46話
「はぁ……、どうしたもんかね」
早朝からギルドの執務室でシグマは頭を抱えていた。
机の上にはとある人物のプロフィールが記されている書類が一枚。
「実力は申し分ないし、人格も問題なし。ウチに来てくれるだけでも大歓迎、だけどなぁ……」
こめかみを指でトントンと叩きながら思考を回す。
シグマを悩ませているのはとある人物が教会からギルドへと移籍するという話。
移籍事態は珍しいが別段おかしい話ではない。
本人の強い要望があり、それが正当な理由であるならば所属先のトップから移籍先へ話を持ち掛けることで実現する。
それならなぜシグマはここまで悩んでいるかというと、下のほうに書かれている一文にあった。
"討伐系クエストを積極的に受託している実力のあるパーティーへの偏向を希望"
希望する理由も本人から聞いてシグマ自身も納得している。しかし問題なのは。
「コイツの希望に合うパーティーがそう無いってことなんだよなぁ」
そもそも己の命を賭ける討伐系のクエストを積極的に受けるパーティーなぞ、数は限られている。それに戦闘に優れた上位のパーティーではすでに各々の連携が確立されており新たにメンバーを増やすことに抵抗を示すことが多い。
かといってこの人物の能力を十全に発揮出来るパーティーとなると……。
「あっ、いたわ」
ポン、と頭に浮かんだ一組のパーティー。
ギルド史上、もっとも勢いのあるパーティー。僅か三人でありながら個々の力量は高く、破竹の勢いでレベルも上がっている。
そしてそれを纏めるリーダーは愛想と人相は良くはないが個人の力量の高さで個性の強い残りの二人を纏めている。
「後はコイツが引き受けてくれるかだが」
確かにまだレベルは上位勢には届いていないが、実力はギルド内の評判は勿論、シグマも把握している。
後はそのことどうこの人物に証明させようかと考えていると、幾つかの書類を抱えた受付嬢が入ってきた。
「失礼します。シグマさん今度行う腕試し大会のことなんですが…」
「――それだ!」
「…………はい?」
渡りに船とはこの事だ。どうやら風は追い風となって自分に吹いているらしい。
「得意武器以外使用の腕試し大会?」
「そっ。普段使わない武器を使って魔法はなし。普段使ってる得物が使えないから、わりと面白い戦いになることが多いんだ」
ギルドの掲示板に貼られた紙を遠目から眺めるクーガーとソーマ。
視線の先ではギルドの団員たちがやいのやいのと賑わっている。
「それだとレベル差がある相手だと不公平にならないか?」
「だから一定のレベルごとにグループを分けるんだよ。そんで見事優勝すれば賞金だとよ」
どうやらそこら辺はキチンとしているらしい。粗暴そうな見た目をしているシグマだが、やはりそこはギルドマスターといったところか。
「なるほど。それにしてもなんでまた?」
「最近はなんやかんや忙しいかったからちょっとした気晴らしだとさ。そして終了後には打ち上げという名の宴会。ま、本命はこっちだろうけどな、つまるとこ余興みたいなもんよ」
「気晴らし、か」
確かに毎日のように掲示板には依頼書が溢れていて、受け手よりも多い日もざらにあった。
そんな皆を労うには確かに丁度いいのかもしれない。
「そういうこと。んでもって我らが紅一点のお嬢様が真っ先に受付を済ませておいでなわけ」
そういってソーマが指差す先には鼻息荒く腕を振り回すルセアの姿が。当人の性格を考えれば参加しないという選択肢はあり得ないだろう。
二人の視線に気付いたのかこちらに向かってくるルセア。
「ちょっとアンタ達!そこでなにボケーっとしてるの!ほら早くエントリーしてこないと」
「いやいや、俺はやりませんよ。俺は別にバトルジャンキーじゃないんだから、ゆったり観戦して宴会を楽し―――」
「そう言うと思って代わりにエントリー済ませてきたから」
「なにしてくれてんですかねえええっ!?」
叫ぶソーマに、はいこれエントリー者の番号だからなくさないでね。と差し出された紙を覗くとソーマの名前と番号が記されてた。
「当たり前でしょ。アンタだって最近はいい感じにレベルだって上がっているんだから、実力を披露しないともったいないじゃない」
「いらねえよそんな親切心っ!」
余計なお節介だとなおも食って掛かるがルセアはなんのその。
「あっ、勿論クーガーの分も済ませておいたから」
「そうか」
渡された用紙を見ると名前と番号が書いており、しっかりと受付を済ませてきたのが確認出来た。どうやら全員が参加するのはルセアにとっては規定路線らしい。
「開催は三日後。私達のレベルはほとんど同じだから一緒のグループになるだろうけども絶対に負けないから!」
「お前やクーガー相手にまともに勝てると思ってるヤツなんざそうはいねぇよ」
そういって周りを指差すソーマ。クーガー達の周りにいた者達はクーガーも出場するのを聞いて騒いでいた。所属して日は浅いがその実力はじわじわと周知されているようだ。
「お前さんが周りの奴らと比べて頭一つ抜けてるのは周知のことだからな」
「だからこそ挑みがいがあるんじゃない」
「さいですか…」
「さて、受付は済ませたからちょっと訓練場に行って武器を見繕ってこないと」
それじゃあ、と言ってルセアはその場を後にした。
「はぁぁ…、出場が決まっちまったならもうしょうがねぇか。俺もなんか得物を用意しないと…、お前はどうするんだ?候補はあるのか?」
「一応な」
「ま、お前さんのことだから心配するだけ野暮か。それじゃ俺も行くわ」
そういってソーマもその場を後にした。一人残されたクーガーはどの武器を使うか考える。
今では武器スキルから無くなったが扱える得物は幾つかあるクーガー。
「槍でいくか…」
槍ならばそのリーチを生かし間合いを取ってどの相手とでも安定して戦えると考えたクーガー。
ならば少しでも手に馴染ませておくかと、先に向かった二人に続くように訓練場へと向かった。




