45話
「あ、れ……?ここは…?僕はどうしたんだっけ?」
目を覚ました康一はなぜ自分がベッドで横になっているか分からないでいた。
「取り敢えず、起きない、とっ…!?」
体を起こそうとすると痛みが康一を襲う。
「痛たたたっ!えっ!!何で!?」
全身に走る痛みに驚きベッドの上でじたばたともがく康一。その痛みに悶えていると部屋の扉が勢いよく開けられた。
「康一っ!起きたの!?」
「康一さん!!大丈夫ですか!?」
「おい、二人ともいきなり大声を出すな。康一が驚いているだろ」
どたばたと入ってきたのはシータとリフル。よほど心配していたのかどこか慌てているようにも見えた。
そしてそんな二人を窘めながらライアットが入ってきた。
「起きたか。調子はどうだ?」
「あ、はい。なんか体中が痛くて。あの、僕はどうしてここに?」
「覚えてないか?お前は魔族との戦いの後倒れて三日程寝ていたんだ」
ライアットが言うには康一はあの戦闘で無理に使った『フィジカルエンチャント』の反動で倒れ、寝込んでいたという。
そしてライアット達は倒れた康一を抱え、ソイル村へと戻ったのだ。
ライアットの説明を聞いて漸く状況を理解した康一。
さっきまではただ痛いだけであった体を走る痛みも、今では物事を成し遂げとた達成感と共に少し誇らしくも感じて少し笑みがこぼれた。
「康一?」
「あっ、すいません。でもなんだか少し嬉しくて。今までこんなに必死になって何かをやり遂げたことなんてなかったから。話を聞いてちょっと実感がわいたというか」
「そうか。今はゆっくり休むといい。明日には報告もかねてウォレスまで戻らなくてはならないからな」
本来ならばこのまま付近の村から村へと渡り、魔物を討伐していくと想定していたが、城の近くの村で魔族が出たのだ。
こうなってはまた調査をしなければならないとライアットは考えた。
「そうそう。あんたは一番の功労者なんだから大人しくしていなさい。細々したことは私達がやっておくから」
それじゃあね、と部屋を出ていくシータ。続いてライアットも部屋を出る。
「………」
「えっと、リフルさん?」
残ったリフルは口を結んだまま康一を見つめる。
「どうして…、どうしてあんな無茶をなさったのですか?」
「えっ?えっと、その、リフルさん達が危なかったから無我夢中で」
「お優しいのですね。ですが康一さん。貴方は世の希望なのです。貴方が失われることだけはあってはならないのです。私達は命を掛ける覚悟が出来ています。だからどうか、どうかご自身を大事にしてください」
横たわる康一の手を握り訴える。
自分達とは違い代えの利かない存在だからこそ、その身を一番に考えてほしいと訴える。
「リフルさんごめんなさい。それは出来ません」
それを康一ははっきりと否定した。
「リフルさん達が命をとして戦ってるのは分かってます。それだけじゃなくてこの世界の人達全員が懸命に戦ってるって。だからこそ僕も、僕の全部を掛けたいんです」
そうじゃないと同じ舞台にも立てないからと康一は言った。
「ですが」
「僕は皆を守りたい、助けたいんです。それはリフルさんも、シータさんも、ライアットさんだって、皆も守りたいって思ってます」
痛む体にむち打ち、なんとか起こす。そしてリフルと向かい合う。
「今はまだ頼りないですけど、これから一歩ずつ強くなってみせます、ってことじゃダメ、ですか?」
真っ直ぐに自分の本音を告げる。
康一が答えてから暫くの沈黙が流れた後、リフルは優しく微笑んだ。
「いえ、ダメじゃないです。じゃあ私も康一さんをちゃんと守れるようにもっと強くならなきゃですね」
この優しい少年の力になれるようにとリフルは康一と自分自身に対して誓った。
翌日、ソイル村の入り口には康一達を見送る村人達で溢れていた。
「本当にありがとうございました!まさか魔族がいたとは驚きましたが。倒してくださり本当になんとお礼をしたらいいのか!」
「そんなお礼なんて、僕達はただ戦っただけですから別にいいですよっ」
ソイル村の村長が康一の手を取りブンブンと振りながら感謝の言葉を続けていて、それをライアット達は少し離れた所で見ていた。
そして何度も何かお礼の品をと迫る村長をなんとか抑えながら康一がやって来た。
「ふぅ、お待たせしました」
「大分感謝されたな」
「何で皆さん来ないんですか。僕だけで倒した訳じゃないのに、皆で受ければ良いじゃないですか」
「これから先も似たようなことは沢山あるわよ。この時より大勢の人に囲まれるだろうしね。その時にあたふたしない為の練習だと思いなさいな」
そう訴える康一だったがシータの言葉でそれ以上何も言えなくなってしまう。
その様子を見てライアットとリフルは笑っていた。
そして村を出発して直ぐにライアットは康一に村の方を見るように言う。
振り返るとそこには村中の人達が大手を振って康一達を見送っていた。大人から子どもまで感謝や応援の言葉が掛けられる。
「―――」
何かを成し遂げたことによって感謝されたことなど今までなかった。
康一の胸に今まで感じたことのない気持ちが溢れていく。
達成感とも、喜び、感動、どれともいえる。いやそういった感情をひっくるめた全部なのだろう。
(やるんだ。多少の無理でもやらないと、僕はまだまだ弱いから)
皆の期待に応えるために。またこの気持ちを味わうために。
ほんの少しの危うさを孕みながらも康一は勇者としての覚悟を決めていく。




