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61話

 孤児達を迎えて、ウォレスへと向かうクーガー達。

本来なら子供達は馬車に乗せていたのだが、度重なる魔物の襲撃に遭い破壊されてしまっていた。

ウォレスまでは歩いていくにはまだまだ距離がある。そこでクーガー達は乗って来た馬に子供らを乗せていたが、それでもまだ幼い子供が長い時間乗馬を続けられる訳もなく、適度に休憩を挟みながら進んでいた。


「すまない、ここで少し休憩をとろう」


 ウードの提案を受け、その場で休みを取る一同。馬に揺られ続けられていた子供達は疲れが溜まっているのか、下馬すると地面に座りこんでしまった。コーラルやルセアは子供達の体調を気遣い、周囲を警戒するためにソーマら数人が少し離れ、辺りを見回す。そしてクーガーは現状を確認するためにウードの元へと向かった。


「今どのくらいだ?」


「このまま強硬で行ければ、ウォレスへは夜が更ける頃にはつくだろうが。まぁ難しいだろうな」


 空を見れば日はだんだんと傾き、うっすらと赤みがかって来ていた。


 子供らに馬を宛がっているためにクーガー達は徒歩である。魔物を倒してから今まで進んで来たがやはり進行速度の低下は否めず、未だにウォレスにたどり着けないでいた。


「気持ちとしては進んでいたいが子供達の体調もあるし、万が一魔物が来た時に暗がりでは守るのもキツイしな」


 数日とはいえ、魔物の脅威に晒されながらの行軍は子供達にはとてもキツイものだ。ただでさえ無理を強いているのにこれ以上を求めるのはあまりにも酷といえるだろう。


「何処かで野宿するしかないか」


「幸い道には戻れているからな。このまま行けば少し落ち着ける場所に着ける。そこで今日は夜を明かそう」


 もう少しすれば辺りは暗くなるだろう。それまでには何とかたどり着けるはずだとウードは言った。

先の方針を決めた二人はその事を仲間へと伝えてそれぞれに休憩を取った。


 暫く体を休めた後に再び動き出したクーガー達。

次第に暗くなっていく空に不安がる子供達をルセアやニカの女性陣が和ませながら進んでいく。


 魔物の襲撃もなく、目的の場所まで後少しとなった時にクーガーは背中にゾワと走る不快感を感じた。


「――――っ!?」


「どうした、クーガー?」


 問いかけるソーマに返答せずに後方を振り替えり遠くを見つめるクーガー。

背中に感じた不快感は次第にチリチリと肌を刺していく。


「……ソーマ、集中して気配を探してくれ」


「ナニかあるのか?」


「分からん。だが周りから虫や獣の声が聴こえなくなっている、だから確証が欲しい」


 自然の中で当たり前のように聴こえるはずの音が聴こえてこない事に何とも言えない圧迫感を感じる。

これが偶然で生じた事ならこの不快感は杞憂に終わる。しかしそうでなければ恐らくマズイ事態であるだろう事が容易に想像出来る。

 どちらにしても確固たる確証がなければ行動に移せないと考えたクーガーはソーマに指示を出した。


「分かったよ。ちょっと待っててくれよ」


 ソーマが集中して十数秒。その間全員に動かないように呼び掛ける。そして何かを感じたのかソーマな額に大粒の汗が浮かぶ。


「なん、だ。コレ……?」


 体を締め付けるかのような圧迫感を強く感じたソーマは絞り出すように言葉を出す。


「ウード!!子供達を連れて先に行け!!」


 ソーマの反応を見て悪い予感が当たった事を悟ったクーガーは声を上げる。


「お前らはどうするっ!?」


「構うな!優先するのは俺達じゃない!」


 ウードの言葉をはね除け戦闘態勢を取るクーガー。それを見て話はついたと知ったウードは子供達を引き連れて先を急いだ。


「構えろ、そして気を持て。先ずはそれからだ」


 会敵していないのに呼吸が乱れ始めるソーマの背を叩き落ち着かせる。


「コーラル。詠唱用意、姿を表したらすかさず叩き込め。そしてルセア、いつでも飛び込めるようにしておけ」


「クーガー。俺は」


「距離を取って全体を見回せ。悪いが今回は周りを見きれる保証はない」


 いつもよりも言葉少なく簡潔に指示を出すクーガー。その事がまだ姿が見えぬ相手が脅威であるということを裏付けていく。


「――――」


 ただ構えているだけなのに額から汗が滴り落ちてくる。その滴が頬を伝い地面に落ちていく。それが一度二度、そして三度目となった時に空気が動いた。


「――――近い」


 全員の視線の先からズシンという音が響いてくる。その音は聞こえて来る度に大きくなっていき、こちらに向かって来ている事を伝えていた。


「生命を導く聖なる光よ、我が眼前に立ちはだかる魔を貫かん―――」


 コーラルは詠唱を始める。宙に魔力によって作り上げられた光が槍の形に成っていく。そしていつでも放てるように放つ寸前で止めて、更に威力を高めるためにそこから魔力を込めた。


(タイミングは任せます)


 クーガーに視線を送り準備を済ませる。

日は沈み僅かな月明かりが照らす中、相手の姿は未だに視認出来ない状況で出来うる手段を取っていく。


 足音が大きくなり、地面を踏みしめた振動が伝わってきたのを実感出来るようになる。

それでもまだ、とクーガーは静止をかける。

そこからゆっくり一秒二秒と刻み、うっすらと敵の影が見えてきた。


「――!放てっ!」


 クーガーの号令を受けてコーラルは影を目掛けて杖を向ける。


「『ホーリーランス』!!」


 宙に浮かぶ数多の光の槍が影へと殺到しその身を串刺しにする。


「―――――――――!?!?!?」


 奇襲による驚愕と身を焼かれる痛みによる絶叫が辺りに響き渡る。

通常よりも魔力を込めて威力を高めた一撃。それを不足なく相手に叩き込んだのだ、ただで済むはずがない。


 断末魔は次第にか細くなっていき聴こえなくなった。


「やったのか?」


 警戒したわりにはあまりにも呆気ない結末にソーマはそう呟いた。


「……いや、どうやらこれかららしい。――よく見てみろ」


 戦闘態勢を解かないままクーガーは答える。


「えっ?」


 視線の先では光の槍が刺さったまであろう影がこちらに向かって()()()()()()()

 ドサッ、と音を立てて投げ捨てられたモノが月明かりに照らされハッキリと姿を写しだしていく。


「ゴブリン?」


 無造作に倒れているゴブリンだったモノを確認するルセア。

やられた様を見ればコーラルの魔法の威力がいかほどのものかよく分かる。


「厄介な事にモノを使う頭があるらしい。まんまと盾にしやがった」


 ギリ、と歯を食い縛り毒づくクーガー。これから相対する相手は少なくとも仲間を盾がわりに使える程の知恵とそれを実行出来る力があるということ。


「先手がとれなかった、か。全員飛び出すな。ここからは相手の出方をみてからだ」


 取ったと思った初手が防がれた事を考えると、このまま攻めるのは悪手だと考えたクーガーは相手の全容を把握すべく待ちの構えの指示を出した。


 クーガー達から追撃が来ない事を悟った相手はゆったりと進み漸くその姿をさらけ出す。


「オ前ラ、カ?散、々手下ヲ、殺ッタノハ?」


 たどたどしいながらも人語を語るその姿は勿論人等ではなく、はっきりとした魔物、クーガー達が知る魔物の中ではトロルなような似姿をしていた。


「喋った?おいおいおいっ!、てことはあれってまさか――」


「そのまさかだろうよ」


 少なくとも人語を喋る魔物をクーガー達は知らない。ということは当然候補はソレになる。


「――魔族、なのよね?」


「恐らくそうでしょう。系統はトロルのようですが、もともと知能は高くはない、ましてや人語を語るなんて魔物のままではあり得ない。ならば、成長によるものか環境によるものかはわかりませんが、それによって魔族へと変異したのでしょう」


 まさにこんな所で遭遇するなんて、と溢すコーラルの顔は固く。体にも力が入っていた。


「いくら魔族といえトロルなんだろ?だったら――」


 尻込む自分を奮い立たせる為に言葉を絞り出すソーマ。相手が魔族であろうとトロルの系統であるならばさっきも倒したんだ、という実績を持って自身に鼓舞を掛ける。


「いくらトロルといえ魔族だ。その考えは捨てろ、でないと死ぬぞ」


 だがクーガーは希望的観測はしない。常に考えるは最悪の想定。相手がトロルの系統だからと下手に高を括ると、取り返しのつかない失態につながる事がほとんどだ。


「呑まれれば心が折れ、止まれば死ぬぞ。臆するくらいなら思考を回せ。震えるくらいなら動き続けろ」


 魔族トロルの周囲を見やれば手下だろうか、五体のゴブリンが控えていた。

その事にソーマは息を飲むが、今のクーガーの言葉を頭に反芻させて、足に力を入れる。


「随分簡単に言ってくれるよ……!まったくっ!」


 文句を言いながらも固さはとれて来たソーマ。なんとか戦闘に臨めそうな状態にはなっていた。


「それが出来ている間は少なくとも勝機はある」


 今だに唸りながら動いて来ない魔族トロル達から視線を外さずにクーガーは続ける。


「それもそうね。相手が魔族だからって私達が負ける理由にはならないのだし」


 拳を構えて腰を落とし、いつでも駆け出せる態勢を取るルセア。


「確かに悲観的になるにはまだ早いですね。やれるだけの事はやってみせねば」


 ふぅ、と息を吐き呼吸を整えるコーラル。その佇まいに最早先ほどまでの固さはなく自然体で立っていた。


 三人の様子を見て、少しではあるが普段の調子を取り戻してはいると感じたクーガー。

予想外の状況で遭いまみえた魔族との戦いが始まる。

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