんというのか。


「らしくもない事を言っちまったな。アイツらに聞こえてないだろうが、アンタもここだけの話しにしてくれや」


 照れくさそうに頬を掻くソーマにライアンは笑って頷く。


「なによ照れたような顔をして?何の話しをしていたの?」


 ルセア達も話し終わったのかソーマの態度について聞いた来た。


「何でもないっての!というか、話しが終わったんならそろそろ行きませんかねぇ!」


 分かりやすく話しを逸らすソーマにルセアが食いかかっていくが、クーガーとコーラルがソーマの意見に賛成して話しは打ちきり。

最後に各々道具等の準備に不備は無いかと確認したり、補充しにいっている中、一人準備を終えているクーガーはライアンと話しをしていた。


「ところでお前は今日は依頼はないのか?」


「何か受けようと思って来たんだがシグマさんからお呼びがあってな」


 呼ばれたとは何かしたのかと追及するとライアンは笑って首を横に振り。


「違う違う。何でも今度からこのウォレスの周辺の巡回をギルドでもするみたいでな。パーティーを組んでるやつも勿論、俺みたいな普段はフリーでやっている奴らにもやって欲しいんだと」


 何でも国王最側近であるマリナスからの指示だと。それにとライアンは続けて。


「お前らも聞いたんだろ?勇者の活躍で魔族が討伐されたが率いていた魔物が散り散りに逃げたって。その影響かウォレス周辺にもそこそこに魔物が出没しているらしい。んで、城の兵士達だけでなくフットワークの軽い俺達冒険者にも警戒の手伝いを、って理由らしいぜ」


 ライアンの説明にクーガーはなるほどと頷く。

確かにギルドの者達であれば少人数での行動はお手のものだし、警戒や巡回にはもってこいだろう。

目の前のライアンも確かこの前にレベルが6を越えたという話しを何処かで聞いたし、この任務を任せるに足るとシグマは判断したのだろうと考えた。


「この前は門の近くに現れたらしくてな。兵士の何人かが負傷したらしい。お前達も出発するときは気をつけていけよ」


 そろそろ俺も行くわ、とその場後にするライアンに別れを告げると準備を終えたルセア達がやってきた。


「さて、依頼は勿論。シグマの頼みについても決めておかないとな」


 勇者一行に追従する話し。シグマいわく自分の意志が尊重されるようでその話しをしたのも自分一人。つまりルセア達三人にはまだ知らされていないということ。

シグマが言うには残り三人は恐らく了承するであろうとのことだが、自分には猶予があるのにルセア達には無いというのはクーガーにとっては居心地が悪い。

何とかこの依頼中に気持ちを決めて、その上でルセア達ちにも話しをしておかねばと一人決意したクーガーだった。

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