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59話

 ウォレスから馬を走らせ数時間。合流予定である一際大きな木がそびえる開けた丘の上へとたどり着いたが、ニカのパーティーメンバーの姿は見えない。


「先に着いた様子も無しか」


 クーガーが周囲を見るが人がいた形跡はない。空を見れば日は高く昇り、今は昼頃だと分かる。

ニカの話しでは孤児達の事も含めて、昼には着く計算だったというがその様子は見られない。


「……遅いね。着いていなくても見える範囲までは来てると思っていたのに」


 ニカが丘の上から辺りを見渡すが、未だにくる気配がない。


「本当にこの場所で合っているのですか?」


「確かだよ。この付近は何度か来た事があるんだ。その中でもここは目印が分かりやすいからね。なにかあった時の為にパーティーの全員が此処を知っている」


 だから万が一にも間違いはないとニカは言った。


「取り敢えず俺達が着いた事を知らせよう。もしかしたら反応があるかもしれん」


 そう言ってクーガーは道具袋から煙玉を取り出す。そして地面に落ちてる手頃な石を拾い、煙玉を宙に放って石を投げ当てる。


 乾いた破裂音を響かせ煙玉は割れ、黄色い煙が空に広がる。

赤い煙は救難を示し、黄色い煙は無事に居ると所在を示す。


 クーガー達は何処からの反応も見逃さないように、それぞれが別々の方向を警戒する。



「―――おいっ!!アレッ!!」


 遠くで何かが破裂した音か響き、そして何か見つけたのかソーマが叫ぶ。直ぐ様クーガー達もソーマの元へ集まり、指差した方向を見る。


「あれって!?」


 皆の視線の先では空を漂う救難を示す()()煙。


「―――!?ソーマッ!煙の下周辺を詳しく見ろっ!残りは戦闘準備を済ませ馬に騎乗しろっ!」


 クーガーが叫ぶ。状況は分からないが、逼迫しているのは確実だ。一秒でも速く駆けつけるために武器を構え馬に跨がる。


「見えたッ!ありゃあマズイぞ、どうやら魔物と交戦中のようだ!」


 遠目を使い周辺を見つめるソーマの視線の先では魔物と戦う人影が。


「皆はっ!?無事なの!?」


「悪いがそこまでは分からんっ!」


「此処からそこまでの道は?」


「馬に乗っててもなんとか行けそうだ!」


「なら行くぞ!」


 手綱を引いて馬の腹を蹴り、全速力で駆け出す。

ウード達の安否も気になるが連れている孤児達の身の安全が第一だ。


「――――」


 ニカの顔は険しい。自分の仲間達は、いつもであればそう遅れを取るような事はないのだが、今回は護衛対象を連れている為に、守りながらの戦いを強いられている。


「――――っ!」


 大丈夫だと頭では思っているが不安が拭いされず、歯を食い縛る力が強くなる。


「ニカちゃん」


 ニカの心情は同じ冒険者としてクーガー達全員が押して知るべし事だが、ここで言葉を掛けれるのは気心の知れる友人であるルセアしかいない。


「開き直れとは言わないわ。でもほんの少しで良いから頭を落ち着かせて」


 全力で駆ける中でも努めて冷静に言葉を紡ぐ。


「このまま行けば間違いなく、直ぐに戦闘になると思う。その時にその状態のままじゃ足元を掬われるわ」


 狭まった思考のままでは危険だとルセアは続ける。


「ニカちゃんは私達よりも長い間パーティーとして活躍してきたでしょう?なら他のメンバーの事をそれだけ深く知っているはず。貴方の仲間は、貴方をそこまで思い詰めらせてしまうほど頼りないの?」


 言葉は真剣に、口調は柔らかくしてニカに問う。


「……そんなことないよ。皆強いし、頼りになる」


 返ってきたのは頼もしい否定。積み上げてきた信頼から出た言葉。


「――――うん。少し落ち着いた、もう大丈夫。ありがとうルセアちゃん」


 冷静さを取り戻したニカは笑顔を見せた。


「お礼は帰ってからの甘いモノで手をうつわ」


「ふふふ。なら奮発しないとね。今回の依頼、結構実入りが良いから期待していいよ」


「全力で期待するわね」


 会話が終わり、表情が変わる。引き締まった顔からは余計な力みは消え、ただ前だけを見つめる。


「話しは済んだか?」


「うん、ごめんねクーガー。ちょっと焦ってたみたい」


「終わったならいい。もう近いぞ、構えろ!」


 視界の先の方向から戦闘音が聞こえ、近づいているのが分かる。


「見えた!前方に敵影、数は六!奥に向かっていて交戦の気配が見えないからその奥にもいる模様だ!!」


「つまり、それ以上の数の敵が先で既に戦っているということですか」


「どうするのクーガー。ここで確実に叩いて合流した時に後方の憂いを断っておく?」


「でもその間も皆は戦っているんだよ!ここは強引にでも進んで合流しなきゃ!」


 味方との合流を優先するか、目の前の敵を倒し戦力を潰すか。

駆け抜けている中、考える時間は僅か。その中でクーガーが出した答えは。


「速度は落とすな!このまま押し通るッ!」


 選択は合流を優先。速度を上げ一人先頭に立ち、馬上の上で武器を構える。


「俺が道を開く、『エンチャント』!」


 ハンマーが魔力を帯びて光を纏う。重さが増したが、馬はなんとか速度を維持している。


「もう少しもってくれよっ…!」


 魔物の姿がハッキリと見えてくる。ニカからもたらされた情報通りにゴブリンが走っていた。


「―――――!?」


 最後尾の一体がクーガー達の接近に気付いたて振り向いたが最早遅い。


「邪魔だッ!」


 叫びと共にハンマーを振るう。

追い抜きざまに薙ぎ払うように一閃。切り返して更に一閃。

弾き飛ばされたゴブリンは仲間のゴブリンを巻き込んでまとめて飛ばされていった。


「行くぞッ!!」


 開いた道を全速力で駆け抜ける。まだ息のあるゴブリンが立ち上がり追いかけて来るが脇目も振らずに突き進む。

戦闘音が更に大きく聞こえてくる。距離は近い。


「―――見つけた!」


 少し開けた場所に出ると、目の前には魔物の交戦しているウード達の姿が見えた。


「皆あぁっ!!」


「ニカっ!?来てくれたかっ!!」


 救援を託した仲間が味方を連れて戻ってきた事にウード達は喜んだ。

しかしその姿は傷が多く、激戦であったことが見てとれる。


「喜ぶのは後だ!今はこのまま叩くっ!!ソーマ、コーラルは詠唱用意!ルセアは俺に続け!!」


「了解!ニカちゃんはその隙に仲間の所へっ!」


「ごめんね皆!相手は任せる!」


「任された!」


 クーガー達は馬から飛び降り戦闘体制を整える。そしてクーガーが魔物へと駆け出し、ルセアがこれに続く。


「コーラル!俺は牽制するように魔法を放つ!」


「なら私は高威力の魔法を唱えます!」


 ソーマとコーラルはそれぞれ魔法による援護の為に詠唱を始める。


(思ったより数が多い、それに種類も……)


 目に映るだけで敵の数は七体。ゴブリンが五体にそれを率いるゴブリンの上位存在のハイゴブリンが一体。そして、一際大きな体躯をしたトロルが一体。


 確かにこれで孤児達を守りながらの戦いを強いられているとなると苦戦は必至だ。だが今この時はクーガー達が主導権を握れる好機だった。


「相手は動揺している。この隙を逃すなッ!」


 魔物達は背後からの急襲に驚き狼狽えている。この絶好の機会をむざむざ逃すことなどするはずはなく、クーガー達は魔物へと攻めいる。


「まずは数を減らすぞ、ルセアッ」


「了解!いくわよ!!」


『『エンチャント!!』』


 魔力を纏わせ、手近なゴブリンから倒しに掛かる。

クーガーよりも機敏さで上回るルセアが先行してゴブリンへと仕掛ける。


「ハアアッ!」


 十分な距離を助走に使い、勢いの付いた拳をゴブリンの顔面に叩き込んでその頭蓋を砕き潰した。


「次ッ!」


 止まらずにルセアは走り目の前の二体のゴブリンに近づく。ゴブリン達はなんとか迎撃しようと得物を構える。


 それをルセアは不敵に笑うと勢いそのままに跳躍してゴブリンの頭上を飛び越す。呆気に取られた二体のゴブリンは呆けた顔でルセアの事を視線で追ってしまった。


「残念だけどアンタ達の相手は私じゃないわ!」


 ルセアの言葉と同時にゴブリン達の背後にクーガーが迫る。その気配に気付き振り返るが最早手遅れだ。


「失せろ」


 威力を求めて大きく振り払った一撃は二体のゴブリンをものともせずに、その頭を原型が残らない程に消し飛ばす。頭部を失ったゴブリンはフラフラと揺れながら地面に倒れた。


 そのクーガーの視線の先ではルセアが更に一体のゴブリンを倒していた。


「ギィッ!?」


 僅かな時間で悉く手下をやられたハイゴブリンが動揺しながらも近くにいるルセアに切り掛かって行く。


「そうはさせねぇよ!『ウインドカッター』!」


 それを阻むようにソーマの放った風の刃がハイゴブリンの腕を切り飛ばした。


「―――!?!?」


 ハイゴブリンは突然の出来事と激痛により膝から崩れ落ちた。

そしてルセアはエンチャントを掛け直し、腰の入った一撃を無防備になったハイゴブリンの顔面に叩き込んだ。


「よしっ!ナイスアシスト」


「これくらい訳ねーよ」


 出来の良さに言葉を交わすルセアとソーマ。

その視界の端では、ハイゴブリンがやられたことで漸く不利を悟った最後のゴブリンが逃げ出そうとしていた。


「最後まで気を抜くなよ。ウード、そっちへ行ったぞ。やれるか?」


 二人には注意し、ウード達にはいけるのかと問いかける。


「心配どうも!安心しとけよ、少しは回復したんだ。これぐらいやれるってなあ!」


 ニカから渡されたポーションを飲んだ事で多少傷の癒えたウード達。流れるようにゴブリンを囲み、槍で剣で串刺しにする。


「残りはトロルのみか」


 トロルは自分以外の仲間が全員やられたことにやっと気付くと、叫びを上げて巨大なこん棒を振り回した。


「気をつけろっ!なりふり構わず振り回して来やがった!ここは距離を取って―――」


「落ち着け。コーラル、行けるか?」


 慌てるウードを諫め、コーラルへと視線を向ける。

コーラルは頷き、魔力を込めた杖を高く掲げ最後の行程へと移る。


「生命を導く聖なる光よ、我が眼前に立ちはだかる魔を貫かん―――『ホーリーランス』!!」


 トロルの頭上に光輝く数本の魔力の槍が浮かび上がる。コーラルがトロル目掛け杖を振り下ろすと穂先がトロルへと向き、勢いよく降り注ぐ。


「ガアアアッ―――!!!」


 身体中を槍で貫かれ絶叫を上げるトロル。しかし種族による生命力の高さなのか仕留めきれはしなかった。


「仕留めるには充分かと思ったのですが、中々にタフですね」


「だがもう虫の息だ。仕上げに入るぞ」


 クーガー達とウードのパーティー。各々がトロルを取り囲み、一斉に攻撃を仕掛ける。


「―――――!!」


 剣で切られ、槍に貫かれ、矢で射抜かれ、拳とハンマーで潰され、トロルは叫びを上げて息絶えた。

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